【1250】 マリア祭がんがれー 、でござる  (允 2006-03-13 04:16:48)


「お願い!瞳子ちゃん。妹になって!!」
「祐巳さまも大概しつこいですわ。ならないと言ったらなりません!!」

 とか言いつつそろそろかなーと思いつつ内面に隠した嬉しさや祐巳さまと話せる楽しさを女優というスキルを大いに活用しつつ、今日も断る瞳子ちゃん。
この事が後に瞳子ちゃんの運命を決める分岐点だったのだろう事は物語の登場人物たる瞳子ちゃんにはやっぱりわからないことなのでした。

 世界は変わらないようでいて、少しずつ少しずつ形を変えて存在していく。それは、紅薔薇の蕾たる福沢祐巳も例外ではなく、悲壮なほどの決意を胸に特攻したあげく、大概とか、しつこいとか言われてしまっては変わらない方がおかしいのです。ええそうですとも、変わるための前フリですから、変わる理由としては正当です。

 と、言うわけで、先の会話があったその瞬間、長く瞳を閉じ、福沢祐巳は松平瞳子の知る福沢祐巳では無くなったのです。まぁ誰が悪いと言うわけではありません。祐巳が瞳子ちゃんの胸のうちを理解しようとしなかったのも、逆に瞳子も祐巳の胸のうちを理解しようともしなかったのですから。

 ここが歴史の分岐点、優しい子にしようと思い、優美と名づけようとしながらも、父のその日の気分で祐巳とされた子の堪忍袋と申しましょうか、祐巳の心の瞳子ちゃん分と申しましょうか、まぁそんな感じの入れ物?っつうか容器?が一杯になったのでした。

 そうして、一呼吸あけた後、ゆっくり瞼をあけながら祐巳は先ほどまでの戦闘意思のカケラもない狸々した顔から一変させ、驚く瞳子ちゃんを尻目に

「わかった。瞳子ちゃんは・・・いいえ、松平さんは私の妹にはならないという事ね?そんなに私のことが嫌いなら言ってくれればいいのにね。私はこんなにも瞳子ちゃ・・・松平さんの事が好きなのにね。わかってくれないのは悲しいことです。」

  瞳子ちゃん絶句

「私は、瞳子ちゃんが妹になったら色んな事をしよう、色んなところに行こう。いっぱいいっぱい、瞳子ちゃんに楽しんでもらおうと思っていっぱいいっぱい計画してたのに。私の全てをわかってもらって、瞳子ちゃんの全てをわかりたかったのに。」

「松平さんなんて呼びたくないのにね。いつかわかってもらえると思ってた。松平さんと私の間には確かな何かがあると思ってた・・・それも私の思い違いだったんだね。」


狢圓辰董ΑΑΝ


 はらはらと涙を流す優美もとい、祐巳の背中を黒い空気を纏わりつかせた某紅薔薇様がそっと押しながら遠ざかっていく。その顔の表情は黒くて見づらいが確実に満面の笑みで。

   狢圓辰董

「さようなら松平さん。お友達もいらっしゃるでしょうから、薔薇の館に来ることはかまいませんが、気軽に私に話し掛けないでね。フラレタ私は傷心なの。」
「さようなら瞳子ちゃん、いいえ、私の妹を振ってなおかつこんなにも深い傷を負わせたんだもの、私も松平さんと呼ばせてもらうわね。松平さんは私の家にも来ないで下さいましね。不愉快ですカラー」
 

  狢圓辰董!待ってよ!!違う!!嫌ってなんかいない!!瞳子は祐巳さまの事が好き!!ほんとは・・・ほんとは妹になりたい!!松平なんて苗字で呼ばないで!!いつものように呼んでほしいんですの!できましたら瞳子って・・・瞳子って呼んでほしい!!祐巳さまのことお姉さまって言いたいんですのーーーー!!







瞳・ちゃ・・


瞳子ちゃん・・・





「瞳子ちゃん!!」

「・・・・え?」


「良かった!!瞳子ちゃん、いくら揺すっても目を覚まさないからどうしたのかと思っちゃったよー。いくら温室だからってこれからの時間は寒くなるしね。」

「今・・・今、瞳子ちゃんって・・・」
「え?いつも瞳子ちゃんって言ってない?・・・・嫌だったの?瞳子ちゃんって呼ばないほうがいい?」
「いいえいいえ、そうでは・・・ありません。」


 いつのまにか流れてしまった涙をハンカチで拭われつつ、祐巳の膝の上の瞳子ちゃんは今までの事、そして、先ほどの夢の事を考えていた。確かに祐巳さまにも悪いことはあったかもしれない。でもそれはそんなにこだわることだろうか。それは紅薔薇の蕾の妹としての、これからよりも大切なことだろうか。否!断じて否!!紅薔薇の蕾の妹として、いや、祐巳さまの妹としての生活のほうが大切ではないか!! 先ほどの夢はそれを瞳子に教えてくれたのではないだろうかと。
 そんなことを思いながら、瞳子ちゃんはある決心をしたのです。決心をしたからには瞳子ちゃんの行動は素早いのです。場所的にも紅薔薇と紅薔薇の蕾の思い出のある場所。言うなれば、紅薔薇姉妹にとって由緒正しき場所と言っても過言ではないのです。あぁ私にとっても思い出深い場所になるのですわと。

「あの・・・祐巳さま?」

 緊張しながら祐巳の前に跪き、一番かわいいと思われる角度で祐巳を見上げる瞳子ちゃん。それを見ながら祐巳も戸惑いながら瞳子ちゃんと目線を合わせるために跪く。

「祐巳さま、今まで断りつづけて申し訳ありませんでした。こんな瞳子でもよろしいのでしたら、妹にしていただけませんでしょうか?」

今ごろ気づく祐巳。そして、

「もちろんだよ、瞳子ちゃん。いや、違うね。このロザリオをかけたら瞳子ちゃんは妹になるんだもんね。だから、こう呼ぶよ。瞳子、こんな姉だけどお姉さまって呼んでくれるかな?」
「もちろんです!瞳子の姉は福沢祐巳さましかいませんわ!!」
「ありがとう!!瞳子ちゃん!!私、頑張っていい姉でいられるようにするからね。もうさっきまでのように悲しい涙を流させないようにするからね」
「いいえ、私もお姉さまを悲しませるような妹にはなりませんわ!」


 いつのまにか陽も落ち、星も瞬くようになってきて温室の中も冷えてきた頃、一人立つ少女とその目の前に跪く少女が暗闇の中、佇んでいました。その後、一人立つ少女の首から佇む少女の首へ何かがかけられ、二人連れ添って温室を出て行ったのでした。そして、その時の二人の表情は、暗闇の中でも輝くような笑顔でしたとさ。



                                        終わり


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