まえがき。
百合要素を含んでいますので苦手な方は回避してください。多分18禁には引っ掛からないはず…管理人さま、引っ掛かるようでは削除しても構いませんので。ではどうぞ〜
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「今日は清々しい天気ねー何だかいい写真が撮れそうな予感♪」
蔦子は背伸びした。
時は土曜の昼下がり。場所はお馴染みリリアン女学園。
「さて…黄薔薇さまと黄薔薇のつぼみはどこかしら?」
蔦子が探しているのは由乃とその妹の菜々。ここ最近、土曜日の午後は二人でお昼を楽しんでいるらしい。
写真部のエースを自負している蔦子としては是非ともその一枚を押さえておきたい。
「お昼から部活もあるし、いるはずなんだけど…どこかしら?」
あっちの茂みを掻き分けこっちの木の陰を覗いてみる…が、どこにもいない。
「むぅぅ〜今日は空振りだったか…」
諦めて自分もお昼にしようと踵を返しかけたその時。見覚えのある後ろ姿が校舎の裏へと消えていく。
「ん…あれは志摩子さん?」
今のは確かに白薔薇さまである志摩子のはず。角を曲がるその一瞬の表情はかなり嬉しそうなものだった。
「めっずらしぃ〜桜の季節も終わったし銀杏の季節でもないのに……」
今は爽やかな風が吹く初夏。失礼ながら志摩子が心を踊らせる理由は特にない。あるとすれば妹の乃梨子絡みか……あとは姉の聖か。どちらにしても志摩子のあんな表情は滅多に見られない。
(でも乃梨子ちゃんはさっき薔薇の館へ向ったみたいだし、じゃあ聖さま?…あの喜びようはきっと何かある!)
ガッツポーズしながらムフフと一人妖しい笑みを浮かべる。
実は彼女が立っているすぐ近くの木陰にはお尋ね姉妹がいたりするのだが…最早、蔦子の優先順位は黄薔薇姉妹から志摩子にバトンタッチしていた。
◆◆◆
近づきすぎないように、離れすぎないように。適度な距離を取って後をついていく。志摩子は相変わらずの上機嫌だ。心なしかスキップしているようにさえ見える。
「あ!志摩子さーん」
遠くから志摩子を呼ぶ声。この声は…
(ゆ、祐巳さん!?)
校舎裏の一角。何の木かはわからないが大きな木の根元に腰を下ろして志摩子に手を振っているのは紛れもなく紅薔薇さまの祐巳だ。
待ち合わせの相手は聖だとばかり思っていた蔦子は祐巳の登場に少し驚いた。
(え…もしかして…そういうこと…なの?)
そして頭の回転が速い彼女はある事に思い至る。
――二人は付き合っている、と。
祐巳を見つけた途端、志摩子は満面の笑みで走りだした。
「祐巳さん!」
「きゃっ」
(!!)
志摩子は祐巳に駆け寄ったかと思うと徐にその体を抱き締めたのだ。大胆なその行動には流石の蔦子もかなりびっくりである。
「…そんなに急ぐ必要なんてないのに」
志摩子の腕の中で少し上目遣いになりながら祐巳が言った。
「ふふ…そうね。でも祐巳さんのこと早く抱き締めたくて仕方がなかったのよ」
「もう…志摩子さんたら」
優雅に微笑んでさらっと言ってのける志摩子に対して頬を染めながら口籠もる祐巳。でもその顔には嬉しさが表れている。
「遅くなってしまってごめんなさいね」
「いいよ。急に委員会で呼び出されたんでしょ?」
「ええ」
祐巳は志摩子の頬を両手で包んで柔らかに笑う。
「じゃあ仕方ないよ。それより早くお弁当食べよう!私、もうお腹ぺこぺこだよー」
(…私はあなたたちのおかげでお腹いっぱいよ)
既に軽くケーキ20個分は食べたかのような気分の蔦子だった。
◆◆◆
うふふとかくすくすとか…楽しそうにお弁当を広げる志摩子と祐巳。蔦子は二人の間に流れている甘い空気まで写すかのように夢中でシャッターを切り続けた。
「んーっ!この卵焼き最高!凄くおいしいw」
「そう?」
志摩子から分けてもらった卵焼きを一切れ口に放り込んで祐巳は感嘆の声をあげた。
「うん!お砂糖の加減がね、ぴったりなの。お母さんでも私の好み通りには中々作れないんだよ?いつも思うんだけどやっぱり志摩子さんの卵焼きが一番!!」
(と言うことは…志摩子さん、祐巳さんの為に料理してるんだ?それも好みの微妙なさじ加減を把握できるくらいに)
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
一番だと言われて志摩子の顔が本当に嬉しそうに綻ぶ。
「ねぇ志摩子さん。いつものアレ…して?」
「はいはい」
お弁当箱を片付け終えた祐巳の甘えたような口調。それに苦笑いしながら小さく溜め息をついた志摩子が返事する。
(アレ?)
蔦子が疑問に思っていると志摩子の足が揃えられて…その上に祐巳がちょこんと頭を乗せた。
(ひ、膝枕ぁぁぁぁ!?)
ずり落ちてきた眼鏡を中指で押し上げて蔦子は二人に見入った。
志摩子は微笑みながら祐巳の頬を優しく撫でている。気持ち良いのか祐巳は目を閉じていて――実に和やかだ。
「本当に甘えたさんね。こんな祐巳さん、瞳子ちゃんも知らないんじゃない?」
「んー知ってるかも。二人でいる時はよく瞳子の肩に持たれ掛かったりしてくっついてるし」
――ピキッ
そんな音が蔦子には聞こえた気がした。事実を裏付けるように志摩子は一度凍り付き…柔らかな笑みから何か迫力のある笑みへと変わった。
(祐巳さんのバカっ!何てこと言うの!?)
「そしたらね瞳子ってばそっと肩を抱いたりしてくれてねー」
――ピキ、ピキピキピキッ
祐巳は少しはにかんで妹との惚気話を披露して…『可愛いでしょ?』と止めを刺した。
(のぉぉぉぉぉぉぉ!!)
「肩を抱いたり…そう…本当。可愛いわね」
志摩子はにっこりと笑う。しかし蔦子にはとてもにっこりには見えない。
「ふふ…瞳子ちゃんは甘えん坊な祐巳さんは知っていても…でも。唇の柔らかさとか…祐巳さんの味とかは…知らないわよね」
「……っ!」
妖艶に微笑んで祐巳の唇を親指でなぞっていく。
「し、志摩子さんっ!」
志摩子の言葉に祐巳は赤くなってがばっと飛び起きた。
(あ、味!?)
もう写真のことなど忘れて蔦子は食い入るように身を乗り出していた。
志摩子は微笑みはそのままに祐巳のタイを掴んで強引に引っ張る。
「ちょっ!しま……んっ」
(えええ!嘘っ!?)
そのまま祐巳に口付けた。
「キスする時の色っぽくて可愛い顔とか…」
「ちょっ………んんっ!」
一旦離れて言葉を紡ぐが祐巳には話す隙を与えない。
「…っふはぁ!」
「こんな甘い吐息は…私しか知らないでしょう?」
程なくして唇を離した志摩子は口付けと祐巳の反応に満足したようだ。楽しげにそして悪戯っぽく笑う。
「……ばか」
祐巳は真っ赤になってぽつりと呟いた。
(あ、甘い…甘すぎ!)
蔦子はその場で悶えた。
「はぁ…志摩子さんがこんなにも意地悪でヤキモチ妬きだって…乃梨子ちゃんも知らないよね」
頬を赤らめたままの祐巳を志摩子はぎゅっと抱き締める。
「そうよ。こんな私は祐巳さんしか知らないの…私は祐巳さんだけのものよ。だから…もう妬かせたりしないで」
「志摩子さん…」
見つめ合う二人。
「大好きだよ…志摩子さん!」
「ええ…私も大好きよ」
零れんばかりの笑みを交わす。それは今日、一番の笑顔…
蔦子はカメラに手を伸ばして。
――カシャッ!
(その笑顔、いただき!)
シャッターを切って。
天使たちの微笑みをそっと心のカメラに収めた。
あとがき。
初の志摩子×祐巳でした。こんなタイトルを一発で引き当てたら書くしかないでしょう?(笑)