すみません、新刊が出て盛り上がってるというのに全然空気を読んでいません。
【No:1168】→【No:1177】→【No:1203】→【No:1215】→五話(1/3)
(※これは『新世紀エ○ァンゲリオン』とのクロスです。 クロスオーバーとかGAINA×とかが苦手な方や、この手のSSはもうたくさんな方はご注意ください)
「ごめんなさい、私がしっかりしなくちゃいけないのに、少し神経質になってたわ」
聖さまは初めから祐巳を連れ帰るつもりで来たわけではなかった。
ただ、最後にもう一度、パイロットとか作戦部長とか抜きにちゃんと話がしたかった、そう言っていた。
「ううん。 もういいの。 でも私が前線で戦うんだから私の話もちゃんと聞いて欲しい」
「そうね。 判ったわ。 作戦については祐巳ちゃんの意見も聞くようにするから」
でも、祐巳がやる気を出していたのでなし崩しに帰るのは中止、登録抹消は無かったことにするそうだ。
これに関しては、パイロットの確保とかなにやら思惑もあったみたいだけど、祐巳は聖さまがちゃんと対話の姿勢をとってくれるのなら良いと思っていた。
「あと……」
「うん? なあに?」
「いつまで抱きついているんですか?」
「いいじゃない。祐巳ちゃんって柔らかくて抱きごこち最高」
リビングで話をしていたのだけど、聖さまはわざわざ祐巳の後ろに回って抱きついていた。
「はぁ……」
残念ながらここには聖さまをけん制してくれるお姉さまはいない。
〜 〜 〜
祐巳の登録抹消が無かったことになってから数日後。
聖さまに連れられて祐巳は先日倒した敵生体の解体現場に来ていた。
「これが敵……」
なんて、感慨深く呟いてみても、実はシートに覆われていてそれを直接見ることはできなかった。
でも、解体した一部分だけでも普通の建物の二階分はあるプレハブの天井に届くくらいの大きさがあって、こんなものと戦ってたんだって思うとちょっと怖くなった。
「なるほどね、コア以外は殆ど原形を留めているわ。 本当、理想的なサンプル、ありがたいわ!」
上から降ってきた声に顔を上げると、足場の上に白衣を着て頭には工事用のヘルメットを乗せた蓉子さまがいた。
ちなみにこのヘルメット、祐巳と聖さまもここに入るときに渡されていて、祐巳はしっかりかぶっているのだけど、聖さまは暑いからとあご紐を首にかけて背中側にぶら下げていた。
「……で、何かわかったわけ?」
蓉子さまについていって、祐巳たちは端末の並んでいる場所に移動していた。
「なにこれ?」
モニタにある『601』という数字をみて聖さまが聞いた。
「解析不明を示すコードナンバーよ」
「つまり訳が分かんないってこと?」
「使徒は粒子と波両方の性質を備える光のようなもので構成されているのよ」
「でも、動力源はあったんでしょ?」
「らしきものはね。 でもその作動原理がまだサッパリなのよ」
何を言ってるんだかサッパリ。
「まだまだ未知の世界が広がってるわけね」
祐巳には会話全体が未知の世界だった。
「とかくこの世は謎だらけよ」
まったくだ。
思わずうんうんと頷いてしまった。
「例えばほら、この使徒独自の固有波形パターン」
「どれどれ?」
モニターを覗き込む聖さまに習って祐巳も覗いてみた。
が、祐巳が見ても何だか判らない図形にしか見えなかった。
でも聖さまは驚いたように声を上げた。
「これって!」
聖さまは判るらしい。
「そう、構成素材に違いは有っても信号の配置と座標は人間の遺伝子と酷似しているわ。 99.89%ね」
「99.89%って……」
「改めて私たちの知恵の浅はかさってものを思い知らしてくれるわ」
祐巳は下手に相槌を打って聞き返されたら墓穴を掘るだけなのでなるべく黙って見ていた。
なのに蓉子さまとの会話が一段落したところで困ったことに聖さまは祐巳に振ってきたのだ。
「祐巳ちゃん、どう?」
「え? どうって?」
「あなたの倒した敵よ?」
そういわれても、難しいことは祐巳には判らない。
でも蓉子さまと聖さまはそのお美しいお顔で並んで祐巳に注目していた。
これは何か答えないと……。
「あの、生き物……なんですよね?」
『動力』とかなんとか言ってたから。
でもロボットじゃなさそうだし。
祐巳の質問には蓉子さまが答えて言った。
「そうよ。 まあ普通の生物の概念が当てはまるかどうか怪しいところだけれど」
一応、生き物ってことだよね……。
