【158】 学園長は美少女戦士  (遥華 2005-07-05 01:40:18)


学園長室へ春日さんを案内した聖は、春日さんが室内に入ったのを見届けると廊下から用務員が歩いてくるのを見つけた。
「ごきげんよう」と聖が言うと、挨拶を返した用務員は「学園長に届け物なんだが、今忙しいのかな?」と聞いてきた。
「そうですね、今はお客様がいらしてますから…」
「そうか、じゃあまた後で出直すとするか」
「それでは、私が預かっておきましょうか?」
「そうかい?それじゃあお願いしようかな。今日は娘が家で待っていてね。」
嬉しそうに話す用務員は聖に荷物を渡すと、やはり笑顔で「じゃあ」と言って帰っていった。
聖が預かった荷物は、どうやらクリーニングを頼んでいた洗濯物らしい。
ちらっと見えた制服のようなスカートに、聖は疑問を覚えた。それがリリアン特有の深い色あいの制服ではなかったからだ。
興味を抑えきれない聖は、校舎を出たところで思わず中身を調べてしまった。
「こ、これは…!?」

スカートを思い切り翻らせながら薔薇の館に駆け込んだ聖を、他のメンバーは驚きの表情で迎えた。
「ど、どうしたのよ聖」と聞く蓉子に構わず、聖は素早く視線を巡らせて獲物を探し出した。
「祐巳ちゃん!!」といつになく強い調子で聖に名前を呼ばれた祐巳は、百面相をしながら「は、はい!」と反射的に返事を返した。
「後、蓉子に祥子、令に…ん〜由乃ちゃんもこっちに来て」
「え、えぇ」「…はい」「「はぁ…」」とそれぞれ訝しげに返事をしつつもおとなしく聖のもとへ行く。
聖は「ちょっとついてきて…」と言って、5人を連れて階下へと降りていった。後に残された江利子と志摩子、蔦子は訳も分からず顔を見合わせるだけであった。

間もなくして階段を上がってくる足音に、またも3人は顔を見合わせながらも揃って視線を扉のほうに向けた。
「おっまたせ〜」と先程と打って変わって朗らかに言う聖に毒気を抜かれつつも、続いて入ってきた集団に志摩子や蔦子はおろか、あの江利子までが目を見開いて呆気にとられた。
そこには色とりどりの某美少女戦士の格好をした5人が立っていたからだった。「いやぁ〜これを見た瞬間は思わずキターーー、って叫びたくなっちゃったよ」と満面の笑みでとても楽しそうに言う聖に
「せ、聖…プッ…もしかしてそれって…ククッ」とすぐさま復活して、今では堪えきれない笑いを隠そうともしない江利子が聞いた。
「そう!この5人は彼の有名な…さぁ5人とも自己紹介を!!」と促す聖に、開き直ったのか自棄になったのか順番に
「つ、月にかわってお仕置きよ!」
「しゅ、シュープリームサンダー!」 「か、火星にかわって折檻よ!」
「セーラーウラ○ス、か、華麗に活躍!」
「セーラーネ、ネプ○ューン、優雅に活躍!」
と叫んだ。 部屋には満足そうな聖と、リリアンの生徒にあるまじき大爆笑をする江利子、早くもカメラのシャッターを切りまくる蔦子とまだ呆然としている志摩子に、真っ赤な顔の5人が集まっていた。

「あははは、あはは、あははははは…」と目に涙を浮かべつつ笑い続ける江利子に、蓉子が「江利子!」と怒鳴ったが、その格好故に余計に江利子の笑いを増長させただけだった。
「聖が“誕生日であり、自分の生まれ変わった日でもある今日この日に、どうしてもしてほしいことがある”って真剣に言うからって真面目に聞いた私がバカだったわ…」と蓉子は俯きながらも江利子を睨んで悔しそうに言った。

