注:はやて×ブレードとのクロスオーバーです。
「それでは、よろしくね」
「はい、行って参ります」
「あのぉ、普通に郵送にされてもよろしいんでは無いかと・・・」
「黙りなさい」
「うわぁーん、いじわるだー」
生徒会選挙も終わった三学期のある日、リリアンの背の高い門の前に一人の少女が立っていた。
膝上の少し短い丈のスカート、純白の制服、長めの鉢巻をキリリと締め、凛々しく涼やかな眼差しでリリアンの乙女達を眺めやっている。
純真でうわさ好きのリリアンの淑女達も何事かと興味深そうに、しかし遠巻きに正門の前に立つ彼女を見ている。と、そこへカメラを抱えた少女が近づいて来た。
近づいてもらわないことには話しかけることも出来ないから助かった。
「失礼。申し訳ありませんが、こちらの生徒会室への道を教えていただけませんか?」
「生徒会室?あぁ、薔薇の館ですね。どうぞ、ご案内致します」
「いえ、教えて頂くだけでよろしいのですが」
「まぁまぁ、これも何かの縁ですし。
あ、一枚良いですか?素敵な制服ですなぁ。珍しい制服の方が居ると聞いて飛んで来て正解でしたわ」
武嶋蔦子です、と名乗ってパシャリとシャッタを切る。
「はぁ・・・」
「あ、笙子ちゃん、行くよー」
「はい」
カサリとも音を立てずに茂みの中から笙子と呼ばれた少女が現れたことに驚く。よく観察してみると蔦子と名乗った少女もほとんど足音を立てていなかった。
「こちらですわ」
案内されたのは破風屋根の二階建ての小さな建物。
「これは・・・・・・生徒会室が独立しているのですか?」
「えぇ、随分と古い建物ですけどね。さ、どうぞ」
勝手知ったるなんとやら、建物の玄関を開け、奥にある階段を上り焦げ茶色のドアの前に立つ。
「祐巳さーん。お客様お連れしたわよ」
コンコンとノックすると中から両おさげの少女が顔を出した。
「え?もう来られたの?今から迎えを出そうとしてたところだったんだけど」
「あぁ、お構いなく。私が早く着いてしまったのですから」
「申し訳ありません。それではこちらへどうぞ。瞳子、お茶をお願い」
蔦子は案内役が終わったと、笙子を引き連れて薔薇の館を後にした。
招かれて中に入ると、簡素ながらも落ち着きのある室内に目を見張る。自校の豪華な執務室とは違った趣に感嘆のため息が漏れる。
長テーブルの脇の椅子へと案内される。椅子もテーブルもそれなりに時代を経ているようで、ギシギシとわずかな音を立てていた。
旧時代に流行ったような縦ロールの少女が静かにティーカップとソーサーをテーブルに置くと一礼して先程の両おさげの少女の隣に座る。
カップから立ちのぼる湯気からわずかな香りが広がり、口に含むと深く豊かな味が響く。確かこれはニルギリだっただろうか・・・。
「あらためまして、天地学園高等部一年、宮本静久です。
本日はひつぎさま、いえ、生徒会長からの書簡を支倉令さまへとお届けに参りました」
そう言うと静久と名乗った少女は懐から巻紙を取り出した。
「ごきげんよう。私がリリアン女学園高等部三年支倉令です。
遠いところをわざわざお越し頂きありがとうございます。それでは失礼してお手紙を拝読させて頂き・・・・・・」
巻紙を受け取り、令はしばらく読み進めていたが、ふいに視線を天井に向けるとそのままふぅっと深いため息をついた。
「令、どうしたの?」
「あ、あぁ、祥子。・・・それで、返事はいつまでに?」
「できれば承って帰りたいと考えております」
ふむ、と顎に手を当て思案顔をした令は意を決するように一度うなずき。
「分かりました。・・・由乃、今から菜々ちゃん呼び出せるかしら?」
「うーん、分からないけど、見て来る」
「うん、では果し合いお受けしますとお伝えください」
「ご返事承りました。それでは失礼します」
令の言葉ににっこりと笑うと、静久は一礼し部屋を出て行く。慌てておかっぱ頭の少女が道案内にと飛び出して行った。
「ふーん、天地学園の用事って、令ちゃんとの果し合いだったんだ・・・・・・」
長い三つ編みを玩びながら島津由乃はポツリと漏らし、そしてピタッと固まった。
「「「「「果し合い!?」」」」」
その場にいる全員が同時に叫ぶと令に詰め寄った。それを片手で制してにっこりと微笑むと。
「説明するから、由乃、菜々ちゃん呼んで来てくれないかな?
あの子高等部に上がったら剣道部に入る気はあるんでしょう?頼みたいことがあるからさ」
「え、あ、うん、行って来る・・・・・・」
微笑みながらも鋭い眼光で見つめられ、由乃は薔薇の館を飛び出し中等部へと向かった。
「ただいまー、菜々見つかったよ」
「ごきげんよう。支倉令さまが何かお呼びだということですが、面白いことですか?」
薔薇の館の執務室に入り、開口一番有馬菜々は令に疑問をぶつけた。
迎えに来た由乃が何も知らないことを逆に楽しむような子だ。
「まぁ、菜々ちゃんらしいというか。
そうね、菜々ちゃんが剣の道を極めたいなら面白いことね。果し合いの立会人を勤めて欲しいのよ」
「果し合い!?今の時代にですか?やります」
「はははは、そう言ってくれると思ったよ」
令は笑いながら先程宮本静久が座っていた席を指さし菜々を座らせた。
「それで、令、どういうことなのか説明してちょうだい」
静久を送りに行っていた少女二条乃梨子も戻り、七人の視線が令に集まる。
「そうだね、由乃にも話したことは無かったんだけど、私が中等部、高等部に上がる時に別の学校から誘われてたことがあったのよ」
「それが天地学園ですか?」
「そう。あそこには剣技特待生というのがあって、防具もつけずに木刀のような物で競い合うの。
そして一定以上勝ち星を上げるたびにランクアップして、最上位に登り詰めると学園の全権を握ることができる、ってところでね。
並の剣道で飽き足らなくなったアウトローの溜り場にもなってるわ」
全員が目を丸くして令の話に注目している。
「つまり、あなたの腕に目をつけて誘って来ていたというわけね?
天地学園といえば確か、天地家のご息女が学園理事兼学園長兼生徒会長ではなかったかしら?」
「うん、祥子は知ってるようだけど、そのご息女。天地ひつぎさんを中等部の時一度負かしてね、それ以来しつこく果たし状送って来られてたんだけど・・・。
私ももう卒業だし、これが最後の機会だから受けてみようかな?ってね」
縦ロールの少女、瞳子が手を上げた。
「何故令さまは、その剣技特待生を受けられなかったんですか?」
「あぁ、天地学園の剣待生は二人一組でないとダメなの。それがちょっと性に合わなくてね。
自分独りの力を極めてみたいってのがあったから。
それに、当時は由乃と離れるの嫌だったからね。基本的に全寮制なのよあそこ」
肩を竦めて見せる令。由乃は机に突っ伏しながら令を睨む。
「はぁ・・・令ちゃんにそんな事があったなんて知らなかった。何で教えてくれないのよ・・・」
「うん、結局行かなかったからね。怒ってる?」
「怒ってない。私だってもう薔薇さまだよ。いつまでも令ちゃんべったりじゃないんだから」
そう言いながらも頬を膨らませ口を尖らせている。
「それで、果し合いの相手は誰なの?」
「ん、だから天地ひつぎさんよ。よっぽど恨み買ってしまったかな」
祥子の問いに令はうーんと唸りながら腕を組んで考え込む。
「その方お強いんですの?」
「そりゃ、最上位に君臨する女帝だからね。あそこは最低レベルが剣道有段者だから、どの位になってるんだろう?」
未知数の能力の相手と仕合うと聞いて全員が不安気な顔を見合わせる。
「大丈夫なの?令ちゃん」
「うん、今までは剣道家以外との手合わせは断ってたんだけど、これが最後の晴れ舞台、全力でいかせてもらうわ」
自信に満ちた笑顔で答える令。しかし・・・。
「れ・・・令ちゃんがヘタレてない!」
「ひどいよ由乃ぉ〜」
由乃の言葉に全員がずっこけた・・・。