「あら?」
小首を傾げて、困った顔で呟いたのは、白薔薇さま藤堂志摩子。
いつもの席に、いつもいる筈の人物がまるで見当たらない。
「あの人はどこかしら?ええと…」
隣の席に座っているクラスメイトに訊ねるも。
「え? あの人って?」
「ほらあの席の。ええと確か…佳さんだったかしら?」
「…そんな人、このクラスにはいないけど」
「そうだったかしら? 変ね、私の勘違いかしら」
先生が来たので、そのまま忘れてしまった志摩子だった。
「あれ?」
小首を傾げて、困った顔で呟いたのは、黄薔薇のつぼみ島津由乃。
藤組にやって来て、席を確認するも、そこにも、教室にも見当たらない。
「あの人はどこかしら?ええと…」
近場に座っている生徒に訊ねるも。
「え? あの人って?」
「ほらあの席の。ええと確か…袿さんだったっけ?」
「…そんな人、このクラスにはいないけど」
「そうだった? 変ね、私の勘違いかしら」
時間がなかったので、そのまま忘れてしまった由乃だった。
「おや?」
小首を傾げて、困った顔で呟いたのは、写真部のエース武嶋蔦子。
ミルクホールにやって来て、いつものグループを確認するも見当たらない。
「あの人はどこかしら?ええと…」
グループの一人に訊ねるも。
「え? あの人って?」
「ほら、いつも一緒の。ええと確か…娃さんだったっけ?」
「…そんな人、私たち知らないけど」
「そう? 変ね、私の勘違いかしら」
見付からなかったので、そのまま忘れてしまった蔦子だった。
「うん?」
小首を傾げて、困った顔で呟いたのは、新聞部部長山口真美。
取材でコートまでやって来て、練習中の部員を調べるも見当たらない。
「あの人はどこかしら?ええと…」
部員の一人に訊ねるも。
「え? あの人って?」
「ほら、同じ部員の。ええと確か…珪さんだったっけ?」
「…そんな人、ウチの部にはいないけど」
「そう? 変ね、私の勘違いかしら」
まぁ特に急がないので、そのまま忘れてしまった真美だった。
「ほよ?」
小首を傾げて、困った顔で呟いたのは、紅薔薇のつぼみ福沢祐巳。
たまたま用事があったので、それっぽい所を散々探し回るも見当たらない。
「あの人はどこかな?ええと…」
藤組の一人に訊ねるも。
「え? あの人って?」
「ほら、同じクラスメイトの。ええと確か…鮭さんだったっけ?」
「…そんな人、ウチのクラスにはいないけど」
「そう? おかしいなぁ、私の勘違いかな」
まぁ特に重要ではないので、そのまま忘れてしまった祐巳だった。
「というわけで、何故か見付からなかったんだよね」
放課後の二年藤組の教室で、顔を合わせた祐巳、志摩子、由乃、蔦子、真美の五人。
「クラスメイトなのに、いないって言われたわ」
「でも、まさか辞めてはいないわよね」
「多分ね。遠目では見られるんだけど」
「部にもちゃんと出てるって言うしね」
「誰の話?」
『え?』
急に割り込んできた声に、一斉に反応する。
『あ〜〜〜〜〜!』
思わず大声をあげて、指を差したその先には、皆が探していた人物が立っているではないか。
「鮭さん!」
「佳さん!」
「袿さん!」
「娃さん!」
「珪さん!」
「って誰よそれ!?」
桂のツッコミが、藤組の教室に響き渡った。
「なによみんな、『圭』しか合ってないじゃない!?」
その人物は、無印から登場し、オフィシャルデザインまでされているミーハーテニス部員。
「あれ? そうだったっけ」
「いやぁ、長いこと呼んでいなかったから」
「出番も無いし」
「うっすらとした、今にも消えてなくなってしまいそうな記憶はあったんだけど」
「まぁなんにしろ、悪かったわね」
ヒドイことをサラっと言いつつも宥める一同は、半泣き状態の桂に謝った。
『ゴメンね、蛙さん』
「うわ酷!?」
結局、誰も正確には覚えていなかった…。