【No:753】→【No:778】→【No:825】→【No:836】→【No:868】→ 【No:890】→【No:913】→【No:1022】の続きです。
いや〜ずいぶん間が開いてしまいましたね〜、もう覚えている人もいないかもしれませんが、暇なら遡ってみて下さい……。
「『ヤタノ カ……』?!」
呪文を口にするものの志摩子の攻撃に合いなかなか呪文が完成しない。 剣術剣道の類とは今まで無縁だった祐巳がいきなり二刀流をうまく使いこなせるわけも無い、防戦一方である、しかも乃梨子を後ろに庇いながら。
「祐巳さま、その大きい方の剣を私に渡してください。 祐巳さまは‥‥‥その…呪文ですか? そちらに集中してください」
剣を受け取ろうと手を伸ばしてきた乃梨子を背中越しに視線を向けた祐巳は渡しても大丈夫か考え一瞬躊躇した。 その瞬間、大きく飛び上がった志摩子に右手を強打されて剣を取り落とす。
「!?」
「…さあ…捕まえ‥た…ヮ……イマ…らくニして上げルワ‥‥ユミ‥サン…… 本当にヤワラかくテ…美味しソうヨ……」
5m程飛ばされた剣を取りに行こうとした祐巳を志摩子は組み敷しいてその細い首に手を掛けて力を込める。 指先からヌルリとした粘液と吐き気がするほどの死肉の臭いが鼻をつくが、喉が潰されるのではないかというほどの力で首を絞められている祐巳には、それを気にしている余裕などあるはずはない。
「?! な、なんでこんなに?!」
祐巳を助けに行くか、剣を拾いに行くか、迷った乃梨子は剣を拾いに行くことにした。
『武器がなくっちゃ‥‥』
そう思った乃梨子は剣を拾い上げようとしたのだが、その重さに驚く。
『祐巳さま…片手で持ってらしたのに……』
特に力が強いなどとは聞いた事がない祐巳が、上手い訳ではないにしても片手で操っていた剣を、自分は持ち上げるのにすら苦労していることに軽いショックを受けたが、そんな暇はないと思い直して切っ先が地面に付いた状態だったが、何とか起こした剣を引きずって祐巳の元に行こうとする。 わずか5mの距離が遠く感じる。
”ヒュン”っと棒の様な物が自分の横を飛んで行ったのを感じた乃梨子はその軌跡の先を見た。
回転しながら志摩子の側頭部に命中した物は乾いた音を立てて地面に転がる、それが竹刀だと確認できた。 志摩子は頭を押さえたまま横に飛び退り、祐巳達から距離を置く。 背後からの声で、乃梨子はその竹刀を投付けたのが誰なのかが判った。
「我ながらお人好しだって思うわ。 大丈夫? 祐巳さん」
咳をして喉を押さえながら身を起こした祐巳の元へ駆け寄った由乃は、落ち着いた様子で手を差し伸べて祐巳を立たせる。
「はぁ、はぁ ……来て…くれると…思ってた……」
「大丈夫なのそんなんで? 今日は退く?」
「…はぁ…ん‥‥‥大丈夫…今日決着をつけるわ。 乃梨子ちゃん、はあ…その剣を‥‥由乃さんへ」
「なんか乃梨子ちゃん引きずってるけど大丈夫なのこれ? お?」
ズリズリと苦労しながら剣を引きずって来た乃梨子の手元から、由乃は無造作に剣の柄を握り片手でまるで竹刀を扱うように持ち上げた。
「あ〜、なんだ軽いじゃない。 大袈裟に見せようとして乃梨子ちゃんは」
『違う、ひょっとしてこの剣は持つ人を選ぶの?』
大きく息をつきながら乃梨子は、肩慣らしをするように軽々と剣を振っている由乃に少し恨めしげな視線を送りながらそんなことを考えていた。
「獲物…ま…マた…獲物ガ……た…たくさン‥‥‥食料…」
また攻撃を仕掛けてきた志摩子に対し、乃梨子よりも祐巳よりも早く動いたのは由乃だった。 銅矛のような剣の腹の部分で志摩子の早い攻撃をブロックする。 その剣は自分が持っていた時よりも輝きを増しているように乃梨子には見えた。
「ちょっとびっくりだわね、体がすごく軽く感じるわ」
攻撃を阻止された志摩子は、大きく後ろに跳び退る。 まだ逃げる気は無いようだ、すでに逃げるなどと言う考え自体浮かばなくなっているのかもしれない。
由乃は志摩子の正面に立ち正眼に構える。
「ん〜、なんか両刃の剣って、私のスタイルじゃないか‥‥‥な? …え?!」
