【146】 あなたの知らない三姉妹おむすびころりん  (春霞 2005-07-03 01:52:13)


◆◆◆ 注意 ◆◆◆ このSSは読みようによっては、微妙にネタばれを含みます。気を付けてね。 (山百合会からのお願いでした)


ある日、お爺さんとお婆さんは連れ立って、山へ柴刈りに行きました。

「何故私がおばあさん…。」  なにやらお婆さんは気になる事があるようです。 顔色がさえません。
「何か言って? お婆さんや。」  にっこり。
お爺さんとはとても思えないような、美しく白々とした微笑です。
(何故か、世界の闇が少し深くなったような気がするのは、きっとナレータの気のせいですよね。うん。)
「ナレータさんも何か?」  にっこり。 (いいいい、いえっ。何でも有りません。 どうぞお続け下さい。)
「よいお天気だこと。 今の時期なら、きっと美味しい独活の芽やタラの芽も採れるわね。 そう思わなくて? お婆さんや。」  さらに にっこり。 ああ、まぶしすぎます。
「そうですね。」  どうやら深く考えるのを止めたお婆さんが、そのクールな表情を緩めます。
「ですが、当初の目的も忘れないようにしないと。 柴を刈って帰らないと、今夜は紅茶が入れられません。」
「そうね。では、先ずはたくさん柴を刈りましょう。」
                     ・
                     ・
                     ・
そうして、ひと抱えもある柴の束が、三つ四つと出来る頃には、お天道様はすっかり真上に来ていました。
「お爺さん。 そろそろお昼にしませんか?」  いそいそと取り出す籐編みのランチボックス。 何人分入っているのか、かなり大きい。
「まあ、今日のおかずは何かしら。 うふふふふ。」 
「えっとね。」 おもむろに片手を突っ込み、ぐいと引っ張り出すお婆さん。

「え?」
「え?」
どりる? そんなものを食べる気だったんですか? お二方。 …お腹壊しますよ。
ぽとり。 精神的な衝撃のせいか、ドリルを取り落とすお婆さん。 折悪しく、斜面は随分と急で、ドリルはコロコロころころ転がってゆきます。
「あ、あ、待って。」  お婆さんは随分と慌てて真剣に追いかけます。 お爺さんは、なんだか楽しそうに後を追います。 ちゃんとランチボックスを持っていく辺り侮れません。 そうこうする内に。 すってんころりん。
「うわっ。」  なんとドリルは人の頭の大きさほどの穴に、すってんてんと転がり込んでしまいました。 中を覗き込んで見ますが、奥が深いのか、真っ暗でよく見えません。
「ああ、ドリルが。」  お婆さんは諦められないのか、なおも穴を覗き込んでいます。 と、その時。

すってんころりん、すってんてん。ドリル転がり すってんてん ♪

なにやら楽しげな歌が聞こえてきます。
「まあ。」
「これは。」
歌詞は素朴ですが、伸びやかで艶やかな声に二人は聞き惚れてしまいます。

「もっと歌って下さいまし。」 ランチボックスから取り出したものを、お爺さんは楽しそうに穴に転がします。

すってんころりん、すってんてん。 なべだ鍋だよすってんてん。 狸汁だよすってんてん。 ♪

「あの、あんまり転がすと、私たちのお昼がなくなっちゃうよ。 お爺さん。」
「まあ、それは残念ね。もう少し聞きたいわ。」
って、それよりお二方。 そんなに身を乗り出していると自分達が、転がり…。  言わんこっちゃ無いですね。 あ〜あ。二人仲良く落ちて行っちゃった。  うん、ここはナレータも付き合うしかないか。 ダンジョンみたいで、楽しそうだし。 えい。
(さっきは 先に転がり落ちかけたお爺さんが、お婆さんの手をつかんで巻き込んでいたように見えたなあ。 でも、きっと気のせいだよね。)
                        ・
                        ・
                        ・
お二人が穴の一番奥まで転がり落ちると、なんと、そこでは黒鼠さんたちが土木工事をしてらっしゃいました。
「コレは一体?」  呆然としている二人に、責任者らしい黒鼠が声をかけます。
「ごきげんよう。 差し入れを有難う。 ちょうど秋の大祭に向けてホールの増設工事を始めた所だったのだけれど。 ごらんの通り、人手も、道具も足りなくって困っていたのよ。」  さっと現場を指し示す。
そこでは落としたドリルが有効に活用されていた。
「狸汁も美味しく頂いたわよ。」  え、頂いちゃったんですか。うわ〜.
「さあ、お礼の宴をひらきましょう。」
リーダさんが良くとおるお声で、そう宣言すると、そこかしこから わらわらと子分鼠が集まって盛大な宴会が始まりました。   メインイベントはリーダさんの独唱でしたが、これが皆の胸を打つ素晴らしいもので、やんややんやの大喝采。 時間はあっという間に過ぎていきました。

