【1311】 いまさらですか・・・パラレル祐巳のハッピーデイズ  (さめはだ 2006-04-06 01:02:12)


No.1304の続き書いてみ?と感想が付いていたので、1時間程度で書いた手抜きですが、まあ、その、お暇な方はどうぞ。


2、


福沢祐巳には高等部に入ってから親しく付き合い始めた友人が二人居る。

「お弁当が無いなら食堂に行けば良いでしょうに、祐巳さんが甘やかすから栞さんが付け上がるのよ」
「えっ、そうかな」
「そうよ」

昼の一年桃組の教室。休み時間も真ん中に差し掛かった頃に現れた彼女、祐巳の親しい友人その二である蟹名静は、何時も通りに美しい声でツッコミを入れてから、何時も通りのカニさんの絵が可愛いお弁当の包みを開く。
隣のクラスからわざわざ遠征して来てくれる静さん。
一カ月ほど前に音楽室の掃除をしながら祐巳が自らの塵取りの才能の無さを嘆いていると、「じゃあ、箒をやれば良いじゃない」と言うツッコミを入れて来たのが出会いであり、その後、「危なっかしくて見ていられない」と言う理由から付き合いが始まった彼女は、ボケ二人に囲まれるという恵まれた環境の中でそのツッコミ能力を日々成長させている。

「祐巳さん、祐巳さん、」

そんな静さんとの出会いの時には自分の箒の才能を静かに誇っていた久保栞さん、友人その一である彼女の声が聞こえたので、ゆっくりと祐巳は其方の方へと視線を向けると、「はい、アーン」とそれはもう楽しそうにミートボールを差し出してくる天然さんが視界に映った。
合唱部期待のホープ兼栞さん曰く「カニー」な静さんを目の前にして何たる豪胆さか。
しかし、先程のお返しだろう少女の行動を無碍に扱うことなんて祐巳には出来ない。

「アム」
「祐巳さん、それに栞……」

お箸でカニクリームコロッケを半分に割っていた静さんの呆れた視線が祐巳達に突き刺さる。
その目は本気でツッコむ目だと祐巳の第六感である[タヌキセンサー]が警報を鳴らした。
蟹名静の本気のツッコミは凶器に等しい、その鋭さはボケや天然という概念を容赦なく切裂くので、ミートボールを食べ終えた祐巳は被害を最小限に抑えるために口を開く。

「えっと、その、お箸が無かったから、」
「祐巳さん、静さんは手掴みで食事をしろと暗に仄めかしているの。 都会の掟は恐ろしいわ……」
「えッ、そうなのッ!?」

気弱なボケである祐巳は表情をクルクル変えながら言い訳と言う名の努力をするが、得意料理が長崎チャンポンという地方経験者である栞にそれを止められ、驚愕の視線で静を見た。
伝家の宝刀も抜かず、眉間に指を当てている彼女は何を考えているのだろう。

「あなた達はそれが普通なのよね……」

祐巳程度ではその思考を読む事は出来ないが、半分に割ったカニクリームコロッケを「食べなさい」とお弁当箱ごと栞に差し出す彼女は姉御肌なのは間違いない。
「ありがとう、静さん」と言って、祐巳が使っていた箸を使い、本当に美味しそうにコロッケをほうばっている天然シスターが犬属性の妹肌であるのと同じくらいに。

「美味しい、母の味ね」
「冷凍食品よ、それ」
「えい」
「あっ、イチゴを」

お箸が無い祐巳は素手でも食べられるウサギさんカットのリンゴを摘まみ、数分まで気落ちしていたのに、今は元気一杯に静さんのお弁当を荒らしている栞さんとの出会いを思い出す。
そう、あれは入学式の日――
同じクラスに新入生代表の小笠原祥子というビッグネームが居て、「うわ、もの凄い美人」と思った矢先、隣に座ったのが名前も知らない美少女の久保栞だった。
出席番号はかなり遠いのに何故か隣になった彼女。
とても綺麗で、とても柔和そうで、その外面の輝きで本質が掴めなさそうな、そんな雰囲気の持主で、祐巳が最初に交えた言葉は、

