【1316】 今朝の占いでAutomatic急転直下  (いぬいぬ 2006-04-08 13:27:51)


『今日から新学期の貴方! 新しい仲間と打ち解けるのも大事だけど、あまりいっぺんに自分のことをさらけ出しちゃうと逆にひかれちゃうかも! 』

 リリアン中等部の入学式の朝、志摩子が何気なく見たTVからは、そんな朝の占いが流れていた。
「・・・・・・やっぱり、寺の娘だってことは秘密にしておいたほうが良いのかしら? 」
 占いを気にして、そんなことを思う志摩子。
 それがまさか、4年以上も続く深い悩みになるとは。ましてや全校生徒の前でそれを告白するハメになるとは思いもせずに。





『今、悩みを抱えているあなた! 悩みを打ち明けて相談するのも良いけれど、相談された相手に必要以上に心配をかけることになるかも?! 』

 梅雨どきのある朝、偶然にも同じ占いをTVで見ていた祥子と祐巳は、『そうね、あまり自分の悩みを押し付けるべきじゃないかもね』と、互いに姉妹を思いやり、祥子はお婆さまのことを、祐巳は最近祥子につきまとう瞳子のことや、それによって自分が祥子に距離感を感じていることを、自分の胸のうちにしまっておくことを決意した。
 それが、後に大騒動につながるとも知らずに。





『いつもクールに生きているあなた! たまには遠い土地に出かけて冒険してみるのも良いかも! 』

 中学生最後の冬、京都に出かける前に見たTVでそんな占いを目にした乃梨子は、「京都くらいじゃ冒険ってほどじゃないけど、さいさき良いなぁ」と、上機嫌になった。
 まさかこの後、大雪が自分の人生に強制的に大きなターニングポイントを作るとも知らずに。






『今日、勝負ごとに挑むあなた! 何ごとにも挑戦することを恐れてはいけません! 』

 体育祭の朝、TVでそんな占いを見て「あたりまえじゃない! 私はいつだってチャレンジャーよ!! 」と気合を入れる由乃。
 その無駄に勢いのあるチャレンジャースピリットが、後に江利子と大変な約束をする原因になり、それを解決するには自動的に半年以上もの時間を必要とする一大アドベンチャーを体験するハメになるとは思いもせずに。





 3月。卒業をひかえている祥子と令が久々に薔薇の館を訪ねてきており、山百合会のメンバーは久々に勢揃いしていた。
 特に急ぐ仕事も無い館の中には、ゆるやかな空気が流れている。そんな中、令は何気なくこんなことを言い出した。
「そう言えばさ、みんなは朝のTVなんかでやっている占いって見てる? 私、けっこうアレが好きで・・・・・・」
「 令 」
 令の言葉を途中でさえぎったのは祥子だった。
「何? 祥子」
「占いなんてものに頼っていると、ろくな人生を送れないわよ? 」
「ええ?! 何で? 」
 祥子の占いを全否定するような言葉に驚く令。
「何か占いでイヤなことでもあったの? 」
 令の質問には答えず、静かに紅茶を飲む祥子。しかし、答えずとも、その全身から立ちのぼる怒りのオーラが全てを語っていた。
「ま、まあ祥子は嫌いみたいだけど、みんなは・・・ 」
 気を取り直して会話を再開しようとした令だが、言えたのはそこまでだった。
 多少引きつった笑顔で部屋の中を見渡すと、誰一人笑っていないのだ。それどころか、全員が静かな緊張感に満たされていた。
「令さま、私もお姉さまと同意見です」
「ゆ、祐巳ちゃんも?! 」
「私もあまり感心しませんわ。占いに頼ることは」
「志摩子まで?! 」
「そんなんだから“へた令”なんて呼ばれるのよ!! 」
「・・・そういうあだ名は、本人には聞かせないで欲しいな、由乃」
 2年生トリオに撃沈され、へこむ令。
「な、なんでみんなしてそんな・・・・・・ ひょっとして乃梨子ちゃんも? 」
「いえ、その・・・ 全てが悪いとは言いませんが、へたすると人生踏み外す原因になるかと」
 確かに、占いどおりの行動で受験に失敗し、人生踏み外したとも言える乃梨子だが、その後の志摩子との出会いがあるため、全否定はできなかった。
「そんなぁ・・・ 」
 誰一人賛同者がいないことにショックを受け、うなだれる令。
 そこへ、紆余曲折の果てに祐巳の妹におさまった瞳子が、紅茶のおかわりを持って流しから出てきた。
「と、瞳子ちゃん! 瞳子ちゃんは見てるよね? 朝、TVとかでやってる占い」
 すがるような目で瞳子に問いかける令。
 それを見て、瞳子は微笑む。
「令さま・・・ 」
 口もとだけでニッコリと。
「あんなものに頼るのは、人生の負け犬だけですわ」

『人生にかかわるような悩みを抱えているあなた! 人生にかかわるような悩みだからこそ、人の手を借りずに、ひとりで人生切り開いて!! 』

 クリスマスイヴの朝、TVでそんな占いを目にし、危うく祐巳とのつながりを完全に絶つ寸前のところまで追い込まれた瞳子は、そう言って令を冷ややかに見下ろしたのだった。


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