【1512】 刹那の時を貴女と二人彼女の居場所  (六月 2006-05-22 11:58:29)


【No:1479】でのROM人さまのコメントから、デート編・・・

「まったく、由乃さんは単純すぎるのよ」
バレンタイン後の日曜日、K駅前でちさとさんと待ち合わせた場所から移動を初めて、開口一番そう突っ込みを入れられた。
「去年の令さまと同じ場所に隠すなんて、安易だとは思わなかったの?」
「煩いわねぇ、ちさとさんこそ何で見つけたのよ!?令ちゃ・・・お姉さましか分からないと思ったのに」
「昔のリリアンかわら版しか知らない人には分からないでしょうけど、剣道部の私達はあれが間違いだったって知ってるもの。それに、まぁ、由乃さんのこと解ってるつもりだから・・・。」
「・・・ま、いいわ。ちさとさんなら友達だから気楽だし」
私の数少ない気を許せる友達、だからこそこんなに気安く言いたい放題言われても気にならないんだけどね。

「で、結局は映画?去年と同じ?」
「いいじゃない、由乃さんが私に全部任せるって言ったんだから。去年と同じ場所に隠すような人には、去年と同じルートで良いのよ」
そうは言っても、と看板を見上げながらぶつぶつと文句も出ようってもんだ。
「いいけどさぁ・・・アニメってなによ。『パステルしんタン』ってテレビでもやってる下品なお笑いものじゃないの!」
「あ、知らないんだぁ〜。これの劇場版はね大人が観て笑って泣ける映画なのよ。『嵐を呼ぶオゲレツ!オカマ帝国の逆襲』なんてね・・・」
ちょっと貴女は恋する乙女じゃなかったの?
「いやいい、分かった、とりあえず行きましょう。ちさとさんがただの少女趣味じゃ無いことが分かったわよ」
「そうよ、人は変わって行くものなのよ」
「はいはい」
そうだけどさー、変な方向に変わってない?
「で、映画の後は公園でランチにしましょう。今年もお弁当作って来たんだ」
「げ!去年は失敗したって言ってなかった?」
令ちゃんに失敗作を食べさせたって言ってたじゃないの。
「あのねぇ、人は変わるものって言ったでしょう。私だってあれから料理の腕くらい上達したわよ!」
「はいはい、楽しみにしてるわ・・・期待しないで」
「そんなこと言うとお昼抜きよ」
「うわっ!それはやめてー」

「うぅ・・・面白かったけど嫌なことも思い出した」
「どうしたのよ?顔に縦線入ってるよ」
『伝説の夜 走れ!アミーゴ!』ってなによあれ!?思い出したくもない恥を思い出させてくれたわよ。あのヒラヒラコスチュームで。
「うるさい。カーニバルのコスチュームで去年の体育祭の令ちゃん思い出しちゃったのよ。あの情けない姿」
「えー!?令さまカッコよかったじゃない、男装の麗人って麗しくて。何が気に入らないのよ?」
本気で言ってる?あー、そうか薔薇さまフィルターかかってるんだっけ。
「ちさとさん、あなたに実のお姉さん居たとして、お姉さんがあんな格好して嬉しい?」
「え?・・・うーん、それはちょっと遠慮して欲しいような」
「そういうこと、私と令ちゃんにはスールとしてじゃなく、実の姉妹の感覚もあるのよ」
「なるほどね」
皆には分からないかも知れないけれど、私と令ちゃんはかなり特別だと思う。殆ど実の姉妹同然に育って、スールという特別な契りまで交わして。すべて解り合えているつもり・・・だったんだけどなぁ。
「あーぁ、それにしても、皆の裏をかいたつもりだったんだけど。令ちゃん以外にまさか去年と同じ場所を探す人がいるなんてなぁ」
「甘いわよ。由乃さんを解ってない皆は騙せても、令さまや私、山百合会の人達は騙せないわよ!だって、由乃さんが隠しそうな場所って、薔薇の館、武道館、2年松組の教室、そして図書館の本、それくらいじゃない」
言われてみればその通りだ、私の行動範囲が如何に狭いか・・・やれやれ。
志摩子さんも似たようなものだけどね、2年桜組の教室なんて乃梨子ちゃんにしか解らない暗号だろう。『桜組伝説』が二人の暗号とは気づかないわよ。
そうそう、祐巳さんも1年椿組の教室って如何にも瞳子ちゃんに気づいて欲しいって信号出しまくりじゃない。祐巳さんが瞳子ちゃんを『妹にする宣言』した場所だし。可南子ちゃんには気づかれてたけどね。
気づいて欲しい?そういえば、私は誰に気づいて欲しかったのだろう?
令ちゃん?そうだ、あの真面目な令ちゃんが『去年と同じ場所』なんて探すだろうか?
それは他の生徒達でも同じだ。去年のリリアンかわら版を1年生だって読んでたかもしれない。だったら『同じ場所』は普通外すだろう・・・普通?
あぁ・・・そうか・・・私は誰にも見つけて欲しくなかったんだ・・・だから捻くれた。そしてその捻くれた考えを理解しそうなのは・・・見つけて欲しい相手はまだ中等部だ。
「そうか、菜々・・・」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
まぁ、捻くれた私を見つけてくれる友達が居るってのも悪くないか。
「ちさとさんお手製のお昼を食べさせてくれるんでしょう?行こっ!!」
「あ、待ちなさいよ由乃さん!!」