だとするとすごく素朴な疑問がわいてくるのだけど。
でもそれを言ったら素朴すぎて呆れられてしまうかも。
そんな祐巳の顔を見て聖さまは言った。
「どうしたの? まだ聞きたいこと?」
「え? いえ、なに食べて生きてるのかなって……」
お二人は祐巳の顔を見たまま一瞬、沈黙した。
「えっと、あんなに大きい生き物だったらその、食べ物とか大変ですよね?」
「……」
うっ、やっぱり言わなければ良かったかも。
でも、少しして蓉子さまは「いい質問だわ」って言って表情を輝かせたので、祐巳はほっとした。
そして蓉子さまは言った。
「そうね、生き物と言うからには生きて活動するためにはエネルギーが必要。 そのために地球上の普通の生物は捕食する。 捕食した炭素化合物と空気中から取り入れた酸素で化学反応でエネルギーを得ている、これは動物の場合ね。 同じ生物でも植物は太陽の光のエネルギーを利用してそれを化学エネルギーとして蓄えて利用するわね。 でも、使徒という敵生体はそのどちらにも該当しないのよ。 彼らは何らかの外部からの補給を必要としない動力源を体内に持っていてそこから活動に必要なエネルギーを得ているの。 だから基本的に捕食などの外部からのエネルギーの補給は必要ないのよ」
うわあ。
ほっとしている場合じゃなかった。
なにやら得意げに説明した後蓉子さまは「判ったかしら?」なんて顔で目を輝かせてる。
「え、えっと、つまり……」
これは「なにを食べてるか」の答えだよね、えーとえーと……。
「……何も食べないで生きていけるってこと?」
「そうよ」
正解でした。
なんか質問の答えなのに、クイズみたいだ。
蓉子さまはさらに付け加えた。
「外部との代謝が必要ないからどんな環境でも、そうね宇宙空間でも生きていけるわ。 つまり個体で完結しているというわけね」
なんかすごい。
敵ながらあっぱれといったところか。
誰の助けもいらない。
自然の恩恵さえも。
ただ独りで生きていける。
でもなんかそれって……。
「……まだなにか質問?」
「え? いえ、なんか寂しいなって思って」
「寂しい?」
「ええ。 なんとなくですけど」
「ふむ……」
蓉子さまはなにやら考え込んでしまわれた。
「これがコアか。 残りは?」
聞き覚えある声が聞こえてきた。
「それが劣化が激しく資料としては問題が多すぎます」
「構わない、他は全て破棄してくれ」
この無駄に爽やかな話し方は。
振り返ると案の定、柏木さんとその隣には祐麒までいた。
司令副司令コンビだ。
二人はクレーンで吊るされた何か残骸の前で作業員と話をしていた。
祐巳はそんな二人を目で追っていた。
「どうしたの?」
「え? いえ、柏木さん、手、怪我してるみたいだから……」
背中で組まれた柏木さんの掌が赤くただれたようになっていた。
確か執務室で会った時は白い手袋をしていた。
今日は外で暑かったのか柏木さんは手袋を外していたのでそれを見ることが出来たのだ。
「怪我? ああ、あれか……」
なんだろう?
聖さまは柏木さんの方を見ながら難しい顔をした。
「手の火傷のことね?」
蓉子さまが答えた。
「火傷?」
「ええ、祐巳ちゃんがここに来る前よ。 起動試験で零号機が暴走して。 あの時、聖もいたでしょ」
「……居たわよ」
「その時にね、パイロットが中に閉じ込められたの」
「パイロットって、志摩子さんですよね?」
「そうよ。 柏木司令と聖が彼女を助け出したの。 加熱したハッチを無理やりこじ開けてね」
「柏木さんと聖さまが?」
「手のひらの火傷はその時のものよ」
「じゃあ、聖さまも?」
祐巳は聖さまの手を見たが、火傷の跡らしきものは無かった。
「まさか。 司令が女性に火傷するようなことさせるわけ無いでしょ」
「くそう。思い出してもいまいましい……」
なんだろう。
柏木さんと聖さまの関係は、ここでも険悪というか相変わらずいがみ合っているらしい。
でも、柏木さんが火傷してまで志摩子さんを助けただなんて。
司令って立場でふんぞり返っているだけかと思ったら、なかなか格好いいこともするんだ。
でも祐巳は、柏木さんがポイントを稼ぐのは面白くなかった。
------------------------
・方針:各話ごとの区切りに拘らない。
→膨らんだら無理せず小出しにする。逆に内容が少ないのは思い切って統合する。
・とりあえずラミエルの話は終わりまで書きます。多分。