【1436】 「あ〜〜ん」攻撃そりゃないぜ  (クゥ〜 2006-05-03 00:17:35)


     【五歳】第七弾。古いのはすぐ下にありますが、最初から読まないと意味が分からないSSのため。過去Noを用意しました。
【No:1429】→【No:1430】→【No:1431】→【No:1432】→【No:1433】→【No:1435】
 これは祐巳が五歳児だったら?の設定ですが。祐巳が黒いので注意してください。
                                  『クゥ〜』




 「やっちゃった」
 金ダライを黄薔薇さまの頭上に叩き込んで、魔女っ子ウサ・ギガンティア=ロサ・ギガンティア―白薔薇さまこと佐藤聖は呟いた。
 昨日、リリアン高等部一年に転校してきた福沢祐巳ちゃん、五歳児。彼女には注意が必要だと思っていたのに、つい、祐巳ちゃんの悲鳴を聞いて、思わず手が出てしまったのだ。
 まぁ、恥をかかされた紅薔薇さまの怒りがこれで治まってくれるのなら、まぁいいかと聖は思うことにした。よく見れば、金ダライで叩かれるという貴重な体験をした黄薔薇さまは何だか嬉しそうな顔だし大丈夫だろう。
 「それよりも」
 聖は黄薔薇さまから祐巳ちゃん用に用意した魔女っ子服を取り上げると、祐巳ちゃんの前に座る。
 「大丈夫、悪人は退治したから」
 「ほんとう?」
 「うん!だからこれにお着替えしましょうね〜。ねっ、紅薔薇さま」
 聖は振り返って紅薔薇さまに確認する。これで一先ずは黄薔薇さまの二の舞になることは防いだはずだ。
 祐巳ちゃんはキョロキョロと聖と紅薔薇さまを交互に見て小さく頷いた。
 「う、うん」
 よし!
 聖は小さくガッツポーズを決める。
 「あっ、私は白薔薇さまで聖お姉ちゃんと呼んでね」
 「うん、せいおねえちゃん!!」
 せいおねえちゃんせいおねえちゃんせい……。
 「う〜ん、悪くないけど。もう一ひねり欲しいなぁ」
 聖は、皆と同じように呼ばれることに少し不満を感じていた。
 う〜ん、お姉さまは志摩子に呼ばれているから……でも、聖さまもなぁ。
 「ちょっと、白薔薇さま。手伝ってよ」
 「えっ?あぁ、ごめん」
 見れば紅薔薇さまが祐巳ちゃんの着替えを手伝っている。
 聖も紅薔薇さまを手伝って祐巳ちゃんを着替えさせる。黄薔薇さまデザインの魔女っ子服。着替えさせるのに帯とかついていて少し大変だった。
 が……。
 紅薔薇、白薔薇、黄薔薇をモチーフにしたコスチュームは祐巳ちゃんにぴったりで。
 「お、お持ち帰りしたい」
 「なっ、不謹慎なこと言わないの!!」
 聖の言葉に反応する紅薔薇さまだったが、その紅薔薇さまも魔女っ子祐巳ちゃんを前にして何時もの威厳がない。
 「せいおねえちゃん」
 「ん、なに?」
 「これ、にあってる?」
 少し恥ずかしそうに体を横にしたまま、上目づかいで聖を見る祐巳ちゃん。
 「うっ、か、可愛い」
 本当に祐巳ちゃんは自分の武器を知っている。だが、可愛い子ダヌキに騙されるつもりはない。まぁ、少しくらいなら騙されるのも楽しいが、それはまた今度でいいだろう。
 聖は祐巳ちゃんを見ていて何処か悲しいものを感じていた。
 五歳児で高等部にとび級してしまうような子だ。子羊の集うリリアンでも祐巳ちゃんは特殊で異質でしかない。
 そんな自分を異質と思う子が取る行動は、周囲に多くの味方を作るか、または自分から孤立するかだ。
 志摩子とは反対にいる子。それが祐巳ちゃんだ。
 だが、祐巳ちゃんは自分を知っている。自分の魅力を、自分の力を。だからこそ一度、祐巳ちゃんには痛い目にあってもらわないといけない。
 それには黄薔薇さまのように自分の趣味に走りすぎるわけにはいかない……が。
 「えへへへへ、えへへへへへ」
 照れ笑いを浮かべながら魔女っ子服で走り回る祐巳ちゃん。
 どたどた、ばたばた。
 なんだか本当にその姿は天使のように可愛く、趣味に走りたくなってしまう。
 「あっ!」
 走り回っていた祐巳ちゃんが突然止まる。見れば祥子たちが向こうの世界から戻ってきたようだ。
 「……祐巳」
 「ゆ……祐巳ちゃん」
 「祐巳ちゃん」
 「さちこおねさま、しまこおねえちゃん、よしのおねえちゃん。だいじょうぶ?」
 祐巳ちゃんは三人の前に行って、魔女っ子服のまま下から覗き込む。
 「「「!!」」」
 三人の顔が真っ赤だ。
 「えへへ、どうかな?せいおねえちゃんにきせてもらったの!!」
 祐巳ちゃんが聖に甘えてくる。
 「「「着せた?」」」
 「ま、不味い!!」
 聖が気がついたときには遅かった。祐巳ちゃんは既に次の行動に出ていたのだ。
 「あ〜ん!!せいおねえちゃん!!ちゅ!!」
 嫉妬、それは人を変える。
 祐巳ちゃんが、聖のほっぺにキスした瞬間。
 黒い三つの影が聖に迫っていた。
 志摩子、その手の護符は何?
 由乃ちゃん、どこからその木刀を取り出したの?
 祥子、貴女、そんな巨大な辞書の角をこちらに向けないで!!
 三人とも落ち着いて、特に志摩子!!貴女、私の妹でしょう!!その態度はないのじゃない?
 聖の願いもむなしく。
 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 聖の絶叫が薔薇の館に木霊する。


 祐巳ちゃんがボロボロになった聖に近づく。
 「だいじょうぶ?せいおねえちゃん」
 「あっ、うぅ、祐巳ちゃん」
 祐巳ちゃんは涙を浮かべ、聖に向かって心配そうな顔をしながら。
 「何を考えていたか知らないけど、もうちょっとだったのにね。聖」
 と、甘く囁いた。
 

 「あっ、呼び捨て……いいかも……」
 聖の意識は闇に沈んでいく。その中で、祐巳ちゃんが何度も聖を呼び捨てにしていたのだった。



 聖さまVS五歳児、祐巳。江利子さまに続いての薔薇さま編。
 この祐巳は、静かに黒いです。が、いよいよ蓉子さまが相手。
 祥子さま、志摩子さん、由乃さんも復活しました。
 どう書けばいいかまったく分かりませんが、次もお付き合いください。
                             『クゥ〜』


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