【136】 七夕は織姫と彦星  (くにぃ 2005-07-01 22:42:51)


「あれ、誰だよ。生徒会室に笹なんか持ってきたのは。ただでさえ散らかってるのにこれ以上もの増やすなよ」
「あ。何すんだよユキチ。もうすぐ七夕だからわざわざ持ってきたのに」
「小林だったのか。でも男子校で七夕っていってもな」
「何言ってんだ。普段出会いのない男子校だからこそ、素敵な出会いを求めて織姫と彦星に願いを託すんじゃないか」
「だからってわざわざ学校に持ってこなくても家でやればいいだろ。」
「バカだな。男子高生が家で一人で短冊に願い事を書いてたらそれこそ不気味じゃないか。こういうことはみんなでワイワイやるから楽しいんだよ。それともユキチは家で祐巳ちゃんといっしょに願い事を書いたりするのか?」
「バ、バカ。そんなわけないだろ。」
「ハハハ、あわてちゃって怪しいな。まあいい。とにかくユキチもこれに何か書いて笹につけろよ。もうみんな書いて後はユキチだけだ」

「急に言われても何書けばいいんだよ。それにみんな書いてるって?どれどれ。
『サプリメントに頼らない体作り』?高田か。これは願い事ってより目標だよな。それにあいつの場合『ママに頼らない人生』って方が先だろ。
こっちは『フィールズ賞』?お前大きく出たな。しっかし相変わらず汚い字だよな。これじゃお前は内容以前に論文を読んでもらえず落ちる口だな。
おっ、これも小林か。『祐巳ちゃんとおつき合いできますように』だと?ふざけるな。お前に祐巳はやらん。(ブチッ)
『素敵な彦星様と巡り会えますように』?織姫様の間違いじゃないのか。ほんとにそれでいいのかアリス。
なんだこのでかい短冊は。『もっと大きくなれますように』『もっと大きくなれますように』?わざわざこんなでかいの二つ並べて、書いてあるのは同じことかよ。第一日光月光、それ以上大きくなってどうするつもりだよ。
『やらないか』って誰と!何を!卒業してからも頻繁に来て何をしてるかと思えばろくなもんじゃないな、あの人も。
全くこれが生徒会幹部の願い事かと思うと嘆かわしいよ」

「さっきから人の願い事にケチばっかつけて、自分はどうなんだよ」
「俺か。そうだな、例えば『世界人類が平和でありますように』とか、『この世から貧困がなくなりますように』とか・・・」
「多分そんなつまらないことだと思ったよ。そこで!ジャン!みんなでユキチの分を書いておいたんだ。ほらよ」
「また余計なことを。なになに。
『由乃さんとデートしたい』
『由乃さんとつき合いたい』
『由乃さんと手を繋ぎたい』
『由乃さんとチューしたい』
『由乃さんと色々したい』
『由乃さんと・・・』
『由乃さんと・・・』
『由乃さんと・・・』
何だよこれ!」
「うれしい?」
「わけないだろ!却下だ却下!」
「なんだよ。せっかくみんなで心を込めて書いたのに破り捨てることないだろ。でも安心しろ。こんなこともあろうかと昨日の内に一度飾り付けして、記念写真を撮って山百合会に送っておいたんだ。今頃届いてお前の織姫さまもきっと見てるぜ」
「あほかーーーーーーーっ!!」


その日の帰宅後、祐麒は祐巳に白い目で見られた上、口を聞いてもらえなかったことは言うまでもない。


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