「うぅぅ・・・由乃ぉ・・・ちさとちゃんと手なんかつないで・・・」
「令、しっかりしなさい。由乃ちゃんが自立していっている良い傾向じゃないの。それをストーカーみたいに付け回して」
「祥子だって人のこと言えないじゃない。祐巳ちゃんと瞳子ちゃんのデートを覗きに来たんでしょ」
「わ、私は本を探しに来ただけよ。そこに祐巳と瞳子ちゃんが居るかもしれないというだけの話よ」
「説得力無いよ、祥子」


「ねぇ、乃梨子。本当にこのバスで良いの?」
「はい、リリアンの2つ手前の停留所の近くなんです。自然食レストランのバイキングで千五百円ですから格安ですよ」
「でも、それだけで今日の予算を使い切ってしまうわ。乃梨子はそれで良いの?」
「うん!そこは綺麗な庭園が見えるところだって、そろそろ早咲きの梅が咲くころで、それを眺めながら志摩子さんと食事ができるだけで幸せだよ」
「欲がないのね、乃梨子は」
いや、欲望まみれなんです、ごめんなさい。志摩子さんの笑顔をおかずに食事したいなんて・・・紅薔薇さまみたいだなぁ。
「あ、ここで降りますよ」

バスを降りて15分ほど歩いたところにそのレストランはあった。住宅街の中にひっそりと蔦に覆われた旧家風の構え、中に入ってみるとモダンで高い天井が解放感を醸し出している。
コの字の形をしたフロアのどこからでも中庭が見えるようになっていて、小さな池と石灯籠、梅や桜、躑躅といった木々が目を楽しませてくれる。
「うわぁ、美味しい!」
「本当に、善いお店を見つけるのが上手なのね、乃梨子は」
「あ、ネットでね、志摩子さんが好きそうな和食のお店を探してたら偶然見つけたの。和食だけじゃないけど、自然食で体にも良いって」
「すごいのね乃梨子」
志摩子さんに褒められて頬がぽーっと熱くなる。私に尻尾があったらブンブン振ってるんだろうなぁ。
しかも、料理が美味しいから文句なしに幸せだ。玄米ご飯なんて珍しいし、お漬物をポリポリ食べてる志摩子さんは可愛いし、地鶏のローストは美味しいし、湯葉揚げや生麩田楽を食べてる志摩子さんは綺麗だし、豆腐のハンバーグはふわふわだし、季節の野菜天麩羅を頬張る志摩子さんは清楚だし・・・。
幸せすぎて華血、いや鼻血出そう。
「乃梨子、桜の咲くころにまた来てみましょうか?今度は大勢で」
「えー?祐巳さまや由乃さまは限度も考えずに食べそうでこわいなぁ」
「こら、乃梨子」
こつんと小突かれて「えへっ」と舌を出す。でも、皆で来るのも楽しそうだな。
「桜のころと言えば、志摩子さんやっぱり桜絡みのところにカード隠したんだね。そうじゃないかなとは見当つけてたけど」
「あら?やっぱり分かりやすかったかしら?」
「そりゃ、桜と言えば、公孫樹並木の中の桜、私達の出会いの場所だし。志摩子さんのお家に始めてお邪魔した時も桜咲いてたし、文化祭後に一緒に『桜組伝説』読んでたし・・・」
と得意げに語ってしまっていると、突然後ろから。
「私と志摩子の出会いも桜の下だったし、忘れられない思い出になってるのかな?ん?」
