翠さまの【No:1518】に触発されたらこうなった。
祥子さまは祐巳の顔を覗き込んで、頬をそっと撫でた。
「私は今、彼から逃げてきた。それを取り返すことができるのは、明日の舞台しかないと思うの。彼が側にいたとしても、ちゃんと舞台を務め上げられたら、それで決着が付くと思う。私に戦わせて。もう逃げたくないの」
「祥子さま……」
「戻りましょうか」
祐巳はもう何も言えなくて、ただうなずいて棚から下りたのだった。
西日で乾いたハンカチが、丁寧に畳まれ、祥子さまの手に収まった。涙やハンカチの中の水分は、どこかに飛んでしまった。この温室のどこかにまだあるはずなのに、目に見える形でなくなった。
出口に向かう途中、祥子さまと通路で足を止めた。
「これがハンカチ……」
祥子さまの人差し指が、目の前の布を指差した。
「それが……??」
祥子さまは誇らしげに言った。
「引き裂きなのよぉー!」
ビリビリビリィィィィィィィー
「このこと、覚えておいてね」
忘れられるはずがない……、と祐巳は思った。
そしてハンカチも目に見える形でなくなった。
この温室のどこかにまだあるはずなのに……