【五歳】第六弾。壊れ度が徐々に上がっていく。
『クゥ〜』
華々しく登場を決め。ポーズをながらも、魔女っ子凸・フェティダ=ロサ・フェティダ―黄薔薇さまこと鳥居江利子は困っていた。
隣の紅薔薇さまの額には青筋が見え、目の前には、祥子、志摩子、由乃ちゃんの薔薇の館の住人たちが、白くなった姿を晒し。
その三人の中央には、由乃ちゃんに抱きしめられたままの小さな女の子が江利子たちを呆然と見つめていた。江利子と白薔薇さまの考えた計画では、この姿を見た小さな女の子、祐巳ちゃん……五歳児に楽しんでもらおうと思っていたのだが的が外れたようだ。
だが、江利子はニッヤと笑った。そうでなくてはつまらない。この計画、祐巳ちゃんをダシに使いながら、実際は隣にいる紅薔薇さまをからかうのが目的だからだ。
まぁ、祐巳ちゃんがこんなことに引っかかるとは思えないし。
江利子はそう思いながら、計画を第二段に移行する。
「紅薔薇さま、これでは不味いわ!!第二計画に移行よ」
「えっ?アレするの?」
「そうだね。ここは一気に押してみようか?」
江利子の言葉に白薔薇さまも同意する。せっかく、手芸部を脅してこのコスチュームを作らせたのだ。これだけで終わるのはつまらないというものだ。
「わっ、わかった」
紅薔薇さまは息を呑み覚悟を決める。
「ふー、リリアン、コレアン、ココトリコ、ココナッツ!!祐巳ちゃんに幸せの魔法だ!!えい」
「ぷっ」
「ぶっ!!」
お尻フリフリ、くるくるダンスに手にしたバトンで新体操、挙句の果てに「えい」とキメポーズ。
流石に江利子も白薔薇さまも耐え切れずに、笑いを吹きだす。
「……」
顔が真っ赤かの紅薔薇さま。本当に紅薔薇さま。
そして、白を超え、灰と化して崩れいく。祥子、志摩子、由乃ちゃんの三人。まったく面白みがない。だが、その中で動き出す者がいた。
祐巳ちゃんだ。
祐巳ちゃんは力の抜けた由乃ちゃんの腕の中から逃げ出し、猛ダッシュで扉の方に走りだす。
流石だ、これこそが祐巳ちゃん。江利子たち三薔薇さまは昨日、今日と、祐巳ちゃんを観察して一つの結論を導き出した。つまり、祐巳ちゃんは見たままの女の子ではない。
祐巳ちゃんは知っているのだ、自分の魅力を、そればかりかその魅力をどうすれば最大限引き出し利用できるかを。
「まったく、私の五歳なんて白薔薇さまと、凸、アメリカ人の喧嘩程度だったというのにこの子は……白薔薇さま!!」
「ほい!!」
江利子の声に、白薔薇さまは逃げようとする祐巳ちゃんを捕まえる。
「ぎゃう!!」
怪獣の子供のような泣き声。ちょっと可愛い。
「あっ、うぅぅぅ」
祐巳ちゃんは白薔薇さまに手を掴まれたまま、上目づかいに江利子たちを見つめ震えている。これも演技なのだろうが、ついフラフラと祐巳ちゃんを抱きしめたい気持ちに成るが、すでに成った人物がいた。
「白薔薇さま、何しているのかしら?」
「えっ?えーと、あはははは」
紅薔薇さまの言葉に笑って誤魔化す白薔薇さま。そう、既に白薔薇さまは祐巳ちゃんを抱きしめていた。
「あっ、うぅぅぅ」
白薔薇さまの腕の中で震える祐巳ちゃん。少しヤバイか?
「あうぅ、おねえちゃんたち、ゆみ、いじめるの?」
涙目で少し頭を横に向ける祐巳ちゃん。きっと、この子はそこまで計算して表情を作っているのだろうが、やっぱり可愛い。それに、面白い。
「祐巳ちゃん、私たちは祐巳ちゃんを虐めないわ。あっ、自己紹介がまだだったわね。私は江利子。黄薔薇さまを務めているの」
「えりこおねえちゃん?」
えりこおねえちゃんえりこおねえちゃんえりこおねえちゃん。
「うっ、くっ!!」
なんて可愛い。そして危険な子。これは予想以上に面白い。
何も知らずに近づけば、その、子狸きのような姿に化かされるだけだ。
「そうよ、祐巳ちゃん。私たちはただ祐巳ちゃんとお話がしたかっただけ」
「おはなし?」
「そう」
「うん!!おはなしする!!」
祐巳ちゃんは確実に江利子たちの危険性を把握しているのだろうに、この状態で笑顔になれる祐巳ちゃん。やっぱり面白い!!
「そうだ!!せっかくだから良い物あげるね」
「なに?」
江利子はどこからか紙袋を取り出すと、その中から小さな洋服を取り出した。
それは江利子たちが着ているような魔女っ子服を更にふりふりにしたものだった。
瞬間、祐巳ちゃんの笑顔が引きつるのを江利子は見逃さない。
どうやらこの手のことは苦手なようだ。
「えっ、え〜と、でもぉ」
「いいから、いいから」
どうにか逃げようとする祐巳ちゃんを江利子は無理やり押さえつけた。その瞬間だった。
「いや〜ん!!えりこおねえちゃん!!へんなとこ、さわってる〜〜〜!!」
祐巳ちゃんの泣き声が響いた。
江利子の周囲に黒い影が出来上がる。
江利子は振り向きながら思った。江利子以外の二人の薔薇さまへの注意を怠っていたことを。そして、祐巳ちゃんは江利子と紅薔薇さま、白薔薇さま三人の様子を確実に掴んでいたことを。
「「何しているのよ!!あんたは!!」」
紅薔薇さま、白薔薇さまの声が重なる。
グッ、ゴォ〜〜〜〜ンンン!!!
江利子の頭に金ダライが直撃した。
江利子はなぜ?金ダライと思いつつ。その顔は、これ以上にないほどに満足していた。
「江利子さま、あまりにも好奇心を優先させると墓穴を掘りますよ」
祐巳は金ダライの下で笑顔のまま倒れた江利子さまを見つめていた。
五歳児、祐巳VS江利子さま。どうでしたでしょうか?江利子さまは、こんなことくらいでは負けないとのご意見もあるかとも思いますが、意外に墓穴を掘るタイプでは?との疑問からこうなりました。それと、マリみて―無題を読み返して以外に三薔薇魔女っ子ってアリ?などと思ってしまいました。
『クゥ〜』