【1434】 危機一髪激しく勘違いに気をつけて  (翠 2006-05-02 12:11:44)


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【No:1413】→【No:1416】→【No:1418】→【No:1427】の続き
今回だけ(?)、微妙に戦闘モノ(笑




お姉さまがキレました。
「今度と言う今度は許せないわ」
「はぁ、そうですか」
「いきなり不意打ちなんて」
この間の、ちょっとした出来事のせい。
実際、今の山百合会ではアレくらいは大した事ではない。
お姉さまは、以前、祐巳さまを窓の外に放り出した事がある。
平然と着地して「満点」とか言ってるのを見たときは我が目を疑った。
「いきなりじゃない不意打ちってのもどうかと思いますけど」
「菜々、あんたは悔しくないの?」
「ええっと、私は何も被害がありませんでしたし」
敢えて言うなら、気絶したお姉さまを運んだ事?
「……復讐よ!」
「この間、そう言いながら館の扉を開けた所で不意打ちを喰らったんですよね?」
間が悪かったと言えばそうなんでしょうけど、これ以上ないくらい見事に。
「こ、今度は、志摩子さんをこちら側に引き入れるつもりよ」
うわ、不安になってきました。
「うまくいくんですか?」
「私にぬかりは無いわ」
…………益々不安になってきました。
「何か言った!?」
「いえ、別に」
「じゃあ、作戦開始よ!」
今一つ気分がのりませんけど。
「おー」
「何よ、その気の抜けた声は?」




「瞳子たち、遅いわね」
祐巳さんが呟いた。
「そう?」
志摩子さんが本を読みながら祐巳さんにそう返す。
私はニヤリと志摩子さんに向かって笑いかけた。
志摩子さんは心底嫌そうな顔をした。
ふっふっふ、そんな顔してもダメよ。
志摩子さんの弱みは私が握っているんだから。
っていうか、一階の倉庫で乃梨子ちゃんと変な事するのはやめてよね。
まぁ、お陰で志摩子さんをこちら側に引き込めたんだけど。
さて、そろそろ始めますか。
私は壁に立て掛けておいた竹刀を手に持つ。
「どうしたの由乃さん?こんなところで素振りなんてしたら危ないよ」
「大丈夫よ。被害があったとしても祐巳さんにしかないから」
祐巳さんが目を細めた。
「どういう意味?」
「そのままの意味……よ!」
言うと同時に踏み込んで突く。
祐巳さんは椅子から素早く移動してそれをかわした。
「由乃さん、椅子が……」
祐巳さんの椅子の背もたれに穴が開いた。
まぁ、大した問題ではない。
「今回こそ私が勝者になるのよ!」
「由乃さんが壊れた」
「好きなだけ言うといいわ。私ね、気付いた事があるの」
祐巳さんの眉がピクリと動いた。
「祐巳さん自身は決して戦わない」
祐巳さんの顔色が変わった。
「いつも瞳子ちゃんか可南子ちゃんに守られている。それはどういう事か?」
「……」
「祐巳さん自身には戦う術はないって事よ!」
再び竹刀で突く。
「くっ!?」
祐巳さんはそれを辛うじてかわした。
私は菜々よりも弱いけど、この『突き』だけは別。
「言っておくけど、いつまでもかわせるなんて思わないでよね!」
「イタっ!、ちょっ、由乃さ……、本当に痛いってば」
時折、フェイントを混ぜて、あっと言う間に祐巳さんを壁際まで追い詰める。
「呆気ないわね」
志摩子さんの力を借りなくても、私だけで十分できるじゃない。
イケる!
私は祐巳さん目掛けて渾身の力を込めて突きを入れた。
祐巳さんが頭だけ横に避ける。
先程まで頭のあった場所に竹刀が突き刺さった。
「由乃さん、当たったら死ぬってそれ!」
「……当たっても祐巳さんならきっと復活できるわ」
「どういう根拠があってそんなこと言うのっ!?」
あ、あの祐巳さんがこんなに慌ててる。
この私が追い詰めてる!
か、快感!
って、祐巳さんたちの仲間じゃあるまいし……。
と、壁から引き抜こうとした私の竹刀を祐巳さんが両手で押さえ付けた。
「これならどう?」
「……」
甘いわね。
私は……、島津由乃なのよっ!!
祐巳さんの表情が驚愕に染まる。
私は祐巳さんごと竹刀を壁から引き抜いた。
その勢いで宙を舞う祐巳さん。
祐巳さんは空中で一回転して体勢を立て直し……、
ぼきっ!
机の上にあった志摩子さんの筆箱の上に片膝立てた状態で着地。
踏まれた筆箱から嫌な音がした。
今のは間違いなくわざとだと思う。
祐巳さんだし。
私の隣では、志摩子さんが鬼のような表情をしている。
ものすごく怖い……。
できるだけ見ないようにしよう。
「まさか由乃さんがここまでやるとは思わなかった」
「能ある『バカ』は爪を……、ちょっと、変な所でセリフを被せないでよね!」
「ねぇ、由乃さん。菜々ちゃんはどうしたの?」
目を細めて祐巳さんが尋ねてくる。
っ!
もう気付いてる?
さすがは祐巳さんね。
でも、今更もう遅いわ。
「祐巳さんの考えてる通りじゃないの?」
「乃梨子ちゃんもそうなの、志摩子さん?」
「祐巳さんの考えてる通りではないかしら?」
「ふーん、手を組んだってわけ」
そんなことよりも、そろそろ机から下りなさいよ。
片膝立ててるから、さっきから総レースのピンクの下着が丸見えなのよ!



