【1545】 島津ヨシノの憂鬱  (まつのめ 2006-05-27 19:15:17)


タイトルでわかる通り、クロスオーバーです。
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 島津由乃が改造手術いや、心臓手術を経て学校復帰の挨拶で「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」と言ったかどうかは定かでない。
 しかし、薔薇の館でどういう訳か窓際で椅子に腰掛け分厚いハードカバーの本を読みふけっていた乃梨子ちゃんが妙に無表情に「ごきげんよう」と挨拶したり、志摩子さんがいつになく落ち着きがなく、由乃さんに怯えているように見えたり、令さまが設えたような薄っぺらな笑みを顔に貼り付けているのは、多分、私が疲れているからなのだろう。今夜は風呂に入ったら余計なことはしないでぐっすり休むことにしよう。明日になればきっとみんないつも通りに見えるはずだ。


  ◇


 ある日の薔薇の館でのこと。乃梨子ちゃんが帰りがけにどこかの風邪薬みたいなタイトルのハードカバー本を私に差し出してこう言った。
「これ、読んで」
「え?」
 私は自慢じゃないが、少女向けの文庫本とかあと学校の課題図書くらいしか読んだことはなかった。カタカナの著者名に誰々翻訳なんて物は、いやそれ以前にこんな国語辞典みたいな厚さのハードカバー小説なんてものは生まれてこの方開いたことさえなかった。本当に自慢にならないな。
 たかだか本に威圧されている私に乃梨子ちゃんはとことん表情の無い顔でまた言った。
「読んで」
「う、うん」
 なにやら無言の圧力のようなモノまで感じてしまったのはきっと私が小心者だからなのであろう。乃梨子ちゃんは「似つかわしくない」と私の知り合いなら95%がそう言うであろうハードカバーの書籍を私に預けると、何事も無かったように鞄を取ってビスケットと形容される扉から出て行ってしまった。
「……なんだったの?」
「祐巳、私たちも帰りましょう」
「あ、はいお姉さま」
 私は乃梨子ちゃんから渡されたその下手するとお弁当箱よりかさ張りそうなその本を鞄にしまい、お姉さまに付いて部屋を出た。乃梨子ちゃんの本についてお姉さまからは特に何も訊かれなかった。
 でも、この本が全ての始まりだったのだ。

 私は家に帰って、夕食後、さっそくその本を紐解いてみた。
 が、二段組の一段、二段、ページをめくって一段目の途中で挫折した。
 宇宙船と領事さまが出てきてドラゴンとタキオンがどうのって、その辺りでもうおなか一杯。登場人物たちが何か物語を紡ぎだすところまで頑張って読めば、もっとのめり込んでいけるのかもしれないけど、ちょっとこの活字の海に飛び込んでいく勇気がなかった。
 折角薦めてくれたのに、読まないで返したら乃梨子ちゃんがっかりするだろうな、どうしようかなぁ、なんて考えつつ、ぱらぱらとページを捲っていたら、途中に挟んであった栞が絨毯に落ちた。
 簡素化された植物のイラストが描かれた書店の栞だ。何の気なしにそれを裏返して見て私はそこに手書きの文字を見つけた。
『午後7時、○○駅前で待つ』

