私は賢者蓉子。三賢者(通称Magi)のうちの一人、赤の賢者(マギ・キネンシス)である。私達は旅費が尽きてしまった為、バイトをすることになった(No.89)のだが……。
「何で私がこの仕事なのよ!」
その仕事の内容は実に納得出来ないものだった。
「そりゃあ、ねぇ?」
「確かに。あんな真面目な履歴書を書いたら、そうなるわね。」
この国でのバイトは、自分で選ぶ事が出来ず、各々の能力にあったものが斡旋される。
「貴方達二人は実に『らしい』格好をしてるわね。」
「そう?私は本当は『怪盗ロッサフェティダ』がやりたかったんだけどね。」
いつもの格好をした江利子が、ガッカリしたように言う。ちなみに、江利子は占い師になったのでいつもの服装だ。
「私は暗行御使がよかったなぁ〜。…可愛い山道を伴って……」
もはやダメダメの聖がロクでもない事を言っている。こんな奴がアメンオサなら、国は救われないだろう。ちなみに、聖はこの国の一時軍師に採用された。真白な軍服が様になっている。
「貴方達、どんな事を履歴書に書いたら、そんな『らしい』仕事になるわけ?」
日頃の言動からは、とてもそうなるとは思えない。
「別に大した事は書いて無いわよ」と江利子。
「私もよ。なんなら見てみる?」と聖。
二人が見せてくれた履歴書には……
名前:賢者江利子
我は予言者。ありとあらゆる真実を見通し、汝らに光の道を差し示さん。
名前:賢者聖
我は軍神。四面楚歌であろうとも、機知と力で勝利をもたらさん。
二人の履歴書には、これ「だけ」しか書いていない。他の欄は全て無視されている。
……なるほど。これなら、あの仕事先も理解できる。どうせ、江利子は面白いから、聖はめんどくさいからあんな事を書いたのだろう。しかし、二人があれで、真面目に書いた私がこの仕事なんて、あまりにも報われない。
「蓉子、諦めなさい。軍の仕事が終わったらそっちに行ってあげるから。」
と聖がニヤニヤしながら言ってくる。
「それにしても、蓉子が料理店のメイドとはねぇ。…今から楽しみだなぁ、蓉子のメイド姿。」
「おまえは来るなー!」
軽く聖をぶん殴ってから、自分の履歴書を改めて見てみる。
名前:賢者蓉子
特技:家事全般
趣味:料理
資格:称号二つと、料理検定1級
Like:静かな一時。
DisLike:暴走する聖や江利子。
…生まれて始めて、真面目な性格を呪った。
また続く