【1342】 それはとても暖かくそのすべてが  (クゥ〜 2006-04-16 04:58:55)


【1328】の続きになります。
    ARIAクロスの続きです。



 「ほへ〜」
 「はぁぁぁ」
 「ぷにゅう」
 ぽっかぽっかの昼下がり。動けば暑い、でも、ジッとしていれば少し肌寒いそんな感じの暖かさ。半人前用の黒いゴンドラの上でウンディーネ見習いの福沢祐巳と新米プリマの水無灯里はアリア社長を挟んで午後のお茶会をノンビリと楽しんでいた。
 「祐巳ちゃん、暖かいねぇ」
 「そうですね。灯里さん」
 祐巳は少しさめた紅茶を口に含む。目の前には青い海、水平線の向こうにまで青い空が広がり。祐巳の後ろには祐巳と灯里先輩が所属するウンディーネ会社ARIAカンパニーの白い建物が青い空に映える。
 「でも、そろそろ練習再開しますか?」
 「そうだね〜、でも、もう少し……ゆっくりしたいね」
 「ですねぇ、でも、灯里さんは夕方から予約が入っているから練習みてくれる時間が減ってしまいますから」
 「そうかぁ、それじゃ〜」
 「さっさと始めんか!!!!!!」
 「ほへー!!」
 「ぎゃう!」
 祐巳が灯里さんと同時に後ろを向くと白いゴンドラに乗ったショートカットと腰まであるロングヘアーの二人の女性が同じように呆れ顔で祐巳と灯里さんを見ていた。
 「晃さん、藍華ちゃん?」
 灯里さんが晃さん、藍華さんと呼んだ二人の女性はARIAカンパニーとは少し違うウンディーネの制服を着ていた。
 「ふーん、その子が新人見習いの娘ね」
 「うん、紹介するね。福沢祐巳ちゃん、ウチの新人さん。で、ショートのほうが藍華ちゃんでARIAカンパニーと同じウンディーネ会社の姫屋に所属していて、言葉とか厳しいけど、とても優しいの」
 「……!!恥ずかしいセリフ禁止!!」
 「ほへ〜、なんでぇ。褒めただけなのに〜」
 顔を真っ赤にして照れながら灯里さんを指差す藍華さん。
 「まったく何しているんだか。私は晃、藍華と同じ姫屋のウンディーネだよろしくな」
 「あっ、よ、よろしくお願いします!!」
 祐巳は晃さんと握手する。
 「そんなに緊張しなくてもいいよ。どうせライバル会社だしね」
 「えっ、あっ、でも!!」
 確か会社が違ってもペアである祐巳はプリマである二人に敬意を払はなければいけなかったはずだ。もっとも、リリアンで育った祐巳にとってそれはごく普通のことでしかないのだが。
 「ははは、良いって」
 爽やかに笑う晃さん、なんだか気風のいい男の人みたいだ。
 「祐巳ちゃん、祐巳ちゃん」
 「はい?」
 「晃さんには気をつけなさいよ。普段は優しいけど、練習のときは鬼のようになるから」
 「うん、怖いよね」
 藍華さんばかりか灯里さんまで少し脅えながら頷いている。祐巳はこの後すぐに二人の言葉を実感した。