――その頃――
「乃梨子さんでは相手にならないわ」
「ぅ……」
いや、可南子がおかしいだけだって。
なんなのこの強さ?
私はこれでも強いはずなんだけど?
そこらの生徒が束になって襲って来ても勝つ自信を持ってる。
というか、勝てたし。
だから、可南子が相手でもいい勝負ができると思ってた。
けど、実際に戦ってみると、持っていた自信はあっさりと粉々に砕け散った。
志摩子さんの為じゃなかったら逃げていたと思う。
あのさ、動きがまったく見えないんだけど……。
「これが、祐巳さまをストーキングしている時に編み出した特殊な歩法よ」
そんなモノ編み出すなよ!
って叫びたいけど、もう声も出ない……。
ごめん志摩子さん、私じゃムリだった。
っていうかさ、なんでこんな事してるんだろう?
ひょっとして私って巻き込まれ体質?
きっと、そうに違いない。
この間、一年生に束になって襲われたのだってそうだし。
あとで志摩子さんか祐巳さまに介抱して貰おう。
できれば膝枕を希望。
うん。
モノは試し、言ってみよう。
「乃梨子さんがここにいるって事は……、まさか祐巳さまが!?」
あ、もう行くの?
志摩子さんと祐巳さまによろしく。
じゃ、おやすみ――――。