 結局、こんな時間に女子高生がお出かけとか諸々の問題をクリアして私は乃梨子ちゃんの家にいた。いや、ここは本当に乃梨子ちゃんの家なのか自信が無いんだけど。
 なぜなら、そこは呼び出された駅に程近い高級マンションの一室だったのだけど、家の中には乃梨子ちゃんと私以外人の気配が無かった、いやその生活臭すら無かったから。
「あの、乃梨子ちゃん?」
「なに」
「ご家族の方は?」
「いない」
「いや、たしか親戚の方と暮らしているんじゃなかったっけ?」
「一人暮らし」
 うそん。訊いた話じゃ、母方のお爺ちゃんの妹さんだっけ? の、ところから通ってるって。
 どうなってるの?
「座ってて」
「う、うん」
 私は通された居間に一つだけぽつんと置いてあるコタツ机に向かって座った。そして台所に入った乃梨子ちゃんを待ちながら彼女が私をここに呼んだ理由を考えていると、やがて乃梨子ちゃんは急須と湯飲みの乗ったお盆を持ってきた。
 乃梨子ちゃんはテーブルに盆を置いて私の正面にちょこんと正座し、黙って急須を手にとって湯飲みにお茶を注いだ。
「飲んで」
 そう言って湯気の上がる湯飲みを私の前に置いた。
「あ、ありがと」
 お茶は熱くも無くぬるくも無く、私の舌に丁度良い湯加減だった。
 乃梨子ちゃんが何も話さないで私をじっと見つめているので、仕方なく私はお茶を飲むのに集中した。お陰で湯のみはすぐに空になったが、乃梨子ちゃんはすぐに二杯目でそれを満たした。
 困惑しつつも、私は二杯目を飲み干し、乃梨子ちゃんは更に三杯目を入れ、それも飲み干して、乃梨子ちゃんが空になった急須にお湯を注ぎ足すために立ち上がった時点で私は言った。
「お、お茶はもういから、私を呼んだ理由って聞かせてくれない?」
 乃梨子ちゃんはまた私の目の前に座りなおした。でも黙って私を見つめるだけ。
「学校で言えないような事なの?」
 私がそうと問うと、ようやく乃梨子ちゃんは口を開いた。
「島津由乃のこと」
「由乃さんの?」
「それとわたしのこと」
 そう言って一旦口をつぐんで一拍おいてから、
「あなたに教えておく」
 そう言ってまた沈黙した。
 なんか乃梨子ちゃん話しかた変だよ?
 乃梨子ちゃんは表情に乏しい子だったけどこんなに平坦に無感情な話し方をする子じゃ無かったはずだ。
「由乃さんと乃梨子ちゃんが何?」
 私が黙っていると話が進みそうも無いので聞き返した。
 ここへ来て乃梨子ちゃんは表情を浮べた。というか殆ど無表情でよく見ていないと判らないくらいの困ったような躊躇(ちゅうちょ)するような表情を。
「うまく言語化できない。情報の伝えるのに齟齬(そご)が生じるかもしれない。でも聞いて」
 そして乃梨子ちゃんは話だした。
 もちろん私が阿呆みたいに口をぽかんと半開きにしていたことは言うまでもない。



