がちゃSレイニーシリーズ
【No:982】のつづき。
結局。瞳子はその日、薔薇の館に戻ってこなかった。
「なにやってんのよ、瞳子」
「乃梨子、あの様子だったらロザリオをかけて家に帰って、なにかあったかもしれないわ。おうちの方に引き留められたとか」
「それ、まずいよ志摩子さん」
そう言われたら、急に心配になってきた。
待ちくたびれているうちに、紅薔薇さま、黄薔薇さま、由乃さまもやってきて、お茶会になったのだが……これで大団円になったとはだれも思っていない。
ようやくロザリオを渡したというのに、祐巳さまの顔も晴れない。
それはそうだろう。『姉として聞く』と言い切った、瞳子ちゃんの事情を知らない限り、なにも解決はしていない。
ところが……かわりにやってきたのが、この人。
コンコン、と、おずおず、という感じで扉がノックされる。
「どなたでしょうか?」と、ビスケット扉を開ける。
「桂さま?」
「あ、乃梨子ちゃん。ごきげんよう、祐巳さんは?」
「いらっしゃいます」
「どうぞ、お入りになって」紅薔薇さまが迎え入れる。
「あ、失礼します」
祐巳さまたちのお友達の桂さんでも、薔薇の館は敷居が高いんだった、ということにこんなときに気づく。
「どうしたの? 桂さん」
「それがね……赤いスポーツカーの王子様から伝言なの」
「は? 柏木さんが?」
「優さんから伝言ですって?」
ちょっと驚いた顔の祥子さま。
「あの、テニス部の練習が終わって帰ろうとしたら、校門のところにいらしたんです。『祐巳ちゃんの友達だったね。ボクが中へ入ろうとしたら大事になっちゃうんで伝えて欲しいんだけど』って。よく私を覚えててくださったなと思ったんだけど」
私もそう思います。
「それで、優さんはなんと?」
「『瞳子は今日は来られなくなった、と伝えて欲しい』、と言って、そのまま行ってしまわれました」
「なんですって?」
「なによそれ?」
祐巳さまが切り出す。
「お姉さま、今日、柏木さんにいきなり放送で瞳子ちゃんを止めるように呼びかけていらっしゃいましたね。事情をご存じなのですか」
「だいたいはね。でも、本当に詳しいことはわかっていないのよ。核心のところを小笠原家、というよりわたくしに隠しているような気がするの」
「それだけじゃありません。お姉さま、柏木さんにあんなふうに頼み事をするなんて、柏木さんともなにか……」
「祐巳、待って。ごめんなさい、それはまだ話せないわ。瞳子ちゃんのことも本人から聞いた方がいいと思う。瞳子ちゃんの電話番号は知っているわね?」
「ええ、でも、明日直接話した方がいいかと」
「登校してこないかもしれないわ」
「えええ?」