【五歳】でもなく。【ARIA】でもない。もの
【五歳】のオチ考えていて疲れたので逃げて書いたSSです。
ある漫画のクロスですが、分かります?
『クゥ〜』
お祭りのような世の中がゆっくりと落ち着いてきたあの頃。
のちに夕凪の時代と呼ばれるてろてろの時間。
「ふっう」
祐巳は海辺の古びた大きなお屋敷の窓辺で、潮騒と潮風を感じていた。
このお屋敷には祐巳しかいない。祐巳のオーナーは数年前「旅に出てくるわ」といっていなくなった。まったく、どこで何しているのか。
祐巳は思う。自分がロボットでよかったと。
何時までも待っていられるから。
祐巳はぼんやり窓辺でコーヒーを口にしながらボーとしていた。
大きなお屋敷には、今は祐巳、一人だけ。別に寂しいとは思わないがやることもないので暇だ。
大きなお屋敷は一応、使わない部屋を宿にして、一部を小さな喫茶店にしているが道外れのこんな辺鄙な場所に来る客は少ない。
だから、一年に一度のお客さんでも顔なじみになれるお店だ。
「今日もお客はないなぁ」
祐巳はそう思いながら、もう一度コーヒーを口にする。
ピンポーン!!
突然、潮風の音を打ち消す呼び鈴の音。
「?」
……母屋のほうだ?
祐巳は呼び鈴の音に怪訝な顔をしながら、テーブルに置いた拳銃を背中に隠し母屋に急ぐ。
「はーい、どちらさま?」
母屋の大きな扉を開くと一人の女の子が立っていた。
「あの、ムサシノ宅配便ですが、小笠原祐巳さんですか?」
「えっと……あぁ、そうだ!私だ!!あはは、フルネームなんて聞いたの何年ぶりだろうね」
「は、はぁ」
おかっぱ頭の日本人形のような女の子は少し困った顔をしていた。
「あの」
「は、はい」
女の子は手に提げた鞄から小さな小包を取り出す。
「えっと、お荷物です。小笠原祥子さまから」
「えっ?」
それはもう何年も会っていないオーナーからだった。
「ごめんねぇ、つき合わせちゃって」
「いいえ、帰りの迎えが来るまで時間がありますから」
祐巳はノリコと名乗った宅配便の彼女を喫茶店に連れてきてコーヒーを出す。
「あっ、すみません」
「いいの、いいの。ここのコーヒーってほとんど飲んでいるの私だし」
祐巳はノリコの前に座り、自分宛に届いたオーナーからの小包を開く。
中から出てきたのは緩やかな曲線の小さな機械。
「これってカメラかな?」
「みたいですね」
「もう、なんでカメラなのかな?なんか手紙とか一枚くれてもいいようなものなのにねぇ」
「ありますよ。手紙」
コーヒーを飲んでいたノリコは何の気なしに言った。
「へっ?あるの?」
「はい」
祐巳は簡単に頷くノリコをみて「はい」と手を差し出す。
「あっ、いえ、手紙ではなくメッセージです」
「あっ、あぁ、そうか。じゃぁ、はい」
「……あの、ですから、直に」
「ジカ?」
話の噛み合わない祐巳にノリコはさらに困った顔をする。
「あの、失礼ですが、A7M2型機でいらっしゃいますよね」
「A7……あー、なんかそんな名もあったような。あぁ、それで直に?……えっぇぇぇぇ!!!貴女、ロボットなの?!」
「えっ!分からなかったのですか?私、普及型のA7M3型機なんですけど?」
「そんなの分からないよ〜」
「分かりますよ。雰囲気とか髪の色とか」
そういえば祐巳の髪は緑。ノリコは紫だ。
「と、言うことは」
「ですから直」
「あっ!うぅ、ねぇ、言葉にしない?」
「ですから、私はメッセージの中身まで知らないのですよ。すぐに終わりますからちゃちゃと終わらせましょう」
そう言って祐巳の手をとるノリコ。
「う〜」
祐巳は恥ずかしいながらも同意するしかなかった。
……。
…………。
ノリコから送られてきた画像と懐かしいオーナーの声。
『祐巳、元気でいるかしら?まだ、しばらくは帰らないので好きに出歩きなさい。貴女にとって十年も一日もさして変わらないでしょうけど。そのとき懐かしく思うことも出来るだろうから、その記憶の助けになるようにカメラを送るわ。それじゃぁ、ごきげんよう』
まったく、もう。
「懐かしいことくらい、沢山ありますよ」
祐巳は誰に言うとでもなく呟いた。
「ありがとうね」
「いえいえ、何かありましたら連絡をください。あと、それとここってホテルもやっているんですか?」
「うん、いつでも来てよ」
「あっ、はい!!」
「それじゃぁ、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
迎えの車の荷台に乗り込むノリコ。祐巳は手を振るノリコを、使い方を教えてもらったカメラで写す。
――チュン!!
祐巳が撮った最初の写真は、小さく手を振る可愛い妹だった。
乃梨子を選んだのはただの髪形だけです。あと妹も元ネタを知っていないと勘違いしますがスールの意味ではありません。
また、【五歳】の気分転換ですので気楽に呼んでください。
『クゥ〜』