そんな由乃の呟きに呼応するように剣の根元に光を放つ。 光の塊は切っ先に向かってゆっくりと移動していく、金色の光が通り過ぎた後には、少し幅は広いものの浅い反身の正しく日本刀の刀身に変わっていた。
すっかり幅広の日本刀になってしまった剣を由乃は改めて構え直す。
「ずいぶん便利な機能が付いてるのね。 で? 私は何をすればいいの祐巳さん」
「結界の範囲を小さくするから、それまで志摩子さんを牽制して」
「‥簡単に言ってくれるわね‥‥とどめは刺さなくていいのね‥‥‥」
「それは‥‥‥私の役目だよ…」
「嫌な役回りよね……。 早くしてね、いつまで持ち堪えられるか分からないわよ! そんなに強いわけでもないんだし……」
祐巳は答える代わりに左手に持っていた小剣を右手に持ち直して前に腕を出す、小剣は横に構えて左手を刀身に当てる。
『ヤタノ カカミ
カタカムナ カミ』
リリアンの高い塀に祐巳が以前施した結界、それが再び金色の霞になって漂いだしてくる。
『アマカムナ アマカムヒビキ ヤホ ヤチホ
ヤサカ マガタマ アメアマヒ アキツ ナナヨノ タカマクラ
ヨロズ ハジマリ イツノタマ アキツ トヨクモ アメノウケ』
ユラユラと漂ってい出た靄は、一つの方向に漂い始める。
『コゴリ コゴリミ ヒジリタマ アキツ フトヒト アマヒクラ
ヤタチ ホホデミ イワネタマ アキツ アサヒノ ヒコネクラ
ソトヨ ニギスム ヱミノタマ アキツ ヒコネノ ホシマクラ』
流れは渦になり祐巳たちの上空20mの所に集まりだす。
『ウヅシマ ヒコユヅ ウヅメタマ アキツ ホシマノ サタテクラ』
渦は加速していき、やがて中心にピンポン玉ほどの球体と二本の輪になる。 周りには小さな渦が漂っているが、やがてそれらも球体や輪に取り込まれていった。
『ヤシキ ハルホシ ナリマタマ アキツ タカマノ フタセクラ』
一方、由乃は剣を手にしてから得たスピードを生かして志摩子を牽制していた。
言われたわけではなかったが、なんとなく上に現れた球と二本の輪の内側の輪の範囲内に志摩子を押してどめるように気をつける。
志摩子の右手を峰打ちで跳ね上げる、すぐに左手が下からすくい上げるように繰り出される、少し右に剣を動かしただけで横の部分でブロック、そのまま力を込めた由乃は志摩子を押し返す。 志摩子は由乃から受けた力を利用して後ろに跳び退り体勢を立て直してから大きく上にジャンプする。 志摩子の着地点は、またしても祐巳と乃梨子の方、由乃は一瞬消えたのではないかと思わせるほどのスピードで先回りして志摩子の行動を阻止する。
やはり傷つけたくないという思いからか、構える時は剣の刃を向けるものの振るう時には刃を返して峰や横の部分で打ちつける、大したダメージは与えられないがそれは由乃に要求されてはいない。
剣が光と熱を放出する、煙とともにタンパク質の焦げるいやな臭いがした。
『オホキ アソフク クシサチタマ アキツ ヤサカノ アラカタマ』
祐巳が横に奉げ持っていた剣の切っ先をクルリと下に向けると、内側の輪が回りながら地面に向かって降りてくる。
「由乃さん、あの内側の輪が地面に落ちる前に戻って。 でないと由乃さんも旋転循環運動の中に取り込まれちゃって二度と出てこられなくなるから」
「なによその旋転循環運動ってのは!?」
「‥‥‥物質を分解して素粒子…かな? ……アマ始元量‥‥を構成するほど大素…‥アメ…まで‥分解して……別の宇宙の構成物質として送り出す……宇宙球……大きな流れ…カムナミチ‥‥無限のアメの集合系‥‥アマとカムの…正反の共振により…アマヒから……万物万象は作られる‥‥‥」
「ゆ、祐巳さま?」
焦点の会わない目をした祐巳、由乃の問いに答えているのかとも思った乃梨子だが、言葉にしている内容がよく分からない。 宇宙物理学? でも、アマ始元量やアメ、カムナミチ、アマとカムなどという言葉は聞いた事がない。
「祐巳さま!」
「どうしたの?! ぇだぁぁぁ??」
