むかしむかしあるところにツンデレラというむすめがおりました。本当の名前は松平瞳子といいましたが、ツンデレの松平、略してツンデレラと呼ばれていたのです。何故瞳子ではなく松平を略したのかとか考えてはいけません。
ツンデレラは継母と二人の継姉たちにいつもいじめられていました。
「ツンデレラ、掃除は済んだのかしら?」
「はい、祥子お姉さ……お継母さま」
お継母さまこと祥子さまはお約束とばかりに窓枠につーっと指を滑らせました。ですが指先には埃一つ付かずキレイなままでした。どうやらツンデレラはなかなか優秀なようです。
「………# やり直し!」
「な、何故ですの!?」
「私がやり直しと言ったらやり直しなのよ。早くしないと晩御飯は抜きですから」
うっわー、あいかわらずな傍若無人っぷりですね。なんじゃそりゃーと突っ込みたいところですがそこはツンデレラ。健気に従うしかありません。
しかし祥子さまは意地悪な態度をとらせると実にサマになりますね。
「なんですって!?」
ナレーションにツッコミ入れても無意味ですから。
「ツンデレラ、ドレスは仕上がったの?」
姉その1こと由乃さんが実に意地悪そうな表情で聞きました。ぶっちゃけ、聞くまでもなく終わるはずのない仕事量なのです。
「いえ、お姉さま、まだ途中……」
「まだできないの。まったく何をぐずぐずしているのかしら」
「………#」
そんなこと言うなら自分でやってみやがれと言いたいところですが、やはりそこはツンデレラ。健気に従うしかありません。
しかし由乃さんも意地悪している様子が実に楽しそうで凄くよく似合ってますね。
「なんだとうっ!?」
だからナレーションにくってかかっても無駄だというのに。
「まあまあ由乃さん。それで瞳子ちゃん、じゃない、ツンデレラ、どれくらいできたのかしら?」
姉その2こと祐巳さんが何かを期待するようなきらきらした目で瞳子、いえ、ツンデレラを見ています。
「はい、お……」
何故か途中で固まる瞳子ちゃん、もといツンデレラ。
「おね………」
「おね?」
きらきら。
「おねえ…………」
「あーもうじれったいわね。こんなセリフ一つ満足に言えないわけ?」
思わず割って入った姉その1。あ、ツンデレラがちょっとカチンときたようです。女優魂に火がついたのかもしれません。
「お、お姉さまっ!!!」
「はい!」
顔を真っ赤にして凄い形相で姉を怒鳴りつけるツンデレラと何故かへにゃへにゃと嬉しそうな姉その2。
「……なんか違う」
おもわず呟く姉その1こと由乃さん。気持ちはわかります。
「できたのはまだ一着だけですわ」
「うわーさすがだね瞳子ちゃん。もう、一着できたんだ」
「ほっほっほ、とーぜんですわ!」
「じゃあ私も手伝うから早く終わらせちゃおうか」
「祐巳さん祐巳さん、セリフ全然違うから」
「あっ」
ちょっとミスキャスト気味ですね。とりあえず話を続けましょう。
「えーと、急がないと舞踏会に間に合わないじゃない。なにをもたもたしているの」(棒読み)
無理なものは無理なんだと言いたいところですが、しかしやっぱりそこはツンデレラ。健気に従うしかありません。
「祐巳さまに言われる筋合いはありませんわ」
「ううっ、そうだよね」
従えっつーの。
さて、あわててドレスを仕立てているのにはわけがありました。王子様がお城で舞踏会を開催することになったのですが、一般参加自由で、噂では花嫁候補を探すという目的もあるということでした。そんなことをしないと相手を見つけられなかったのでしょうか、この王子様は?
