【1474】 わいわい  (翠 2006-05-15 23:40:48)


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「持ち物検査よ!」
薔薇の館にみんなが集まった時に由乃さんが言った。
あー、多分先日の騒ぎの時に発覚した、菜々ちゃんのアレのせいだ。
「なによ、祐巳さん。文句あるの?」
いいえ。この私も紅薔薇さまとして、学園に必要ない物を持ってくるのはどうかと思うし賛成よ。
「あるに決まってるじゃない、息抜きは必要よ?その辺りの事が分からないなんて由乃さん、バカ?」
「祐巳さん!?」
「お姉さま、本音と建前が逆ですわ」
瞳子、分かっててやってるから無粋なツッコミなんて入れないで。
「というわけで、マイナス二十ドリルね」
「なんですか、その単位は!?」
「ドリルはツッコミの単位よ」
「そんなこと聞いた事がありません」
瞳子が私を睨んでくる。
何が気に入らないの?あ、景品が無い事かな?仕方ないわね。
「百ドリル集めると、素敵な縦ロールをあげるわ」
「いりません!」
「じゃ、横ロールは?」
「なんですかそれは?」
瞳子をからかって遊んでいると、横から由乃さんが割り込んできた。
「ちょっと祐巳さん。話が脱線してるわよ」
「させようとしてたんだから当然よ」
「……」
今度は由乃さんが睨んできた。
仕方ないので溜息をつきながら尋ねてみる。
「で、結局どうするの?持ち物検査、やるの?やらないの?」
「やるわよ!」
「じゃ、早くやってよ。こっちは色々と忙しいのよ」
「あ、あんたねぇ……」
由乃さんがまた私を睨んできた。
そんな由乃さんに話し掛けたのは乃梨子ちゃん。
「由乃さま、祐巳さまを構っていると話が進みません」
「乃梨子ちゃん、そんな……、私のことなんてどうでもいいのね?」
泣き崩れる私。
「はいはい、祐巳さまは黙っておいてください」
「りょうかーい」
今は乃梨子ちゃんをからかっても仕方ないので、大人しく自分の席に戻る。
「じゃあ、みんな鞄を机の上に置いて」
由乃さんの言う通りにみんなが鞄を机の上に置いた。
「じゃ、まずは乃梨子ちゃんから」
「はい」
乃梨子ちゃんが鞄を開けて、中のものを机の上に置く。
「どうですか?私は要らない物なんて持ってきてませんよ?」
当然ですが、と自信満々の乃梨子ちゃん。
「……」
由乃さんが額に手を当てた。
「乃梨子ちゃん」
「なんですか?」
「なんで鉛筆と消しゴムばっかり出てくるのよ?」
「え?ああ、投げるのに最適なんです」
「と、飛び道具の乃梨子……」と由乃さんが呻いた。
ああ、乃梨子ちゃんも遂にこちら側に来てしまったのね。
ようこそ乃梨子ちゃん、私は歓迎するわ。
「もういいわ。次は志摩子さん」
由乃さん、諦めちゃったみたい。
「ふふ、いいわよ」
乃梨子ちゃんと同じように自信満々な志摩子さん。
志摩子さんが鞄を開けて、中のものを机の上に置く。
「どう?」
「……」
普通に教科書やら筆箱やらが出てきた。
期待外れもいいところ。
いや、待て。
相手は志摩子さんなのよ。
……アレだ!
「由乃さん、あの教科書」
「え?これ?」
由乃さんが私の指差した教科書を手に取ると、志摩子さんの顔色が変わった。
「別に何も変わったところなんて……」
教科書を開く。
「……」
教科書の隅に約二百ページに渡って描かれている、
乃梨子ちゃんと志摩子さんが絡んでいるちょっとエッチなパラパラ漫画。
志摩子さんの顔が真っ赤(というか真っ青)になった。
「次は菜々ね」
あ、由乃さん、見なかった事にした。
きっと由乃さんには刺激が強かったのね。
まぁ、いいわ。
次は楽しめそう。
だって、由乃さんに名前を呼ばれた菜々ちゃんは目に見えてうろたえているもの。
「ええっと……」
「早くしなさい」
「はい……」
強い口調で言われた菜々ちゃんが、渋々鞄を開けて、終始無言で中のものを机の上に置く。
おお!
次から次へと出るわ出るわ。
紙パックの牛乳(なんとなく理由が分かって皆の涙を誘った)とビー玉四つ。