乃梨子が何事か呟いている祐巳の肩に手を掛けようとした時、前にいた志摩子に向かって間合いを詰めていた由乃はそれに気を取られて足捌きを誤ってコケた。 上段に構えていた剣は勢いを殺さずに振り下ろされた。
ゴキッ ガシッガシッ ガツッ ガツッ ザシュッ
剣を伝ってくる何か硬い物を断ち切る嫌な感触。
切っ先が地面にめり込んで這い蹲るのをなんとか免れた由乃がおそるおそる目を開けると、すぐ目の前に志摩子がいるのに気が付いた。
ユラユラと立っている志摩子。 虚空を漂う色を失った目、右に傾いだ首、由乃が振り下ろしてしまった剣は左側の肩甲骨のあたりから右のウエストの辺りまでを切り裂いていた。
『‥‥ギ…ギギギっ……ギギッ〜!』
「? ぃい?! きゃ〜〜〜〜っ!!!」
* * * * * * * * * *
「カ〜〜ット〜〜! OKで〜す!」
「う〜〜ん、やっぱり日本刀よね」
「ど、同意しろと?」
「志摩子さん大丈夫? なにも当たってない? 苦しくない?」
「大丈夫よ乃梨子。 それより由乃さん‥‥後でちょっとお話があるのだけれど」
「あ〜〜ら何かしら? シナリオに書いてあったとおりにしただけだけれど?」
「そうね。 でも、肩と側頭部は違うと思うのだけれど」
「そうだわね〜〜、でも、私の腕とか肩のあたりとかに入ったケリ数発は一体なんだったのかしら? たぶんカメラの視覚外で意図的だと思うけど」
「あら、こちらは素手で刃物以上の刀をもった由乃さんを相手にしているのよ‥‥」
「スト〜〜〜ップ! 志摩子さま由乃さまイェローカードですわ!」
「できればホワイトカードの方がいいわ」
「なんで私がイェローカードなのよ!」
「まぁまぁ、熱くならないで。 お二人ともあちらのテーブルへ、お茶を用意してありますから。 祐巳さまもどうぞ」
「あ、ありがと〜。 ‥‥‥ほ、ほら二人とも、お茶冷めちゃうから…行こう行こう」
「・・・・・・・・まあ、せっかく菜々が用意してくれたんだし‥‥志摩子さん、あとで話しつけましょう」
「‥‥そうね、武器を持ったままだとお互いに危険ですものね」
「……行きましたわね…」
「うん。 菜々、よくやったわ」
「後が怖いですけれど、目の前で血を見るよりはいいですわ。 でも‥‥‥」
「? どうしたのよ瞳子?」
「…いえ、お茶を用意したのは菜々ちゃんですわよね?」
「そのはずだけど?」
「‥‥‥一服持ってなければいいん…ですけ…れ〜‥‥。 ああぁ〜あ…」
「由乃さん!? 志摩子さんも?! ちょ、ちょっと〜〜どうしたのよ〜〜〜?!(少し離れた所の声)」
「し、志摩子さん?!」
「この際由乃さまの事はどうでもいいんですわね。 菜々さんちょっとコチラヘいらしてくださいな。 どういうことですの?」
「うるさくなりそうだったので手っ取り早く静かになってもらいました。 大丈夫ですよ、睡眠剤ですから」
「由乃さまにまで睡眠剤盛ったの? 容赦ないわね」
「こっちのビンのだったら……」
「ちょっと、どこからそんな危険な物を?!」
「…18禁になるんだけですから大した事はありませんよ」
「どんな薬持ってるのよ?!」
「お爺様の秘蔵コレクションの中から…」
「何をコレクションしているんですのお爺様という方は?」
「そんなモン集めて何に使う気だったのか気になる所だけど。 どうするのよ? まだ撮影残ってるんだよ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あれ?」
「あ〜〜あ、祐巳さまオロオロしちゃって‥‥‥かわいいで‥‥‥わなくて! どうするんですの?!」
「瞳子顔が赤いよ」
「関係ありませんわ!! で? どうするつもりですの?!」
「う〜〜ん、ここから先のストーリーのあらすじをバラしてお茶を濁して、撮り終わっている乃梨子さまのエピローグを公開してしまうというのはいかがですか?」
「いやそれゼンゼンダメだから」
「でわ、祐巳さまは起きているのですから、乃梨子さまと瞳子さまがカツラをかぶって代役をするというのは?」
「却下!」
「もお〜、わがままですね〜」
「どの面下げていうかなこの娘は‥‥」
「次回公開も長引きそうですわね〜」