【1522】 封印解除!有効利用  (六月 2006-05-23 17:14:32)


【No:1513】のあうんさま、mimさまのコメントへ、バレンタインデート番外編・・・

黄薔薇のつぼみと田沼ちさとさまが映画館の中に入っていかれるとき、向かいのビルの陰で三つのレンズが妖しく光っていた。
白薔薇さまと白薔薇のつぼみがバスを降りたとき、髪留めを鈍く光らせながら周囲に気づかれぬよう静かにもう一つの影がバスを降りた。
紅薔薇のつぼみとつぼみの妹が高級ジュエリー専門店に入っていくときに、付き従うようにしかし誰にも気取られぬよう非常に長身の影が動いていた。



それは放課後、部活動が終わりマリア様の前で手を合わせているとき、突然背後に二つの気配が現れた。
ザッ!と横に飛んでその気配から距離をとる。
「さすがね、後ろにも目が付いているみたい」
二つの気配が誰なのかを確認すると、私は大きくため息を付いて睨み付けた。
「蔦子さま、真美さま、気配を消して後ろを取るというのは、あまり良い趣味とは思えませんが」
「ん、可南子ちゃんを試させてもらったの。まだまだ勘は鈍っていないようね」
「・・・それはどういう意味でしょう?」
「単刀直入に言うわ!あなたの力を貸して!祐巳さんをストーキングして欲しいの!」
その場にシーンと重たい空気が漂う。祐巳さまをストーキングする?何のために?
「それはね、リリアンかわら版のためよ!薔薇姉妹のバレンタインデートのレポートを完璧なものにするために!」
心を読むな!!
「それに気にならない?あの瞳子ちゃんがどんなふうに祐巳さんに甘えるのか。あの子ツンデレだから二人きりの時以外は素直じゃないでしょ?」
・・・ふむ、たしかにあの性悪瞳子さんがデレデレになって居るところは見てみたい。相手が祐巳さまというのが妬けますが。
「ですが、日出美さんや笙子さんを使えば人手は足りているのではありませんか?」
「あ、ダメ、使えない」
使えない?あの二人がそれほど無能だとは思えませんが・・・。
「まだまだ修行不足なのよ。気づいているでしょう?」
えぇ、気づいています。マリア像の脇の茂みに二人。蔦子さまや真美さまと違い気配が丸出しです。
私の視線を追って、蔦子さまが苦笑している。
「そういうわけ、あれじゃ獲物に気づかれてしまうわ。勘の良い由乃さんや志摩子さん、乃梨子ちゃんや瞳子ちゃんにはね。祐巳さんは鈍いから大丈夫だけど」
「・・・報酬は?」
「これよ」
私は真美さま、蔦子さまとガッチリ固い握手を交わしていた。

『こちら蔦子、黄薔薇は映画館に入ったわ。どの映画かまでは分からないけど、由乃さん好みの時代劇は無いから田沼ちさとさんが主導権を握っている模様、オーバー』
『了解、白薔薇はバスに乗るところ。リリアン方面のバスに乗ったわ。オーバー』
『可南子です。紅薔薇はジュエリーショップに入りました。予算を考えるとここはただの冷やかしのようです。オーバー』
『OK、そのまま尾行して、写真が撮れそうならよろしく。オーバー』
『『了解』』
真美さまに渡された携帯電話。最新の機種らしく多人数でのトランシーバーモードを持っている。
蔦子さまには小型で高解像度のデジタルカメラをお借りしている。
さすがはリリアン最強の報道コンビ、かわら版のためなら私財も惜しまないというのか。・・・つーか、馬鹿?

『こちら蔦子、黄薔薇は移動開始、都立公園方向に向かっている、オーバー』
『こちら真美、白薔薇は食事中、先代白薔薇さまと合流!接近して会話を聞けないのが悔しいわ、オーバー』
『・・・こちら可南子』
『どうしたの可南子ちゃん?』
『紅薔薇、牛丼屋に入りました、オーバー』
『『なにー!?証拠写真は?撮影してるでしょうね!?』』
『え、えぇ・・・あれ?』
『可南子ちゃん?』
『ちょっと気になるモノを発見しましたのでそちらを追います、オーバー』
私と同じように隠れて祐巳さま達を追いかけている影に近づく。長い黒髪の女とショートヘアの男・・・いえ、あれは祥子さまと令さま?
そっと後ろに近づいて会話を盗み聞きしてみると。
「祐巳ちゃん達牛丼屋に入っていったね。お昼はあれで済ませるつもりなのかな?」
「ゆ、祐巳!そんな男だらけの店に・・・瞳子ちゃんね!瞳子ちゃんがあんな店に祐巳を誘ったのね!」
「えーっと、祐巳ちゃんが先に入って行ったみたいだけど」
「ち、近づき過ぎよあのドリル!!」
「とりあえず、私達もお昼にしましょう。由乃はきっと公園でちさとちゃんのお弁当だろうから、後で追いかければいいし、早く済ませないと祐巳ちゃん達を見失うよ」
「そうね、急ぎましょう」
こちらに向かってきたので柱の影に隠れてやり過ごす。しかし、祥子さまが祐巳さまの尾行を?令さまは由乃さまを追いかけているのでしょうね。
姉バカここに極まれり、というところでしょうか。
『真美さま、可南子です。紅薔薇さまと黄薔薇さまがそれぞれの妹をストーカーしてます。オーバー』
『スクープよ!スクープ!しっかり追跡してちょうだい、オーバー』
面白くなってきました。由乃さまや祐巳さまがこのことを知ったら・・・ふふふふっ。