――更にその頃――
「強い……」
「菜々さんもやりますわね」
私の繰り出した竹刀による攻撃を全てハリセンで受けられ、流され、叩き落とされる。
攻撃は一切してこない。
それが救いといえば救いだけど、さっきからその繰り返し。
それにしても、なんでハリセンなんだろう?
と、考えていると、
「アイデンティティですわ」
と返って来た。
色々な意味で冷や汗が流れた。
こちらの動き、次の動作、考えた事まで瞬時に読んでくるこの洞察力。
ここまでいくと、もはやエスパーなのではないかと……。
ついでに会話するとリズムまで狂わされる。
嘘が多いし。
まさしく紅薔薇さまの後継者。
いえ、黒薔薇さまになるんでしたね。
「ええ。お姉さまに言われた以上、立派な黒薔薇さまになってみせますわ」
これ!
なんで考えてる事が読まれるんだろう?
ともかく、苦戦してる一番の理由はこれ。
これのせいで大苦戦。
離れて、乱れた呼吸をお互いに整える。
スタミナなら私の方が上のはずだけど、攻撃すると必要以上に動かされる。
そのせいで、ほぼ互角の勝負になってしまう。
「なんで攻撃してこないんですか?」
「菜々さんは分かっているでしょう?」
はい。
よく分かってます。
時間稼ぎのために聞いてみただけです。
攻撃してこない理由は、瞳子さまの……、ハリセンでいいのかな?の腕が大した事がないから。
けれど、瞳子さまには、あの洞察力というか先読み能力というか……、それがある。
フェイントを入れても読まれてしまう。
小石に躓いて、攻撃を放った私ですら予測のつかなかった『偶然の一撃』も読まれた。
ここまで読まれると、未来予測と言ってもいいかもしれない。
……実は本当に超能力者とか?
竹刀の軌道を念力で曲げてるとか?
ともかく、瞳子さまが防御に徹すると私の攻撃は全く当たらなくなってしまう。
そして、現在の疲れの度合いでいえば私の方が不利。
……お姉さまに言われた通りできるかな?
「それで、いつまで私を足止めする気なんです?」
き、気付かれてる……。
お姉さまに言われたのは、瞳子さまを十分程度足止めすること。
思うが、私は答えない。
「まぁ、私を足止めしても可南子さんがいますけど」
考えちゃダメ考えちゃダメ。
し……ダメダメ考えちゃダメ。
私は考えない、答えない。
「白薔薇さまと手を組んだのですか」
ええっ!?今のでも、読めるんですか!?
もしかすると、紅薔薇さまをも超える器なのかもしれない。
この時、私は神がかり的な何かを瞳子さまに感じた。
同時にゾクゾクと背筋を走り抜ける何か。
「ここで戦闘を中止しませんか?」
停戦を求めてくる瞳子さま。
完全にこちら側の思惑を読んだらしい。
お姉さまが気付いた、『紅薔薇さま自身は決して戦わない』という事まで分かっているのだろう。
そもそも、瞳子さまのお姉さまの事なんだし。
「私が止めるとでも?」
「黄薔薇さまがどうなってもいいのなら、私はこのまま続けても構いませんよ?」
え?
それは、どういう事ですか?
「お姉さまが戦わない理由を、黄薔薇さま方は知りませんもの」
瞳子さまは、私を真っ直ぐに見つめながらそう仰った。
それが嘘かどうかは直感で分かった。
「どうします?」
私に選択肢は無い。
「分かりました」
「では、薔薇の館に向かいましょうか」
私は頷いた。
あ、でもその前に、一つだけ瞳子さまにお願いが……。
「瞳子さま」
「なんです?」
「いずれ決着を……」
私が言うと、瞳子さまは不敵な笑みを浮かべて、
「ふふ、いいですわよ」
と仰った。
か、カッコイイ……。



