「・・・ということで、新学期早々ですが、菜々が私の妹になりました」
「皆様、よろしくお願いします」
菜々がぺこりと頭を下げると、紅薔薇、白薔薇姉妹が笑顔と拍手で迎えてくれた。
ようやく私にも妹が出来た。面白そうだから、なんてあの凸みたいな理由でロザリオを受け取ってくれた事だけが気掛かりだけど、なんとかなる・・・と思う。
ふーっと大きなため息をついて志摩子さんが呟くように言った。
「これでやっと由乃さんにも最後の引き継ぎの話が出来るわ」
「最後の引き継ぎ?何それ?志摩子さん」
「あ・・・あれかぁ・・・」
むむ、祐巳さんまで苦笑いしてる。
「なに?祐巳さんも知ってるの?私だけ知らないってどういうことよ!」
「それは令さまに言ってくださらないと・・・怖いから話したくないってお逃げになられたんですもの」
「「逃げた?」」
なんだそりゃ?逃げなきゃいけないような事なの?とりあえず、令ちゃん正座1時間の刑決定。
「良い機会だから瞳子にも話しておくね」
「はぁ、何のお話でしょうお姉さま」
にっこりと微笑む祐巳さんに、瞳子ちゃんが小首を傾げながら訊ねている。
「紅薔薇家家訓、というか心得ね。悪魔で優雅に、慇懃無礼、筋を通して道理も通せ」
「えっと、『あくまで優雅に』の間違いではないのですか?」
「あら、間違ってないわよ。先々代の蓉子さまも言われていたわ。紅薔薇家は山百合会の顔、にっこり笑って叩き伏せるのが仕事よ、と」
ちょ、ちょっとそれって確かに歴代の紅薔薇さまの技だけど、祐巳さんも受け継いでいたわけ?
「・・・はぁ。私に出来るでしょうか?」
「出来るか、じゃないの、やるの。い・い・わ・ね?」
うわっ、顔は笑ってるのに目が笑ってないよ。一語一語区切って言うあたりも怖いわ。
「は、はいっ!」
「乃梨子は判っているわね?」
「はい、白薔薇家は影、元謀術策、火のないところに煙を起こせ、ですね」
はぁー??いつの白薔薇よ、それ。
え?もしかして、聖さまがふらふらしてたのや、志摩子さんがふわふわしてるのって、表の顔ってこと?
「えぇ、山百合会の謀は私達の担当、表舞台で交渉する紅薔薇家を支える仕事ね」
「ま、裏であやしい噂流して、ポーカーフェイスを決め込むくらいは楽なものです」
「ふふふ、いい子ね、乃梨子は・・・」
そう言って乃梨子ちゃんの頬を撫でる志摩子さんの目が妖しく輝いてるよ。黒薔薇ですか?
「あ、あ、あぅぅ、志摩子ひゃん」
「な、なるほど、山百合会での役割を家訓として伝えていくという訳ね。でも、なんで令ちゃんは教えてくれなかったんだろ?」
黄薔薇にも伝統みたいなものがあるならきちんと伝えてくれないと、大恥かくのは私なのよ。令ちゃん正座に石抱きの刑も追加ね。
「・・・それはね、由乃さん」「令さまが黄薔薇家の教えを実行されなかったからなの」
「はぁ??実行しなかった?」
「令さまったら、お姉さまのサポートに徹して居られたものねぇ」
ちょっとー。もっと分りやすく言ってよね。令ちゃんが仕事サボるような性格じゃないし、そんなに嫌なことなのかしら?
「で、結局黄薔薇家の家訓って何よ!?」
イライラしながら私が訊ねると、祐巳さんと志摩子さんが微笑みながらこうほざき・・・言ってくれた。
「「黄薔薇はイロモノ、暴走特急、治に居て乱を起こす」」
い、イロモノー?!誰がじゃーー!!
「学園内で揉め事が起これば、黄薔薇が撹乱し、白薔薇が暗躍して、紅薔薇が治める。それが三薔薇の分担なのよ」
「最初は江利子さまから伝えてあると思っていたのよ。令さまよりも由乃さんが黄薔薇家らしい働きをしていたから」
「それが、令さまが『由乃には何も教えてない・・・分かったら暴れるに決まってる。怖いんだもの』と」
「あの、ヘタ令は・・・」
令ちゃん石抱きの刑は砂利の上決定ね。
「江利子さまに聞いたら『由乃ちゃんは素のままが面白いから』とも言ってたわね」
「凸っぱちがぁぁぁぁー!!」
取っ捕まえて額をクレンザーで磨いてやるー!
「あの、もしかして私もそれに含まれるということでしょうか?」
それまで黙っていた菜々がポツリと漏らした。言ってやりなさい!黄薔薇の威厳にかけて!
「うーん、そうなるかな。・・・菜々ちゃんは面白いこと嫌い?」
「・・・いえ、好き勝手に動いて良いというのであれば、楽しめそうですのでかまいませんが」
「ん、期待してるね」
良いんかい?!そんなところまで凸に似なくて良いのに、ロザリオ返してもらおうかしら・・・。
「ということで」「由乃さんは今までどおり面白おかしく暴れてくれていいから」
「私はお笑い芸人かぁーーー!!」
「「だって、黄薔薇だもの」」
絶対、納得いかないーー!!