祐巳さまと瞳子さんが話をしながらファッションビルに入って行かれた。エスカレーターを上がって向かわれた先は雑貨屋、なるほど二人とも髪を二つ結びにしている同士、ヘアアクセサリーには目が無いだろう。
カメラを構えるとレンズの向こうではリボンを選んでいる祐巳さまのお姿が。あぁん、可愛らしいですわ。
と、あちらの棚の影では両手で自らの体を抱えて身悶えしている紅薔薇さまが。そちらも一枚撮影しておく。
祐巳さまが瞳子さんに何かを渡している。そして祐巳さまに突っ掛かっていた瞳子さん、しかし祐巳さまに諭されると途端におとなしくなって、手を握られて真っ赤になっている・・・ふむ、意外と瞳子さんも可愛いですわね。
「瞳子ちゃん!祐巳と手をつなぐなんて100年早くてよ!」
祥子さま、そんなに大きな声を出すと気づかれますよ。まったくこれだから素人は始末に負えない。
いや、それじゃ私がプロのストーカーになってしまう。うん、それだけは否定しておかなければ。

「あ、由乃さん」
「え?祐巳さん?どうして?」
「どうしてって、去年行ったあのお店に行こうと思って」
「えー?私達もだよ」
「あら、祐巳さん、由乃さん」
K駅から移動を始めたと思ったら、黄薔薇組、白薔薇組と合流してしまった。ということは・・・。
「可南子ちゃん、紅薔薇さまと黄薔薇さまは?」
いつの間にか私の横に真美さまが、その後ろには蔦子さまが来ていた。お二人は諜報部員にでもなられた方がよろしいのではありませんか?
「すぐそこに」
指さした先は私達が隠れている柱の一つ先、ここまで接近しているのに気が付かない薔薇さまお二人。「祐巳ぃ」「由乃ぉん」って、周りが全く見えていませんね。
「ふむ、おそらく最後の行き先はあそこかな?」
「蔦子さん知ってるの?」
「去年、三奈子さまや祥子さま祐巳さん由乃さんと一緒にお茶したお店。落ち着いて話ができるから、ケーキセット一つで長居したのよ」
「ではそこに先回りをしましょう」
「ダメ、店内撮影禁止だから。それに全員揃った状態だとさすがにバレるんじゃない?」
「・・・仕方ないわね。その店に入るとこまで抑えて終わりにしますか」
真美さまと蔦子さまが話している間に、祐巳さま達も相談が決まったようだ。
と、祥子さまと令さまが柱から身を乗り出して覗き込んでいるのが見えた。ちょうど瞳子さんがこちらを向いた・・・そうだ!!
私は隠れていた柱から飛び出すと人差し指を口に当て、その後で祥子さま達が隠れている場所を指さしてから、また影に隠れた。
「ちょっと、可南子ちゃん?何やってるの?」
「静かにしてください、面白いものが見れますから」
そう言ってそっと瞳子さんの様子を確認する。案の定瞳子さんはこちらにつかつかと駆け寄ると「祥子さま、令さま、何をなさっておいでなのですか!?」と大声をあげた。
しばらくして柱の陰から祥子さまと令さまが顔を出した。そこを蔦子さまのカメラがパシャパシャと捕らえていく。
「そ、そのね、・・・そうそう、本を探しに出てきたのだけど、あなた達の姿が見えたのでちょっと様子を見にきたのよ。ね、令、そうでしょ?」
「そうそう、そうだよ、偶然見つけてさ。決して後をつけてたわけじゃなぐふっ」
「余計なことは言わなくても良いの!・・・おほほほ、そういうわけだから後はあなた達で楽しんでいらしゃい。ごきげんよ」
適当にごまかして逃げようとする祥子さまと令さま。だが由乃さまと瞳子さんが逃がさない。
結局、バレンタインデート組全員のお茶代を奢らされることになったようだ。
「ナイス!いい仕事するわね可南子ちゃん」
「薔薇ファミリー勢揃いの休日、それぞれのデート、ストーカーな薔薇さま方、最高よ!」
真美さまが拳を振り上げてガッツポーズをしている。
「さぁ、最後の仕上げ、お茶会の現場を撮影よ!」
祐巳さま達の後を私達三人は足音を立てずに走って追いかけるのだった。

翌日の放課後・・・。
「可南子さん、昨日は何をしていらっしゃったの?」
やっぱり瞳子さんが訊ねて来た。もう真美さまはレポートを回収して印刷に入っているだろうか?まぁ、種明かしをしても問題ないだろう。
「リリアンかわら版を楽しみになさって下さいな。写真入りで瞳子さん達のレポートが掲載されますので」
「!・・・まさか、蔦子さまや新聞部も?」
「えぇ」
瞳子さんは眉間に手を当て、深いため息をついた。
「昨日の帰り際にお姉さまが『今年は蔦子さん来なかったのかな?』と言われていましたが、見事に新聞部にやられてしまったわけですのね。可南子さんまで巻き込んで」
ぶつぶつと瞳子さんに文句を言われるが、そんなことは全く気にならない。だって今の私は幸せだから。私のカバンの中には報酬の『福沢祐巳写真集高等部一年生編』が入っているから。そうだ、蔦子さまにお願いして『松平瞳子写真集高等部一年生編』も作ってもらおうかな。


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