――薔薇の館に戻って、同時刻――
志摩子さんが言う。
「ふふ、祐巳さん。私の筆箱の恨みはスゴイわよ。倍にして返してあげるわ」
私からの提案。
「私の愛用の筆箱あげるから、それで許して欲しい」
志摩子さんが目を閉じ、腕を組んで考えだした。
「…………」
「何を本気で考え込んでいるのよ!?」
由乃さんがツッコミを入れる。
志摩子さんが目を開いた
「魅力的な提案だけど、受け入れる事はできないわ」
なるほど、何か弱みを握られているようね。
私の提案を断った志摩子さんは、しょんぼりしているもの。
そこまでして志摩子さんが従うとしたら、乃梨子ちゃんにも関係のある事ね。
多分アレよ。
一階の倉庫での秘め事。
「まぁいいわ。でも、志摩子さんと戦り合うのはまた今度ね」
「あら、私をバカにしてるのかしら?」
逃がしたりはしないわよ?、志摩子さんの目がそう言ってる。
「いいえ、不意打ちだから戦線離脱するのは仕方がないもの」
「え?」
ほんの一瞬だけ、志摩子さんが私のセリフに気を取られた隙に行動開始。
机から飛び降りる。
けれど、さすが志摩子さん。
私の動きに反応して、もう攻撃&迎撃モーションに入っている。
でも、私のする事はたった一つ。
ただ、名前を呼ぶだけ。
「桂さん」
「は?」
由乃さんが隣の志摩子さんを見た時、志摩子さんの体が傾いた。
床に着地した私に向かって倒れこんできた志摩子さんの体を、私はしっかりと支える。
ピクリとも動かない。
完全に意識を刈り取られている志摩子さん。
さすが桂さん、いい仕事をするわね。
そう思いながら、志摩子さんを近くの椅子に座らせた。
「な、なによそれっ!?」
慌てる由乃さん。
「そこにいるのに見えない。認識できない。でもね、桂さんはどこにでもいるのよ、由乃さん」
「いや、桂さんって……」
「小笠原家直属の暗殺部隊のエースよ」
「なによそれ…………?初めて聞いたんだけど」
「私も初めて言ったし」
一瞬だけ沈黙が訪れる。
「えっと……」
「冗談に決まってるでしょ?単に影が薄いだけよ」
「はい?」
「酷いわ、祐巳さんっ!」
突如として私の隣に姿を現す桂さん。
「いや、冗談だから。ごめんね桂さん」
「あとで何か奢ってよ?」
「分かった」
桂さんの姿がふっと消える。
まぁ、私には見えてるけど。
私の前では、由乃さんが呆気に取られている。
たとえ姿を見られて、そこにいると認識されても、対象者が一瞬でも桂さんから気を逸らせば、
再び姿を隠せるところが桂さんの隠行の技の凄いところ。
由乃さんには、まさしく消えたようにしか見えなかっただろう。
ちなみに、姿を消した桂さんは、既に由乃さんの背後を取っている。
志摩子さん同様、いつでも意識を刈り取れるように。
「な、何よアレ!?ひ、卑怯よあんなの!」
「うん、だから、由乃さんとは私が勝負してあげる」
「……」
睨んでくる由乃さん。
「私をバカにしてるワケ?」
「まさか」
思わず苦笑した。
「祐巳さんでは私には勝てないでしょ?」
「やってみないと分からないでしょ?」
私を睨んだまま由乃さんが竹刀を構える。
間違いなく『突き』が来る。
由乃さんが最も自信のある『突き』が。
それも、今まで私に見せたモノよりも数段上のモノが必ず来る。
相対して数秒経った頃に、由乃さんが唐突に動いた。
今までよりも数倍早い踏み込み。
ほとんど見えない動き。
瞳子か可南子のどちらか一人相手なら、由乃さんが勝っていたわね、この私にそう思わせる一撃。
全身のバネを使った、竹刀による一撃が私に向かって来た。
その先端が回転しているように見えるのは、実際に貫通力、殺傷力を増す為に回転させているから。
最終的に親指と人差し指のみで竹刀を支えることになる。
距離感までずらすというワケだ。
本当にすごい、由乃さん。
ここまで強くなる為に、相当の修練を積んだんだろうね。
令さまも喜んでいる……ってか、もしかして令さま実験台になったんじゃ?
思わず心の中で合掌。
でもね、由乃さん……。
私は強いわよ?
お姉さまとの地獄の特訓の日々を思い出す。
本気の私を見せてあげる。
「なっ!?」
由乃さんが目を見開いて驚く。
右の手のひらで竹刀の先端を受け止めて、同じように回転させるようにして一瞬で竹刀を弾き飛ばす。
パーーーーン!
飛んだ竹刀が壁に当たって派手な音を立てた。
直後、とん――。
と、由乃さんの胸に左手を当てて、気絶させるための一撃を放とうとして、
あれ?
由乃さんって心臓はホントに大丈夫なのかな?
と、心配する。
これ、威力が貫通しちゃうんだけど……。
まさか止まったりしないよね?
でも、もし止まっちゃったら?
お姉さまに頼めば蘇生してくれるだろうか?
いや、それこそ次はロボットになって帰ってくるかもしれない。
……仕方ないわね。
「!?」
由乃さんの胸に当てているだけだった手を、包み込むように変える。
これで準備は完了。
あとは私の好きなように思う存分揉みしだ……。
「祐巳さまっ!」
「邪魔が入ったわね」
残念ながら可南子が来てしまった。
由乃さんの胸から手を離す。
由乃さんは顔を真っ赤にしていた。
私が先程まで触れていた胸を押さえて、その場にペタンと尻餅をつく。
本当に残念。
もう少し時間があれば私の真の力(?)を……。
「今、黄薔薇さまの胸を……?」
「可南子の見間違いよ。ね、由乃さん?」
耳元まで赤くなったまま、こくこくと首を縦に振る由乃さん。
「……」
可南子が訝しげな表情で由乃さんを見ている。
「可南子、私の言う事が信じられない?」
こつん、と可南子の額に私の額をくっ付けてそう言うと、可南子が真っ赤になった。
「い、いえ、そんな事は……」
「瞳子もそろそろこちらに向かって来てる頃かしら?」
「多分そうだと思います」
「じゃあ、こっちから迎えに行きましょうか」
「はい」
素直に頷く可南子。
可南子から離れる。
次いで、由乃さんの方を振り向いて、
「後片付けは任せていい?」
尋ねると、由乃さんが熱い眼差しを私に向けてきた。
頬を赤く染めて、瞳が煌き揺らめいている。
こういう由乃さんもいいわね。
「由乃さん、任せてもいいの?」
「え?……あ、うん」
ようやく我に返ったようで、返事を返してきた。
でもまだ半ばぽーっとしたまま、時たまチラチラと私を見ている。
うぅ、惜しかったなぁ……。
じーっと自分の手のひらを見る。
この手にぴったりと合う胸の持ち主にあったのは初めてね。
それに、服の上からだけど、とっても柔らかかった。
うぅ、私より大きかったんだ。
私、そんなに胸ないもんねぇ。
制服の隙間から自分の胸元を覗いて、ちょっと落ち込む。
由乃さんが、私を見つめているのが分かったけれど、私は何も言わずにその場を後にした。
色々な意味で非常に名残惜しいけど……。