何奴!?と振り向くとそこには西洋彫刻のような美人が!って佐藤聖さま!?
「お姉さま?!どうしてここに?」
「んー、ここさー加東さんの家から近いのよ。んで、財布に余裕がある時は時々来てるの。志摩子達こそ珍しいじゃない」
「えぇ、今年もバレンタインの企画で」
聖さまはぽんっと手を打つと。
「なるほど、ここなら志摩子が好きそうな料理食べれるし、予算範囲内で贅沢できるし、リリアンの近くだから新聞部にもネタ提供できるって、頭良いねぇ。どっちが考えたの?」
志摩子さんが微笑みながら私を指さす。
「ほー、乃梨子ちゃんやるねぇ」
なんですかそのニヤニヤ笑いは・・・。
「佐藤さん、どうしたの?またナンパ?」
「誰がよ!?あー、紹介するわこれが大学の友達、加東景さん。んで、こっちが妹の藤堂志摩子と孫の二条乃梨子ちゃん」
「妹?あ、スールってやつね。はじめまして。それにしても綺麗な子ね、佐藤さん面喰い?」
「顔で選んだ訳じゃないわよ。ま、ある意味一目惚れみたいなところはあったけどね」
なんですとー!?それは一体どういう意味ですか!?
気になることを聞かされてもやもやしてると、聖さまはいつの間にかちゃっかり私達と同じテーブルに座り店員さんに「あ、すみません。こっちの席に知り合い居たんで相席します」なんて居座ってしまった。
「ま、私と志摩子は桜吹雪の中で出会って、なんだか忘れられない存在になった。って話し」
それって・・・。
「え?私達と同じ?」
「おんや?どういうことかな?よし、ここはお姉さんが奢ってあげるから、話してみんさい志摩子」
「えっと・・・」

「いやぁ、面白かった。しかし、志摩子も変わったね。こんなに明るくなって、お姉さまとしては嬉しいような寂しいような複雑な気持ちだわ」
「乃梨子のお陰ですわ。妹を持つというのがこんなに人を強くするとは思いませんでした」
「ん、そうだね。二人ともいい顔してるよ」
聖さまが志摩子さんの髪を撫でているだけなのに、胸にもやもやした何かが込み上げてくる。つい言葉も荒くなってしまう。
「ところでここのお代は・・・」
「奢ってあげるって言ったでしょう?二人だけの時間を邪魔したんだから、そのくらいしてあげるわ。そうそう、K駅の近くに良いカフェがあるから行ってご覧なさい。デート代はそこで使うといいわ」
「はい。ご馳走になりました」
えー?志摩子さんそれでOKなの?
「んじゃまたね」
「はい、また」
ん?なんでごきげんようじゃないの?志摩子さんの微笑みが気になるー。
「さ、K駅に行ってみましょう、乃梨子」
志摩子さーん、二人だけの世界に入ってないで、私も見てよー。


「祐巳たちは何処に居るのかしら?駅前だと言っていたのに」
「あのさ、それって西口?東口?」
「・・・知らないわ。知るわけないでしょう!?」
「逆切れかよ!まったく祥子はわがままなんだから・・・あれ?あの髪形は・・・」


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