【No:1522】あうんさまのコメントから終章「バレンタインデート・カフェ編」
「8人?ちょうどよかったわ、テーブルが空いたところなの」
と着物にエプロンドレスのお婆ちゃんが案内してくれた。
「ケーキセットを8つ、みんな何が良い?」
祐巳さんが率先してみんなの注文をまとめている。さすがは紅薔薇のつぼみね。
三種類のケーキから選べるということで、祐巳さんと志摩子さん、令さまは栗のタルト、由乃さんと瞳子さんはチョコレートのシフォンケーキ、祥子さまと乃梨子さんと私が松の実のチーズケーキを注文した。
志摩子さんの横に乃梨子さん、祐巳さんの右に瞳子さん、左に祥子さま、そして、令さまと由乃さんの間に私が・・・え?
「由乃さん、良いの?私が令さまの横で」
「いいんじゃない。れ・・・お姉さまは卒業したらリリアンには顔を出さないらしいし、ゆっくり話せるのはこれが最後かもよ」
「・・・由乃さん、ありがとう」
ヤキモチ妬きの由乃さんが譲ってくれるなんて。友達っていいなぁ。
「お姉さま、先ほどはありがとうございました。明日は必ず着けて参りますね」
瞳子さんが祐巳さんに甘えてる。可愛いなぁ。
「あら?瞳子ちゃん、何の話?」
「祥子さま、先ほどお姉さまにリボンをプレゼントして頂きましたの。お姉さまと『お揃いの』リボンを」
「なんですって!?祐巳とペアルックですって!ゆーみぃーん、どうして私にはくれないのー?」
「あ、あの、お姉さまはリボンをされないので。それに一昨年のクリスマスで私のリボンを持って行かれたではないですか」
祥子さまって祐巳さんには甘々なんだ・・・。
「そうね・・・私はリボンを着けないわね・・・何かペアになるもの・・・制服・・・では意味がないわ。ロザリオって今更・・・そうだわ。祐巳、この後でランジェリーショップに行きましょう。祐巳と同じ下着を・・・はぁ〜ん」
「クスクス、残念でしたわね祥子さま、形は同じでもサイズまでは同じものには出来ませんものね」
「どういう意味かしら、瞳子ちゃん?」
「祥子さまはDカップ、私とお姉さまはAカップ、全く同じ下着を着けることも、貸し借りをすることも出来るのですわ」
「ガーン!!自分のスタイルの良さが恨めしい・・・」
「瞳子・・・私も一応Bはあるんだけど」
「ガーン!!お姉さまに負けた・・・」
えーっと、もしかして祥子さまと瞳子さんで祐巳さんを取り合ってるの?でも下着って、どういう勝負?
「うーん、祥子も大人気ないよね」
はぁ・・・紅薔薇姉妹って大変なんだ。
「あの、由乃さま、志摩子さん、紅薔薇さまに『卒業式前の「薔薇さまを送る会」で1年生は一芸を披露する』と言われたのですが、本当でしょうか?それが伝統だと」
へー、山百合会幹部にそんな伝統があったんだ。わぁ、薔薇さまの秘密に触れてるのね、私。
「あのね、乃梨子それはね」
「本当よ、乃梨子ちゃん。去年は私達三人で隠し芸を披露したわ。あ、芸の内容はこの間の幼稚舎慰問で見たわよね?あのくらいの芸を披露してもらうわよ」
「で、でも、紅薔薇さまや黄薔薇さまも1年生のときに芸をやったんですか?とても想像出来ません」
「あの二人は事前に知らされてなくてね、本当に急場の隠し芸をやったの。令ちゃんはリンゴを片手で握りつぶして見せたし、祥子さまは四羽の白鳥を自ら歌いながら踊って見せたそうよ」
へー?令さまってそんなことが出来るんだ。
「あのプライドの固まりのような紅薔薇さまがですか?」
「だからよ。先代紅薔薇さまに『あら、祥子は何も出来ないの?』なんて言われたら、ねぇ」
「うわぁ・・・それならありそうですね。でも、私なんて何も出来ないですよ」
「それは自分で考えてやらなきゃ。志摩子さんだって「マリア様のこころ」に合わせて日舞踊ったのよ。その妹が無芸なんて情けないわね」
「もう、由乃さん、恥ずかしいわ」
「し、志摩子さん?マジなんですか?うわー!何やったらいいんだろー?般若信教でも唱える?ネタが、ネタが無いーーー!!!」
あらあら、乃梨子さんが頭を抱えてテーブルに突伏している。
「由乃さん、あれはお姉さまがイタズラを」
「まぁまぁ、こんな伝統があっても良いじゃない。面白いんだし」
「もう、由乃さんは最近江利子さまに似てきてない?」
「ガーン!!それだけは嫌だー」
由乃さんまで頭抱えてるよ。もしかして先代黄薔薇さまと由乃さんって仲が悪いのかしら?