「ご、ごきげんよう」
「ごきげんよう」

そんなリリアンでは普通の挨拶。
それが原因だったのか緊張がピークに達して、急にお手洗いに行きたくなった祐巳は席を立って恐縮しながら廊下に出た。
何故か、後ろに久保栞を付けて……

(う、気に触ることでもしたのかな、私)

あまりに精巧な容姿のため少女がお手洗いに行くという事実を脳内で削除した祐巳は、早足でトイレに駆け込もうとするが速度を上げると後ろの彼女の速度も上がる。

「あっ、祐巳さ――」

途中で中等部の時の友人に呼び止められそうになるが、それに答える余裕なんて無い。
友人の名は築山美奈子。 現在は新聞部で辣腕を振い、己の道を歩み過ぎて藪に突っ込む女だ。 彼女の最初の記事は、小走りで廊下を移動するタヌキと美少女と言うシュールな物になったのは言うまでも無い。

――閑話休題。

お手洗いで生理的欲求を処理した祐巳はスッキリした気分で教室に戻った。
時計を見ると後少しで担任の先生が来る時間。 周囲を見回すとほぼ全ての席が埋まり、全員が担任の教師を――

「あっ」

隣に居る筈の彼女が居ない。
その事に気が付いた祐巳はキョロキョロと再度周囲を見回し、やはり隣人がいない事を確認すると何やら胸騒ぎを感じた。
先ほど彼女が急いでいたのは、
実はもの凄く気分が悪くかったのでは、
もしかしたらお手洗いでダウンしているのでは、
考え始めると切りが無い。
歳の違う弟が居るため「お姉ちゃんパワー」が使えてしまう祐巳は、少しだけお人よしで、少しだけ行動的だ。

(汝隣人を愛せよって言うし)

周囲に笑顔を振り撒きながら教室を出て校舎の隅にあるトイレまで急ごうとすると、ぼんやりと窓際に立つ少女の姿が見えた。
春の微風に黒くて長い髪を弄ばせる彼女はとても綺麗で、とても儚く見える。
声を掛けるべきか少しだけ悩んだ祐巳であったが、時間が無かったため放って置く事は出来ず、肺から息を吐き出し声帯を震わす。

「えっと、もう先生が着ちゃうよ?」
「ほえっ?」

肩をビクつかせて中庭の方に向けていた視線を祐巳に合わせてきた美少女は、何か酷く子供っぽく見える。

「あなた、隣の――」

二度目に交わす事になった言葉は、自己紹介になる言葉だった。
この後、彼女がなんで急いでいたのか判り、その傍迷惑な才能に四苦八苦させられるのだが、それも今はいい思い出である。
一つ言える事は、

「はぅ、栞さん、何やっているの?」
「うん、祐巳さんが話し掛けても答えてくれないから、その、」
「第三者から見れば、ツーテールを掴まれて気が付かない人間も、相手にされないからってツーテールを引っ張る人間も、どちらも変にしか見えないわ」

福沢祐巳には親友かもしれない友人が二人いる。
一人は、シスターを目指す素敵な美少女で実はお子様属性も持つ久保栞さん。
もう一人は、「天使の歌声」を使って冷めたツッコミをする底が見えない蟹名静さん。
同じクラスに小笠原祥子さんという最強お嬢様が居るが、この二人も中々の曲者だと祐巳は思っているので、どちらかが「白薔薇の蕾の妹」とか「紅薔薇の蕾の妹」になるかもしれない。

「楽しい、栞さん?」
「うん、でも、祐巳さんは疲れた象みたいな目をしてる」
「それは、あなたが移動する度に服の裾を持ったりするからでしょう?」
「静さんそれは違うよ……あー、手は繋いでるけど」
「えっ、」

これは何だかモテているかもしれないが、それに気が付かず、ぼんやりと一年生やっている福沢祐巳(一学年下に弟あり)のお話である。





つづけばいいのに、そんな事を星に願ってみる。


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