瞳子と菜々ちゃんの二人に会った。
菜々ちゃんは、そのまま由乃さんのいる薔薇の館へと走って行った。
まぁ、はしたない。
思いつつ苦笑。
「それで?結局、お姉さまが?」
瞳子が、可南子の顔を見た後に私に尋ねてくる。
「ええ」
「それは……、黄薔薇さまは災難だったでしょうね」
「ん?どうして?」
「お姉さまは強すぎますもの。自ら戦わないのは強すぎるからなんて普通なら考えませんわ。
 まともに相手が出来るのは、祥子さまだけじゃないですか」
蓉子さまもできるわよ?
というか、当時の薔薇さま方は化物揃いよ?
思ったけど、言わずにおいた。
なんだか悔しいから。
……ねぇ、ふと思ったんだけど。
「リリアンで強くなって、何か意味はあるのかしら?」
「それは……」
「どうなんでしょうね?」
二人が首を傾げる。
「そのうち花寺が攻めてくるとか」
「ありえませんわ」
「さすがにそれはないでしょう」
瞳子も可南子も答えは出せない。
元から期待してなかったけど。
勿論、私にも分からない。
だから聞いた。
でも、まぁいっか。
面白かったし。
あ、そうだ。
志摩子さんに新しい筆箱を買って返さないと。
「ねぇ、銀杏臭漂う筆箱ってどこかに売ってない?」
「見かけた事はありませんが、そんな悪意の塊のようなものを何に使うんです?」
「誰かへの嫌がらせですか?」
善意のつもりなんだけど…………。




「菜々、聞いて頂戴。祐巳さんは最高よ!」
「はぁ……、そうですか」
困ったように返事を返した。
実際、そんなことを言われても困るし。
「私もまだまだだったわ」
「そうですね」
それについては同感です。
次の機会には瞳子さまを倒してみせます!
「祐巳さんの手のひらが私の胸に……、まだこんなにドキドキしてる……」
自分の胸を押さえながら、うっとりとお姉さま。
お姉さまが、あっちの世界に『突き』を放つ時の勢いで踏み込もうとしています。
まぁ、それは別に構いません。
それよりも、
瞳子さま…………、素敵でした…………。


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