 祐巳は生まれてこの方船を漕ぐといったら公園のボートを少し漕いだくらいしかなく、最初はゴンドラの上に立つことさえ難しかった。ましてやゴンドラを漕ぐことなどそうそう出来ることではないが、ここ数日の練習でどうにか立ってオールを動かせるようには成った……前には進まないが。
 「もっと脇を締める!!」
 「は、はい」
 「ちゃんと立て!!」
 何故かライバル会社の晃さんが祐巳の練習用の黒いゴンドラに乗り、祐巳を指導していた。
 「ほら、藍華!!もっと笑顔!!」
 「はい!!」
 「灯里ちゃん!!もっと早く漕ぐ!!」
 「はひぃ」
 ちなみにすぐ側ではプリマであるはずの灯里さんと藍華さんも練習させられていた。話によれば藍華さんもプリマになったばかりらしく。大先輩の晃さんにとってはまだまだ手のかかる後輩らしい。
 「ゆーみーちゃーん、人のことを見ている場合かなぁ?」
 「は、はい!!」
 祐巳の脳内には既に晃さんはお姉さまより怖いとインプットされていた。祐巳は背筋をただし「3」とナンバーの入ったオールを漕ぐ……が。
 へっろ〜〜〜。
 ゴンドラは安定せず左右に揺れながら少し進む。
 「祐巳ちゃん!!」
 「は、はい!」
 晃さんはスッと立ち上がると祐巳の側に立つ。その迫力に祐巳は緊張から体が震えてしまう。だが、祐巳の側に立った晃さんの目は優しく祐巳のオールの持ち方を軽く直して、祐巳の体を抑える。
 「これで漕いでみな」
 「はい」
 祐巳は言われるままに、オールをもう一度漕ぐ。オールを持つ手がスムーズにまわる。
 「あっ」
 ゴンドラはグン!と水の上をまっすぐに進んだ。
 「おお!!」
 「ほっひー!」
 灯里さん、藍華さんが声を上げる。一方、祐巳は初めての感覚に驚いてしまった。頬を撫でる風に水の上を滑るゴンドラの感触。
 「感動ー」
 「はいはい、感動していないで漕ぐ!そこ二人も!!」
 「「「はい」」」
 祐巳たち三人は慌てて返事をして再びゴンドラの練習を開始する。そうやってどのくらい練習していたのか、祐巳は自分を呼ぶ声に振り返る。
 祐巳たちから少しはなれたところにアリシアさんが乗った白いゴンドラが見えた。
 「おお、アリシアか」
 「はーい、くるみパン買ってきたからお茶にしましょう〜」
 遠くからアリシアさんの澄んだ声が聞こえてくる。祐巳としてはもう少し練習したかったのだが同乗する晃さんは「アリシア、気が利く」とか言っている。
 「よし、祐巳ちゃん。ここからは一人で漕いでARIAカンパニーまで戻れ」
 「えっ?」
 見ればARIAカンパニーは海の向こうに小さく見えるだけに成っていた。灯里さんや藍華さんは既に戻り始めていて、晃さんはそれを見ながら祐巳から離れゴンドラにどっしりと座ってしまった。
 「どうした?早く戻らないとお茶に間に合わないぞ。ちなみに私はくるみパンが好物だ」
 「うっえ?」
 これは明らかに脅かしだ。オールを垂直に立て勢いよく水面まで跳ね上げるとゴンドラは揺れながら回転する。
 「よし!」
 祐巳は気合を入れなおし、晃さんに教えられたコツを思い出しながらオールに力をこめた。