「さて、そろそろ帰りませんと。 山の日暮れは早いですから。」  冷静なお婆さんの一言でお開きです。 そして恒例のお土産選びです。
「大きな葛篭と小さな葛篭と、どっちが良いかしら。」  リーダ鼠さんが悪戯っぽく問い掛けます。
大きなほうは人の背丈ほどもあり、背負子まで完備しています。 小さいほうは両手に乗るくらいの手文庫サイズです。
「では、お約束どおり。 小さいものを頂いてゆきます。」  クールに決めるお婆さんにメガネをかけた子分鼠がお土産を手渡してくれます。
「クオリティは保証するわ。 なんたってエース入魂の一品よ。」
何の事か良くわかりませんが、二人は家路に着きました。
なお、家に帰って葛篭を開けると、入っていたのは『エース入魂の萌え萌え光画10枚組 × 2セット』だったそうです。 二人は夫々にとって大事な一枚を残して あとは好事家に売ってしまい、巨大な資産を形成したそうです。

                      ◆

さてさて、その話を聞きつけた 隣の欲張り爺さん。
いびつなおにぎりを一生懸命つくり、穴にころころ転がして、巧い事黒鼠の宴に入り込みます。
「ここからが本番よ。」  イケイケな欲張り爺さんが、おもむろに三つ編みをほどくと髪の間から ピンっと立ち上がったふさふさの耳! くわっと開いた眼の虹彩は縦に裂けている!
「にゅーおぅ。」  く、く、く、鼠なんてひと鳴きで雲散霧消ね。 あとはお宝を独り占め。
って、内心の声を口に出してますよ。 おじいさん。
「いいの。勝利は目前。雌伏のときは過ぎたのよ。」  さらに好調そうな欲張り爺さん。 だけど?

「ふ、猫ごときに怯む黒鼠一族では有りません。 みなさん。 やっておしまいっ!!」
『おおー』
一斉に襲い掛かる黒鼠子分たち。 迎え撃つ爺さんの手には、いつのまにか二刀が。
「悪・即・斬」 しゅきーん。
「フラッシュバックアターック。」 ばしゅばしゅ。
「ペンは剣より強し攻撃。」 しゅしゅしゅ。

「ほら、ナレータ。 あなたも手伝うのよ。」  え、え、良いんですか。 ダンジョンズあんどドラゴンズっぽくて、参加したいのは山々なんですけど。
ナレーションのお仕事は?
「なに、ごちゃごちゃいってるの。 私と仕事とどっちが大事なの?」  えーとそれじゃあ。 参戦 (ルン

  【【【【【 ナレータが職場放棄をしたため、現在映像・音声ともに入りません。 暫らくこのままのチャンネルでお待ちください。 】】】】】

……。えー。お待たせしました。ナレータ復帰です。
ただ今歴史的な握手が行われております。 猫と鼠。 決して相容れないはずの両者が、いまお互いを認め熱い握手で称え合っております。
「おお、なんと言う労りと友愛の心じゃ。 Ωが心を開いておるぅぅ。」  て、貴女どなたですか? いきなり何所から出てくるんですか。これ以上作者を混乱させたらダメです。 ぐいぐい。
「ああん。折角面白センサーに引っ掛ったのに。 曾祖母ちゃんを邪険にしちゃダメよぅ。」  いやもう。お願いですからこれ以上混乱させないで下さい。 ぐいぐいぐい。
「仕方ないわねえ。 曾孫に免じて今回だけよ。」  おお、やっと退場してくれた。

さて、現場に目を戻しましょう。
いつのまにか、さらに意気投合した模様です。 肩を組んで蛮歌を放吟しています。

これにて 山百合会的おむすびころりん。 一巻の御終いです。
どっとはらい。


一つ戻る   一つ進む