【1430】 こっちが本当史上最凶  (クゥ〜 2006-05-01 21:02:31)


【五歳】の続き。←懲りていない。
              『クゥ〜』


 「まったく何なのかしら」
 二年松組、小笠原祥子はすがすがしい秋空の朝を、困り顔で見つめ。リリアン学園の銀杏並木を歩いていく。
 昨日、紅薔薇の蕾である祥子は何時ものように薔薇さま方のお手伝いとして薔薇の館に向かった。だが、薔薇の館には誰も居らず。ただ、一枚のメモが机に置かれていた。
 『福沢祐巳ゲット大作戦』
 どうやら、また薔薇さまたちが何か悪巧みを始めたようだが、祥子としては差し迫った学園祭が気になっていた。いくら劇の出来上がりが順調でも昨日のようにいきなり中断させられてはたまらない。
 「今日は来てもらえるといいのだけど」
 何かの悪巧みを考えているのなら、祥子では止められない。
 「いっそのこと小笠原の力で圧力でもかけようかしら」
 などと少々物騒なことを考えながら歩いていると、マリア像の前に小さな女の子が祈りを捧げていた。
 どうみても幼稚舎の子供だ。
 ……なぜ?
 祥子はそう思いながら女の子に近づく。女の子は祈りが終わったのか、祥子の前を歩き去ろうとしていた。
 「お待ちなさい」
 祥子は女の子に声をかける。間違って入ってきたのかしらないが。ここは高等部。上級生として彼女を保護して幼稚舎に届ける責任があるはずだ。
 「はい!!」
 女の子は飛びっきりの笑顔で祥子に振り返る。
 「あっ!!」
 思わず祥子はその笑顔に魅入られた。そして、女の子が小さいながらも幼稚舎の園児服ではなく。高等部の制服を身に着けていることに。
 「あの、おねえちゃんはだれですか?」
 「あっ、私は小笠原祥子。ここの二年生よ。貴女は?」
 「小笠原?……はじめまして、わたし、ふくざわゆみ!!りりあんこうとうぶのいちねんももぐみです!!」
 祥子は祐巳ちゃんの言葉に驚きを隠せない。こんな小さな子が高等部の一年生?
 そういえば、昨日、クラスメイトが何か一年桃組の話をしていた気がする。それはきっと祐巳ちゃんのことを話していたのだろう。
 「祐巳ちゃん」
 「はい!!」
 元気のいい子だ。
 「ここでは挨拶はごきげんようと言うのよ。それと、タイが曲がっているわ」
 祥子はわざわざ座り込んで祐巳のタイを直す。
 「これでいいわ」
 「ありがとう!!さちこおねえちゃん!!」
 さちこおねえちゃんさちこおねえちゃんさちこおねえちゃん。
 「いい……でも……祐巳ちゃん、お姉ちゃんではダメよ。お姉さまとお呼びなさい」
 「おねえさま?」
 「そう、おねえさま」
 「はい!!さちこおねえさま!!」
 さちこおねえさまさちこおねえさまさちこおねえさま。
 「いいわ、いいわよ。祐巳ちゃん!!」
 「はい!!では、ごきげんよう。さちこおねえさま!!」
 「はい、ごきげんよう」
 祐巳ちゃんは少しはしたないが、元気に走っていこうとする。祥子は注意すべきか迷ったが……。
 「祐巳!!」
 「はーい」
 「今日、時間あるかしら?」
 「うん!!」
 「それなら祥子お姉さまに少し付き合ってもらっていいかな?」
 「……」
 「薔薇の館ってところに紹介したい人たちがいるの、いいかしら?」
 「ばらのやかた?うん!!いいよ。さちこおねえさま!!」
 「よかった、それじゃぁ、放課後に迎えにいくわね」
 「うん!!」
 今度こそ元気に走っていく祐巳。
 祥子はそんな祐巳の後姿を見ながら、あの子をリリアン生として正しく清く導くことを決めていた。


 「ふーん、薔薇の館ねぇ。それに小笠原か……ふふ、マリアさまは私の味方みたいですね。小笠原祥子さま……ふふふふふふ」
 祐巳はニコニコ笑いながら、誰にも聞こえない声で呟いていた。




            黒!!五歳で黒!!これでいいのか凄い不安なSS。
              本当、どうしましょう?
                           『クゥ〜』


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