 「ふぅぅぅ」
 「お疲れ、祐巳ちゃん」
 「あぁ、すみません。アリシアさん」
 結局、一人で漕いだゴンドラはスピードも遅く、フラフラしていた。それでも晃さんはジッとして最後ARIAカンパニーにたどり着くまで付き合ってくれ、最後に「よし!」とだけ言ってくれた。
 「それにしてもようやく灯里にも正式な後輩ちゃんの誕生か。灯里も頑張らないと」
 「うん、大丈夫!!」
 藍華さんの言葉に気合を入れる灯里さん。
 「まぁ、類は友を呼んだようだしそんなに気負うこともないだろう。な、アリシア」
 「ふふふ、そうね」
 アリシアさんはアリア社長を膝に抱いたまま晃さんの話に頷いている。そんな様子を見ていた祐巳は小さく笑い。藍華さんにどうしたのと聞かれ。
 「練習後の心地よい疲れにはこんな一時が最高ですよね」
 などと答え。アリシアさん、灯里さんが同じように頷いたため。晃さんと藍華さんに同時に。
 「「恥ずかしいセリフ禁止!!」」と、突っ込まれた。
 「本当に友類ね」
 藍華さんが呟きながらも満足そうに笑っていて、ゆっくりとした時間が流れる。その一時を破ったのはプルルルと電話の音だった。
 「あっ、私が出ます」
 祐巳はすぐに立ち上がると急いで部屋に入り受話器を取る。カウンター越しに取らなかったのはテレビ電話を意識してしまったから。
 「ごきげんよう。ARIAカンパニーです」
 電話の相手は灯里さんの夕方に予約を入れていたお客さんからだった。
 「電話はどなたから?」
 電話を受け灯里さんのところに戻るとアリシアさんが聞いてきた。その横で、晃さんと藍華さんが祐巳を不思議そうに見ていた。
 「どうしたのですか?」
 「あっ、いや、なんでもないわよ。オッホホホ」
 祐巳は首をかしげながらアリシアさんに気にしなくて良いと言われ、灯里さんにお客さんが予定よりも早く待ち合わせ場所に着きそうだと伝える。
 「それじゃぁ、灯里ちゃん早く行かないと」
 「そうですね」
 アリシアさんに促され灯里さんは自分の白いゴンドラに乗ってお客さんを迎えに行く準備を始め。
 「なら、私たちもそろそろ」
 晃さんも立ち上がる。
 「そういえば、アテナはどうした?」
 「明日、アリスちゃんと来るって言っていたわ。アリスちゃんには祐巳ちゃんのことを頼もうかなって思っているから」
 「そうか。アリスちゃんなら安心だな」
 祐巳は片付けをしながら、アリシアさんと晃さんの会話を聞いて「アリス?金太郎」などと考えていた。
 その後、祐巳は晃さん、藍華さんに今日のことのお礼を言って、灯里さんを見送り。アリシアさんと灯里さんが帰って来るまでに夕食の準備やお風呂の用意などをしておく。
 「祐巳ちゃん、悪いけどオリーブオイルが残り少ないの買ってきてくれる?」
 「あっ、はーい」
 祐巳がテーブルに皿を並べているとアリシアさんにお使いを頼まれたのでアリア社長と一緒に買い物に出かける。
 ゴンドラは使わないというよりも、ゴンドラではいけない。海辺の小道─カッレを進み小さな広場─カンポへ出て今度は少しなだらかな坂道のカッレを進むと小さなお店屋さんが並ぶカンポに出る。小さなお店屋さんの前にはワゴンなどで商品が並び、それだけで絵のようだ。
 この街に大型の店舗は似合わないと祐巳が感じる瞬間だ。
 祐巳はその中の一軒で頼まれたオリーブオイルを買うと、外で待っていたアリア社長を見る。
 「アリア社長、少し遠回りして帰りませんか?」
 「ぷいにゅう」
 祐巳の提案にアリア社長は立ち上がってOKのサインを出す。
 「それじゃぁ、行きますか」
 遠回りの道は運河─カナレッジョに出るカッレだ。灯里さんはこの道順の方が好みらしくよく通ると言っていた。ただ少しばかり遠回りに成ることと、慣れていない祐巳は迷子になる可能性が高いために灯里さんと一度通っただけでしかない。
 祐巳は自分の記憶を当てにせずにアリア社長に任せて進み、祐巳はアリア社長の後に続いてカレナッジョに出た。
 「あっ!これって」
 祐巳がカレナッジョのカッレに出たとき、それは聞こえてきた。舟謳─カンツォーネ。
 「……カンツォーネ」
 一瞬、静さまを思い出す。カンツォーネはアリシアさんや灯里さんに聞かせてもらった時にとても素敵だと思ったが、今祐巳の横を白いゴンドラに乗って通り過ぎるウンディーネはそれ以上だと祐巳でも思ってしまう。
 あまりにも綺麗な謳に祐巳はゴンドラが過ぎてしまってもしばらく呆然としていた。おかげで、戻ったときアリシアさんに「寄り道しちゃ、メッ!」と怒られた。
 その後は、灯里さんが帰って来てから皆で夕食をいただき。アリシアさんが帰ると何時ものように灯里さんと他愛無い雑談を楽しんで一緒のベッドに潜り込む。聞いた話ではこの大きなベッドはアリシアさんが通販で買ったものらしい。広めのベッドは二人が寝ても十分に余裕があり。
 アリア社長も二人に挟まれ眠っていて、祐巳も灯里さんも暗いと眠れないタイプなので普段は部屋を茶色くして眠るが、月明かりが明るい夜は窓の外の二つの月を見ながら眠りにつく。