数冊の文庫本に爪楊枝が数本と、オカリナとトライアングルとカスタネットが各一つずつ。
何に使うのか分からないものから、なんで持ってるのか分からないものまで、
所狭しと机の上に並べられていく。
由乃さんが呆れた顔してそれらを眺めている。
「オモシロ生物の妹は、やっぱりオモシロ生物でしたとさ」
そう言った私を睨んだあと、菜々ちゃんに向かって怒鳴る由乃さん。
「菜々っ!あんた、学校をなんだと思ってるのよ!」
「出会いと別れを経験し、青春を謳歌しつつ勉学に励む場所です」
「……」
由乃さん沈黙。
教科書一冊すら入っていない鞄の、どの辺りに勉学が入っているのか聞いてみたい。
私がウズウズしていると、由乃さんが諦めたように、
「次、可南子ちゃん」
と言った。
ちぇ、残念。
「はい、どうぞ」
可南子ちゃんの鞄からは、当然のように今日使った教科書が数冊出てきた。
ん?
「ねぇねぇ、この『祐巳さま帳(ユミ・ノート)』ってなに?」
表紙にそんな題名が書かれていたノートがあったので尋ねてみる。
「その名の通り、『祐巳さま帳(ユミ・ノート)』です」
ノートを開いてみる。
事細かに私の事が書かれていた。
ほー、なかなかやるわね。
でも、スリーサイズの部分は少し訂正しておきたい。
というか、ちょっとくらい水増ししておいて欲しい。
「あ、一昨日の可南子としたエッチな事まで書かれてる」
「ええっ!?」
そんな事してたなんて知りませんよ?と、私の隣の瞳子が言ってくる。
「瞳子は演劇部の方に行ってたもの、知らないのは当然よ」
「ズルイですっ、お姉さまっ!可南子さんもっ!」
「この間、瞳子さんも私に内緒で祐巳さまとこの場所で何かされていませんでしたか?」
「確かに私には、この間ここで瞳子と何かした記憶があるわ」
「……」
瞳子が顔を真っ赤にして黙った。
「ここでそういう事するのは止めてよね」
由乃さんが投げやりな感じに言ってきた。
言うだけ言ったという感じだ。
その事に関してはもう諦めてるっぽい、そのままの調子で言葉を続ける。
「じゃ、次は瞳子ちゃんね」
「はい」
瞳子が鞄から出したのは写真。
私の写真ばかりだ。
「これなんて最高の一枚です」
疲れて眠ってる時の私の写真をみんなに見せながら言う瞳子。
「少し涎が垂れているところがポイント高しですわ」
「それは没収」
「ああっ!そんな……」
瞳子からその写真を奪い取った。
ガックリと膝を落とす瞳子。
「ああっ!瞳子さん、これは!?」
可南子がある一枚の写真を手に取って、感動に打ち震えている。
「さすが可南子さん、お目が高いです」
瞳子、即座に復活。
「お姉さまが最も美しく見えるようにあらゆる要素を計算し、そこに究極のエロスを加えて撮影した、
 その名も……、『お姉さま、えちぃスペシャル』ですわっ!!」
「な、なんですってー!!!!?」
可南子が瞳子に合わせて驚いている。
瞳子たちを見ながら、
「ネーミングのセンスの悪さは祐巳さん譲りね」
「……瞳子のアレは天性のモノよ」
してやったり顔で言ってきた由乃さんに、悔しいけど私はそうとしか返せなかった。
おのれ、後で瞳子にお仕置きしなければ……。
私がそう決めた時、瞳子が肩をブルっと震わせて周囲を見回した。
さすがにいい勘してるわね。
「それじゃあ祐巳さん、いいかしら?」
由乃さんが尋ねてくる。
「ダメと言っても見るんでしょ?」
「ええ」
「仕方ないわね」
溜息をつきつつ鞄を開けて、中のものを机の上に置く。
私の鞄の中にはこれ一つしか入ってなかったから取り出すのは楽だった。
「なんで人生ゲームが出てくるのよ?」
「みんなで遊ぼうと思って」
「何しに学校に来てるのよ?」
「由乃さんをからかいに」
にっこりと笑って言ってみる。
「はいはい。そうでしょそうでしょ」
由乃さんってば、つまんない返し方するわね。
私が教育してあげようかしら?
私がそう思った時、由乃さんが肩をブルっと震わせて周囲を見回した。
由乃さんも勘が鋭いようね。
これから先も面白くなりそうだわ。