「うーん、どちらかというとお姉さまに玩具にされていたというのが正しいかな」
うわぁ、それはそれで大変そうだ・・・。
「ねぇ、ちさとちゃん、こんなことを頼むのは変かもしれないけど、他に頼める子が・・・まぁ居ない訳じゃ無いけどちょっと不安だから。おねがい、由乃を支えてやってね」
「え?それは・・・」
「由乃に妹が居ればおばあちゃんの遺言を伝えられたんだけど、まだ居ないからね」
うわっ!うわっ!令さまに手を握られて、ドアップで迫られちゃってるよー!!
「やっぱりね、お姉さまが卒業してしまう寂しさというのは結構くるんだよね。私には由乃が居たけど、新年度始まってしばらくは不安で寂しかった」
「あの子はそれを一人で乗り越えなくちゃいけない。そんな時に支えてくれる誰かに居てほしいんだ、姉バカと言われてもね」
令さま、本当に由乃さんの事が心配なんですね。
「だから、ちさとちゃん、由乃をおねがい」
「はい・・・たいして役に立たないかもしれないけど、私が出来ることなら。大事な友達だから」
「ありがとう」
「ねぇ、瞳子。そのケーキ一口ちょうだい」
ってシリアスなところで、祐巳さんってば能天気に。
「え?あ、どうぞ」
「んー、美味しい。お姉さまのも一口いいですか?」
「あら、好きなだけ食べていいわよ」
もしかして、祐巳さんが仕切ってたのはこのため?全種類制覇したかったの?
「わぁ、こっちも美味しい。あ、二人とも私のも食べて、これも美味しいよ」
「あら、そう?」「頂きますわ」と二人同時に・・・祐巳さんが手をつけた側にフォークを伸ばした。
「祐巳との」「お姉さまとの」「「間接キスは渡さない!」」
「か、間接キス??」
・・・・・・えーっと、薔薇さまですよね?馬鹿さまじゃないですよね?
「乃梨子ちゃんは出来ないの?イタコとか、浄霊とか。お寺廻りして目覚めたとかさー」
「ありません。私を何だと思ってるんですか?ただの仏像愛好家で宗教家じゃないんですよ」
由乃さんも無理難題言ってるなぁ。乃梨子さんが可哀想。
「んー、そうだ、乃梨子ちゃんって千葉出身だったよね?」
「はぁ、そうですが?それがなにか?」
「浦安のネズミーランドの三月マーチとか踊れないの?」
「いやぁ、興味なかったのでちょっと・・・あそこ仏像無いし」
基準はそこですか?
「ふーん、隠し芸になるかと思ったのに」
「いや、千葉だからって・・・そうか、筑波山の蝦蟇の油売り!あの口上ならやれますよ!」
「なんか渋いの出して来たわね」
「乃梨子は芸達者なのね」
「いえ、お寺廻りで観光地行くと大道芸を見る機会多いものですから」
白薔薇ってマイペースなんだ・・・。
「でもねぇ、由乃ったらひどいと思わない?」
「えっと、何がでしょうか?」
おっと、令さまのお言葉を聞き逃さないようにしないと。
「妹候補居るのを最近まで教えてくれなかったんだよ。有馬菜々ちゃんって中等部の子。あ、これ新聞部には内緒ね。しかも太仲の田中三姉妹って実は四姉妹でね、その一番下が菜々ちゃんなのよ。なんでライバル校の姉妹がリリアンに居るの?しかもそれを妹にしようなんて、無茶苦茶なんだから」
えーっと、令さまってかなり愚痴っぽい方だったんですね。
「他大学に進学するなんて止めておけばよかったかしら・・・」
いえ、令さまはもっと由乃さんから自立なさった方が良いと思います。
こんなふうに楽しい(?)時間はあっと言う間に過ぎて行き、2時間ほど話し込んでしまっていた。
というか、2時間も令さまの愚痴を聞かされて頭がくらくらしてます〜。