 「ふっぁ」
 次の朝、祐巳は何時もより早く起きてしまった。眠い目を擦りながら二階のリビングルームにおりてくる。灯里さんとアリア社長はまだ眠っている。
 祐巳が少し早く起きたのは理由があった。昨夜、灯里さんから聞いた水の三大妖精の最後の一人と会えるからだ。昨夜まで知らなかったが、アリシアさんも水の三大妖精の一人でなんと昨日指導してくれた晃さんもその一人だという。
 祐巳はその話しを聞いて、やっぱりアリシアさん、晃さんって凄い人たちなんだと実感し最後の一人にも興味が湧いてしまい早く起きてしまったのだ。
 朝早く起きたのは良いが何もやることがない祐巳は暇をもてあまし、お湯を沸かしたり。一階のオフィスまでおりて簡単な掃除をしたりして時間をつぶす。
 「んっ、いい朝!」
 体を動かし、朝日をいっぱい浴びた祐巳は眠気を完全に吹き飛ばす。
 「今日も一日頑張るぞー!!」
 祐巳は灯里さんを起こさないように静かな声で気合を入れるが……。
 「あらあら、祐巳ちゃんは朝から元気ね」
 祐巳の後ろで出勤してきたアリシアさんがしっかりと見ていた。
 「あっ、ごきげんよう。アリシアさん」
 「あらあら、ごきげんよう。祐巳ちゃん」
 照れながら挨拶をして祐巳は灯里さんを起こしに向かう。その後はアリシアさんが作ってくれた朝食を皆でいただきながら、今日の予定を話し合う。
 アリシアさんは今日は予約が多く忙しいみたいで、灯里さんは午前中はゴンドラ乗り場に藍華さんと向かい。午後からは昨日のように祐巳の練習に付き合ってくれるとのこと、そして、祐巳が心待ちにしているお客さんは今日中に来るとしか分からなかった。
 「それじゃぁ、祐巳ちゃんは練習ね」
 「はい」
 朝食兼朝のミーティングが終わると、アリシアさんと灯里さんは白いゴンドラで仕事に向かい。残された祐巳とアリア社長は留守番をしながらゴンドラの練習に励む。昨日の晃さんの直接指導が利いているのか、昨日までとオールが受ける水の抵抗が違っていた。
 「アリア社長、どうですか〜」
 「ぷいにゅう!」
 ゴンドラを上手く漕げるととても気持ちがいい。足の裏から伝わる水の感覚も頬にあたる風もが楽しい。と、あまりゴンドラを漕ぐのが楽しすぎて会社から離れすぎるのは良くない。祐巳は電話番も兼ねているので、電話がなり戻れる距離でなければいけないのだ。灯里さんやアリシアさんは留守電でも良いと言ってくれるが、それでは祐巳がARIAカンパニーにお世話になろうと思ったときの意味がなくなってしまうのだ。
 「ぷいぷいにゅう!!」
 アリア社長はなんだか不満そうだが、祐巳は会社の側を行ったり来たりの練習を繰り返していた。
 「でっかい間違った練習です!!」
 その声が聞こえてきたのは往復練習をし始めて少したったころだった。声の方を見ると祐巳と同じくらいの少女がARIAカンパニーの方から見ていた。
 最初、祐巳はお客さんかな?と思ったがその少女は祐巳と同じようにウンディーネの制服を着ていて、ARIAカンパニーの制服と違うところはARIAカンパニーの制服には青色が使われているのに対し、彼女の制服はオレンジ色が使われているところだろうか。勿論、細部はデザインが違う。
 「あっ!もしかして、オレンジぷらねっとの方ですか?」
 「はい、そうです」
 彼女は、志摩子さんを思わせる美少女だが漂う雰囲気はどこか乃梨子ちゃんを思わせる。
 祐巳はゴンドラを桟橋に寄せ、アリア社長と少女の側に近づく。
 「ごきげんよう、私はARIAカンパニーにお世話になっている。福沢祐巳です。アテナさんですか?」
 「……でっかい、間違いです」
 「えっ……あっ!」
 祐巳は水の三大妖精の一人であるアテナさんと一緒に来ると聞いていた、もう一人のオレンジぷらねっとのウンディーネの名前を思い出す。よく見れば彼女の右手には手袋がはめてあり。彼女はプリマではなくシングルである事が分かる。
 「アリスさん!」
 「でっかい、当たりです」
 ……でっかい?
 「そ、それは失礼いたしました!!改めまして福沢祐巳といいます」
 「オレンジぷらねっとのアリスです……なるほど、灯里先輩と似てます」
 「えっ、そ、そうですか?なんだか照れてしまいます」
 「褒めていません。そういった勘違いをしやすいところがでっかく灯里先輩に似ているといっています」
 「えーと……」
 祐巳はどうしようかと悩み、話を変えることにした。
 「あの二人で来られると聞いていたのですが?」
 「はい、来ています。ほら、あそこで寝ています」
 ……。確かにアリスさん─アリスだと金太郎を混合するので、さんをつける─の指差す方にはアリスさんと同じ制服の女性が壁にもたれかかって眠っていた。
 ギャップがありすぎたので一瞬分からなかったが、アテナさんは間違いなく昨日のカンツォーネを謳っていたウンディーネだった。
 「なんで?」
 「暖かいからだそうです」
 「そうですか」
 暖かいから眠るってどうすれば良いのか困ってしまう。
 「どうしよう?」
 「そのままでいいです。ここで眠ったのはアテナ先輩のでっかい自業自得です」
 けっこう冷たくあしらうアリスさんに祐巳は困ってしまう。アテナさんを良く知らない祐巳にとって、起こしても良いのか判断できないのだ。
 「おーい、祐巳ちゃん、アリスちゃん」
 二人を呼ぶ声に、祐巳は声の方を見る。声の主はアテナさんと並ぶ水の三大妖精の一人、晃さんだった。祐巳にとってそれははまさに天の助け。祐巳は、転寝中のアテナさんを呆れ顔で見る、晃さんにアテナさんを起こしてもらい。
 少しして、灯里さんと藍華さんが戻ってきて、軽いお茶会が始まったのだが、アリシアさんが戻ってくる頃には、ぽっかぽっかの陽気に誘われて大人数でのゆっくりとしたお昼寝大会が始まっていた。


 祐巳も、暖かい陽気に誘われながら、この幸せな時間がゆっくりと流れますようにと静かに思った。



 長くなるので一度切ります。
 
 


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