「さて、色々と問題はあったけど、ようやく全員終わったわね」
みんなの視線が由乃さんに集まる。
「な、なによ?」
「由乃さんのは?」
みんなを代表して尋ねてみる。
「私は変なモノなんて持ってきてないわ」
そう言った由乃さんの目が泳いでいる。
私は志摩子さんに視線を送った。
そのまま目で会話。
『志摩子さん、頼んでいい?』
『ええ、引き受けるわ』
直後に志摩子さんが椅子から立ち上がってよろめいた。
「ああっ、ごめんなさい」
由乃さん鞄にぶつかって、謝りながら由乃さんからは見えないように志摩子さんの右手が動いた。
一瞬で由乃さんの鞄が開いて、その中身が机の上に飛び出す。
「……由乃さん?」
「……黄薔薇さま?」
「……お姉さま?」
みんなが白い目で由乃さんを見た。
由乃さんの鞄から飛び出てきたのは、破魔矢、厄除けのお守り。
聖水の入った小瓶に木の杭に銀の弾丸。
令さまと菜々ちゃんの写真が一枚に、『えくすかりばー』と名前の彫られたペーパーナイフ。
『えくすかりばー』は私的にかなりポイントが高かった。
それにしても、由乃さんはこれらを使って何を退治するつもりなのだろうか?
いや、なんとなく分かってはいるけれど、それではあまりに……。
ともかく、私は青い顔してる由乃さんの肩をポンっとやさしく叩いた。
由乃さんが、はっとした表情で縋るように私を見てくる。
だから、私はとびっきりの笑顔とやさしい声で言ってあげた。
「由乃さんが一番おかしい」
「…………」
由乃さんは何も言わずにその場に両手両膝をついた。




「ただの魔除けのつもりだったのよ」
由乃さんが小さな声で言った。
「へー」
「ふーん」
呆れた表情しながら瞳子と可南子。
「何よその返事は!?」
「お姉さまはバカですから、本気であれらを使って紅薔薇さま方を退治しようとしていたのでしょう」
裏切る菜々ちゃん。
「菜々っ!?」
ショックを受けている由乃さん。
「ガンバレ由乃さん」
「祐巳さんに応援されるのが一番腹が立つわ」
そう?
それはともかく、今はゲームに集中しようよ。
「ほら、由乃さん」
「分かってるわよ」
由乃さんがボードにくっ付いているルーレットを回す。
数秒間くるくると回って……、止まった。
由乃さんが止まったマス目には、『子供が生まれる』と書かれている。
「由乃さん、また子供?」
「そんなにポンポン生んでどうするんですか?」
「いったい何人生む気です?」
「お姉さま、節度という言葉をご存知ですか?」
「煩いわよ!」
怒りながら四人目の子供を自動車コマに乗せる由乃さん。
由乃さんは由乃さんで面白いんだけど……。
やっぱり今注目すべきなのはこっちね。
「乃梨子、次は乃梨子の番よ」
志摩子さんに言われて、力無くのろのろとルーレットに手を伸ばす乃梨子ちゃん。
回したルーレットが止まって、乃梨子ちゃんがコマを進めたマス目には……。
「ふふふっ、乃梨子ったら、益々泥沼の借金地獄にハマっていくわね」
「…………」
乃梨子ちゃんって、ゲームでも運が悪いのね。
この悪さは相当のものよ。むしろ誇ってもいいわ。というか誇れ。
……まぁ色々とガンバレ!乃梨子ちゃん。



「こんなのやってられるかー!」
「乃梨子さんが切れましたわっ!」
「ナイス乃梨子ちゃん!」
「ああっ!?便乗して黄薔薇さまが一緒になってボードを投げてますっ!」
「退避ー!退避ー!あぁ毎日本当に楽しいなぁ。入ってよかった山百合会」
「まぁ乃梨子。大暴れね」

こうして今日も楽しい一日が過ぎていくのです。




由乃さん、乃梨子ちゃん。それ壊したら弁償してね。


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