M駅前のスーパーの店長、鳥居利江(仮名)は追い込まれていた。
売り上げの落込みが半端なく、本気で首が危うい。何か考えねばならないのである。
「私、筆箱を買いましたの。愛らしいでしょう」
「すばらしいですわ。私はノートを」
「みなさん、甘いですね」
「可南子さん」
「きのう、コンプリートしてきました。こちらがつぼみちゃんTシャツ、これがつぼみちゃん牛乳、それから、」
「令、つぼみちゃんって、何かしら」
さきほど聞いた会話を思い出し、ふときいてみる。
「ああ、駅前のスーパーが作ったアライグマのキャラクターよ。たしかチラシがどこかに…………はい、これよ」
「! これ、ゆ…」
「あ、ほんと、ちょっと似ているわね」
ちょっと?とうとう目までヘタレたのかしら。あの子そのものじゃないの。
不特定多数の人間にこれを売ってるなんて。肖像権の侵害よ、許せないわ。だけどああいう輩に抗議したところで意味がないのは明らかなのよね…。
数日後。
M駅前に某大手スーパーが突如進出し、件のスーパーの閉店が決定した。
鳥居利江(仮名)がどうなったかは定かでない。某グループに引抜かれたといわれているが、京都の元花札屋でネズミの絵を描いているといううわさも有力である。