それはさておき、これを聞いてツンデレラの継母と継姉二人は早速参加することにしたのでした。うまくいけば玉の輿です。特に姉その1の意気込みは大変なものでした。
なんとか間に合うようにツンデレラが仕立てたフリフリのドレスにちょっとひいたりもしましたが背に腹はかえられません。ツンデレラ一人に留守番を言いつけ、3人はお城の舞踏会に出かけたのでした。
一方、家の人達がいなくなったので一人優雅にお茶を飲みながらどうしたものかと思案していたツンデレラの前に現れたのは、志摩子さ、もとい、通りすがりの魔法使いでした。
白薔薇に黒マントかよ。イメージ違うじゃんとか思ったアナタ、表情を消した志摩子さんは怖いくらい美しくて神秘的で、雰囲気バッチリですよ。
「ツンデレラ」
にっこり微笑んだ瞬間、なんだかすごく微妙な雰囲気になりましたが。
「魔法使いって通りすがるものなんですの?」
「毎日熱心にマリア様にお祈りしているあなたの願いをかなえましょう」
しかもヒトの話を聞いていません。
「別にそう熱心にお祈りしているわけでは………」
「毎日マリア像の前で熱心に祐巳さんがどうとかこうとか……」
「あーあーっ!! そういえば、この紅茶にあうケーキが欲しいですわ!」
魔法使いはにっこりと微笑みました。……………でも目が笑っていませんでした。
「さあ、願いを言いなさい。あなたの望みはなんですか」
「い、いきなり願いを言えといわれましても………」
「今頃、祐巳さんは王子様とダンス中かしらね」
「私も舞踏会で祐巳さまと踊りごほごほっ」
何故かいきなり紅茶にむせるツンデレラです。
「舞踏会に行きたいのね?」
魔法使いはにっこりと微笑むと、杖を一振りしました。
するとツンデレラは真っ赤なド派手なドレスに身を包まれていました。もちろんガラスの靴も標準装備です。
「歩きにくいんですけど」
「さあ、今度はかぼちゃをとってきて」
「……本当に、人の話を聞いていませんわね」
さて、お城では舞踏会の真っ最中でしたが王子様はダンスのお誘いを片っ端から断っていました。何様だと言いたいところですが正真正銘王子様です。
ちょうどツンデレラの姉達がダンスを申し込んでいたようです。
「王子様、是非私と一曲……」
「私は誰とも踊らない」
「断る……? 私の申し出を断るの?」
「うっ」
姉その1こと由乃さんの目がかなりヤバイ感じに据わっています。
王子様こと令さまの顔がひきつりました。
「い、いや、ちょっと待っ……」
ですが、断るったら断るのです。
「ああああああ、由乃ぉー」
なにやら後ろで悲痛な叫びが聞こえる中、満を持してツンデレラが登場しました。
「さすがにお城のケーキは一味違いますわね」
いきなり色気より食い気にはしってますよツンデレラ。
「し、失礼な。探求心と向上心から研究しているだけですわ」
「あはは、まあまあ瞳子ちゃん。せっかく来たんだからダンスもしようよ」
「……祐巳さまがそうおっしゃるなら」
そっぽを向きつつ祐巳の、じゃなくて姉その2の手を取るツンデレラ。
「え? 私とじゃなくて王子様と……」
「今は無理そうですわ」
「へ?」
見れば。
「何? 令ちゃんはそんなに瞳子ちゃんと踊りたいわけ!?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
王子様と姉その1はなんだか修羅場中のようです。傍らでやれやれとばかりに肩を竦める継母がちょっと印象的でした。
「あー………」
困ったように笑ってとりあえずはツンデレラと踊る姉その2。これはこれで満更でもなさそうです。
その二人のもとに、ようやく王子様がやってきました。もちろん姉その1も一緒に付いてきましたが。
「あ、こっち来た」
「是非私と一曲……」
「ちょっと令ちゃん、話はまだ……」
「……(邪魔しないで欲しいですわね)」
「話は聞きました」
「「「「うわあっ!」」」」
突然現れたのは通りすがりの魔法使いでした。
「そこな二人」
王子と姉その1を指さして魔法使いは言いました。
「あなた方はお互いに自立する必要があります」
「なっ!?」
アドリブだったようです。
「そしてあなたは……」
姉その2を見て言いました。
「自分や周りの人の想いに無自覚過ぎます。もう少しだけ注意して踏み込んでみてごらんなさい」
「はあ」
「そしてツンデレラ」
魔法使いはにっこり笑って言いました。
「あなたはもっと自分の心に素直におなりなさい」
「よ、余計なお世話ですわ」
魔法使いはもう一度にっこり笑いました。
「……………」
「今一度問います。あなたの望みはなんですか?」
「私の、望み?」
「そう、あなたがこれからしたいことでもいいわ」
ツンデレラはなんとなく視線を逸らして傍のテーブルを見ました。そこにはさっき食べていたケーキが並んでいます。それに気付いた姉その2が言いました。
「ケーキ屋?」
「違います! 本当にもう少し考えてからしゃべってください!」
「あ、あはははは。ごめんごめん。でもちょっと残念かな。ケーキ屋なら一緒にやってみたかったなあ」
「い、一緒に?」
「うん、一緒に。ケーキに囲まれた生活なんて、なんだか素敵だよね」
「………き、喫茶店ですわ」
「へ?」
「ケーキセットです。おいしいケーキにはそれにあった飲み物も必要でしょう」
「ああそうか! さすがだよ瞳子ちゃん」
「当然ですわ」
こうして、ツンデレラは姉その2と一緒に喫茶店を開き、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし