【1317】 頭の中まで山口真美、  (いぬいぬ 2006-04-08 14:34:39)


 桜舞う春。薔薇の館では、新聞部部長の山口真美と副部長に昇進した高知日出美が、今年度の薔薇さまから新入生へのお言葉をインタビューしていた。

 インタビューもひと段落つき、談笑する三人の薔薇さまと真美のために、日出美は乃梨子の手伝いとして紅茶を入れることになった。
 ふと日出美はテーブルで談笑する4人を見る。春の陽射しに包まれながら、堂々と薔薇さまと話す姉の姿を、日出美は誇らしく思った。
「最近、すっかりそれらしくなったよね」
 何気なく乃梨子にそう言われ、少し胸を張って「そうね」と答えた。
 乃梨子の言葉に、姉が新聞部部長として誉められるのもまんざらでもないなと思った日出美。そのまま乃梨子とともにテーブルの方に目をやる。
「もう貫禄すら感じるわよね」
「そ、そう思う? 」
 白薔薇の蕾の目から見ても、薔薇さまと並んでも引けをとらないのだろうか? 日出美は乃梨子の言葉に嬉しいやら恥ずかしいやら。
「それに、なんと言ってもやっぱり綺麗だし」
「そ、そうよね! 私も普段、人には言わないけどそう思うの! 」
 意味も無くカップを撫で回しながら、頬を赤く染めてうんうんと同意する日出美。彼女は今、妹としての喜びを噛みしめていた。
「それにしてももう、すっかりピンク一色って感じよね」
「ぴ、ぴんく?! 」
 その一言で固まる日出美。
「そう、ピンク。もう見てるこっちまで染められちゃいそうに、ピンクに染まってるじゃない? 」
 真顔で乃梨子にそう言われ、あうあうと言葉が出ない日出美。
「の、乃梨子さん! 」
「どうしたの? 日出美さん」
「ぴ、ピンク一色だなんて・・・ そ、そりゃあ、お姉さまと手をつないだり、休日に一緒に出かけたり、昼休みにお弁当を一緒に食べた後に並んでお昼寝したりもしたけど、ピンク一色なんて言われるほどのことは“まだ”してないわよ! 」
「・・・・・・はい? 」
「そ、そりゃあ、色々としてみたくもないこともないけど・・・ 」
「日出美さん? 」
 またも意味無くカップを撫で回しながら、うつむき頬を染める日出美。
「でも、そういうことはお姉さまから誘って欲しかったりするし・・・ とは言え、私から誘っても良いかななんて・・・ 」
「日出美さん」
「でもはしたない子だって思われたらイヤだし・・・ でももう少しその・・・ なんと言うか・・・ 」
「日出美さんてば」
「え? 」
 語気を強めた乃梨子の言葉に、我に返る日出美。すると乃梨子は、テーブルの方を指差して、こう続けた。
「私は桜のことを言ってたんだけど? 」
「・・・・・・桜? 」
 言われて見れば、テーブルにつき談笑する4人の向こう、窓の外に桜が満開であった。
 真美しか見ていない日出美は、そんなモノは眼中に無かったが。
「・・・・・・日出美さんは、何のお話をしてたのかしら? 」
「そ・・・ それは、その・・・・・・あの・・・ えっと 」
 明らかに判っていて日出美を問い詰める乃梨子。そんな乃梨子に返す言葉が見つからない日出美。
 一昨年、築山三奈子嬢が部長だった頃、山百合会、ひいては三薔薇とは敵対関係にいたと言っても過言では無い新聞部。それが、山口真美嬢が部長となり、クラスメートに薔薇さまがいるとこも功を奏し、友好関係を結んだ。
 では、高知日出美嬢が次の新聞部部長に就任したら?
 乃梨子は日出美の早とちりのおかげで引き出せた情報を聞いたことにより、己の優位を確信し、「来年度も山百合会は安泰ね」などと思い、ニヤリと黒く笑うのだった。


一つ戻る   一つ進む