【1337】 普通の女の子に戻るこいつはいける膝枕  (若杉奈留美 2006-04-14 21:46:46)


注:少し未来の話です。
苦手な方はスルーして下さってもかまいません。

昨今ちまたで流行の「お取り寄せ」。
主に高級なワインとか、人気店の限定スイーツとかが売れ筋なのだろうが、
ここリリアンでは少し事情が違っていた。

「ねえ見て、これ。"ひざまくら"だって〜vv」

カタログを手にした白薔薇さまこと、岡本真里菜が目を輝かせた。

「"女性の膝の感触を、忠実に再現しました"だってさ〜」
「確かに見た目は本物の膝ですよね…なんかちょっと欲しいかも」

隣で紅薔薇のつぼみこと、瀬戸山智子がヨダレをたらしている。
真里菜は3代前の白薔薇さま、佐藤聖さまの女好き、遊び好きをそのまま受け継いだような、天性のナンパ師でセクハラ親父。
智子は先代紅薔薇さま、松平瞳子さまとも交流がある家の娘で、その財産に任せて高級品を買いあさるのが趣味。
今は家の事情で一人暮らしをしているが、その部屋のあまりの乱雑ぶりに姉である紅薔薇さまこと佐伯ちあきがブチ切れ、放課後に毎日通って掃除洗濯その他あれこれ引き受ける日々。

「やっぱこういうのって、高いほうが質がいいかな?」
「そりゃそうでしょ白薔薇さま、やっぱりお金を出せば出したなりのものが買えるんですよ」
「でも、なんか値段高くない?」
「あら、9,429円ならちょっと無理すればいけると思いますけど…なんならうちの系列メーカーに発注しましょうか?安くできますよ」

そういうと、智子は携帯を取り出してどこかへ電話し始めた。

「あの〜、そちらで"女性のひざまくら"扱っていたわよね?…ええ、9,429円の。
あれ2つ、もう少し安くならないかしら…え?ダメ?じゃあいいわ、お父様に頼んで系列からはずしてもらいますから…何?30%オフで手を打てって?30じゃだめね、せめて50は言ってもらわないと…そう、50ね。まったく、最初からそういえばいいのよ。送り先は薔薇の館でいいわ」

智子の意外な一面を目の当たりにした真里菜はつぶやいた。

「値切り上手な金持ちって…どうよ?」



翌日。
どうみても薔薇の館にあることが考えられないそのリアルな膝枕で、真里菜と智子は会議中に爆睡していた。
真里菜に至ってはイビキまでかいて。

「……(-_-#)」

紅薔薇のつぼみの妹、大願寺美咲はキレかけていた。

「今は起こさないほうがいいわよ、美咲ちゃん」

白薔薇のつぼみ、野上純子が必死に止める。
純子のかたわらで、彼女の妹、小野寺涼子があきれかえっていた。

「お姉さま、ここは起こすところでしょうが」
「寝起きの真里菜に手を出すな、出せばたちまち思うがままよ…ってね」


そうだった。
真里菜は寝起きでボーッとした状態だと、セクハラ親父度が平常比50%増になるのだ。
ヘタに起こせば全員が餌食になりかねない。
美咲や涼子にしてみれば、どうして自分の姉がこんな枕で会議中に爆睡できるのか信じられないといったところ。
ちあきは2人を無視して会議を進めているし、黄薔薇さまこと有馬菜々と、その妹大橋さゆみ、さゆみの妹安西理沙は興味津々でなりゆきを見守っている。

やがてちあきがゆっくりと立ち上がり、薔薇の館をゆるがすほどの大声で叫んだ。

「真里菜!智子!2人ともさっさと起きなさ〜い!!」

ちあき名物、地底の大声。
山百合会一同、心臓が止まりそうなほどの恐怖を味わった。



ややあって、真里菜と智子は恐縮しまくっていた。

「ごめんちあき…なんか面白そうだったから…」

智子に至っては、ちあきと目を合わせないよう必死だ。

「智子…どうやら今日は泊まっていったほうがよさそうね。
お望みならた〜っぷり膝枕してあげるわよ?」
「え…遠慮しときます…」
「あらどうしてかしら?こんなグッズを買うほど姉の愛情に飢えてたのに…」

ちあきスマイル、恐るべし。
もはや智子にはなすすべはなかった。

その夜。

「まったく…あんな枕なんて買わなくても、あなたが甘える場所はここにあるでしょ?」

智子のベッドの上に乗っかっていた枕を、ちあきはソファーの上に置きなおした。
そして自分がベッドの上に座って、妹の頭を膝に乗せた。

「あなたの目の下に少しクマができてたの、ちゃんと知ってたわ。
今夜はこうしていてあげるから、ちゃんと寝なさいね」

結局なんだかんだ言っても、ちあきはやっぱり世話薔薇さまなのであった。


(あとがきという名の言い訳)

ごきげんよう、若杉です。
なんか最近、通販で膝枕って売ってるらしいですね…。
実はちょっと欲しかったりするのですが。
…白状します。膝枕大好きなんです!!





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