「わたしと島津由乃は普通の人間ではない」
 乃梨子ちゃんは奇妙な話をはじめた。
「う、うん、由乃さんは判らないけど今の乃梨子ちゃんは普通じゃないと思うよ?」
「そうじゃない」
 背筋をぴんと伸ばし膝の上で指先を揃えて微動だにしないで淡々と乃梨子ちゃんは語った。
「性格及びその行動に普遍的な性質を持っていないという意味ではなく、文字通り純粋な意味で、彼女とわたしはあなたのような大多数の人間と同じとはいえない」
 なに? 意味わからないよ?
「銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。それがわたし」
「……」
「わたしの仕事は島津由乃を観測して、入手した情報を情報統合思念体に渡すこと」
「……」
「生み出されてから三年間、わたしはずっとそうやって過ごしてきた。この三年間は不確定要素が無く、いたって平穏。でも最近になって無視できないイレギュラー因子が島津由乃の周りに現れた」
「……」
「それがあなた」
「……」
 こうして乃梨子ちゃんは訳のわからないSF小説に出てくるような話をたっぷりと語ってくれた。内容は理解し難いというか、乃梨子ちゃんは遠いところに逝ってしまったんだということを私に確信させるに十分な話だった。
 要約すると、乃梨子ちゃんは由乃さんを観測するために地球に遣わされたその宇宙生命体だかの端末で、由乃さんはその宇宙人が興味を抱くようなすごい能力を持ってるとかなんとか。
 それで、その宇宙的存在は進化に行き詰まっていて、その進化の壁を打ち破る可能性を由乃さんの中にに見出した、それが今から三年前。そのとき由乃さんが宇宙を揺るがす何かをしたらしい。そんなバカな。
「さっぱり判らないんだけど?」
「信じて」
 もう貸してもらった小説(の一ページ半)でSFはおなか一杯なのにそんな事言われてもどうしたら良いやら。
 なのに乃梨子ちゃんは更にこう言った。
「あなたはその島津由乃に選ばれた」
「選ばれてないって」
「選ばれている。多分、島津由乃にとってあなたは鍵。あなたと島津由乃が全ての可能性を握っている」
「本気で言ってるの?」
「もちろん」
 ああ、もう私の管轄じゃないよ。
 良いお医者さん、お姉さまに聞いたら紹介してもらえるかな?
「そういう話は由乃さんに直接話してあげたほうがいいと思うよ。最近そういうものに興味があるみたいだから」
 内容はよく覚えていないが先日、由乃さんは私に宇宙人がどうとか未来人がどうだかとか話を聞かせてくれた。とめども無い日々の話題の一つくらいにしか認識していなかったけど。
「情報統合思念体の大部分は島津由乃が自分の存在価値を自覚してしまうと予測できない危険を生む可能性があると考えている。今は様子を見るべき」
「でも私が由乃さんに言っちゃうかもしれないよ?」
「あなたがこの話を伝聞したとしても島津由乃はあなたからもたらされる情報を重視しない」
 確かにそうだと思う。まずあんな複雑な話を私の言葉で語ってもただのヨタ話になるのは目に見えているし。
「情報統合思念体が地上に置いているインターフェースはわたし一つではない。情報統合思念体の意識の中には積極的に働きかけて変動を観測しようとする動きもある。あなたは島津由乃に取っての鍵。危険が迫るとしたらまずあなた」
 危険ってなに? 私が宇宙人に襲われるとか?
 もう、付き合いきれない。
「わ、わかったわ。良くわからないけど気をつけるから」
 私は適当にそう言って腰を浮かせた。
「そうして」
「じゃ、私そろそろ帰るね。お茶美味しかったから。ごちそうさまごきげんよう」
 乃梨子ちゃんは何も言わなかった。テーブルに置かれた湯のみの方を見つめているばかりだった。


 私は何処へ行っていたのというお母さんに生徒会の打ち合わせで後輩の家へ行って来たと半分本当の言い訳をして部屋に戻った。
 ベッドに身を投げ出し、さっき乃梨子ちゃんに聞いた話を反芻してみる。
 あの話をそのまま鵜呑みのするとしたら、乃梨子ちゃんは統合なんとか思念体? という宇宙的存在の端末、早い話が宇宙人の手先だってことになる。この学校に入学したのは由乃さんを観察するため。それまでは陰に隠れて観測してたけど、イレギュラーな要素が生じたから入学してきた。でも仏像を見に行って受験に失敗したって話はどうなっちゃったのだろう?
 乃梨子ちゃんに仏像以外にあんなSF小説を読む趣味が合ったなんて知らなかったけど、あんな話をするなんてなか悪い物でも食べたのだろうか? それも私をわざわざ呼び出してするなんて。もしかしたら受験の失敗のトラウマが残っててそれで今になっておかしくなってしまったのかもしれない。
 明日は志摩子さんに相談した方が良いだろう。でもあまり大きな話にならないといいな。

 そのときは、そう思っていた。でも話は思わぬ方向で拡大の一途を辿ったのだ。




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 こぼ落ちで出した長いやつの続きで煮詰まってて(既に文庫本260頁分位ある)自分で書いた文章が面白いのか詰まらないのか判らなくなってきてますが、とりあえずマリみてSSのリハビリのつもりでクロスにしてみました。でもキャスティングがいまいち。


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