「ろ、白薔薇様〜」と涙目で言う祐巳と「この格好は何ですの!白薔薇様!!」と怒りで顔を真っ赤にしながら訴える祥子を
「蓉子も他の4人も、私の願い事を叶えるって言ってくれたじゃない」とニヤニヤ笑いを浮かべながら聖は軽くいなした。
「くっ…」と唸りハンカチを握り締める祥子に祐巳は慌てて「お、お姉さま!あの…その…とてもよくお似合いです!」と声をかける。しかし祥子は「こんなものが似合っても嬉しくとも何ともないわ!!」と今度は祐巳に向かって怒鳴った。そんな祥子に祐巳は思わず泣きそうになり、その様子に祥子も罪悪感にとらわれて急いで祐巳に「あ、あなたも似合っていてよ祐巳」と声をかけた。

「令ちゃんがウラ○スって、見たまんまよね」と言う由乃に、思わず令は「やっぱり…?」と苦笑しながら返した。
そんな2人をカメラに撮っていた蔦子は「でも由乃さんは三つ編みを解くと、跡の残った髪がいい感じにネプ○ューンらしくなるわね」と由乃に言い、「うん、その髪型も由乃に似合ってるよ」と令もはにかんだ笑みを浮かべながら言った。
「当然よ。それに令ちゃんの傍にいる役は私にしか出来ないもの。」
「由乃…」
「令ちゃん…」
と突然甘々な世界に飛んでいった2人を見ながら蔦子は、「中身は2人とも大違いだけどね…」と小声で呟きながら、またカメラを構えた。

ようやく最初の衝撃から立ち直った面々は、その格好のままクリスマスパーティーの続きを始めることにした。(5人が、といぅより紅薔薇が着替えようとするのを聖と江利子、蔦子が必死で止めたからだ)

「ところで、天然でおっちょこちょいの祐巳ちゃん、髪の長い祥子に見たままの令や立場的に由乃ちゃんは分かるけど、何で私がジュ○゚ターなのよ?」
「そんなの勿論声で決めたに決まってるじゃない」
「…なるほど納得だわ…」
「それに蓉子のこんな姿なんて絶対に見れないから…可愛いよ、蓉子…」
「せ、聖…」

「あら、祐巳…リボンが歪んでいてよ」
「あ、ありがとうございますお姉さま」
「ふふ、もし祐巳が本当に戦士だったとしたら、私は命懸けであなたを守るわ」 「お姉さま…私も!絶対にお姉さまを守ります!」
「祐巳…」

「令、とてもよく似合っているわよ」
「あ、お姉さま。ありがとうございます」
「やっぱり私もその制服を来てあなたの隣に立とうかしら」
「黄薔薇様!令ちゃ、お姉さまの隣には私がいるのでご心配なく!!」
「あらでも由乃ちゃんの身長ではバランスが悪いわ。ねぇ、令もそう思わない?」 「えっ!?えぇ…まぁ…確かにそうかも…」
「令ちゃん!令ちゃんの隣は私に決まってるでしょ!?そう黄薔薇様に教えて差し上げてよ!」
「うえっ!?あぁ…うん…そぅだね…」
「令は私が隣では不満なのかしら?」
「お、お姉さま!?いや、まさかそんなことは…!」 「令ちゃん!!」
「よ、由乃〜」
「令?」
「お、お姉さまぁ〜」

「ふふ、皆さんとても楽しそう…」
「あれ?志摩子さんは混ざらなくていいの?」
「ええ。私は皆さんを見ているだけで、幸せなの」
「ふーん。ま、私もカメラ越しに皆を写すことが出来ればそれでいいけどね」
「ふふ、蔦子さんもおもしろい人ね」
「志摩子さんに言われたくわないわね」
「それもそうかもしれないわね。まぁ、お姉さまったら幸せそう…」
「紅薔薇様の頬に手を掛ける白薔薇様!シャッターチャンスだわ!!」
「あ、蔦子さん。一つお願いがあるのだけど…」
「なぁに、志摩子さん」
「あのね……」

そしてパーティーは学園長へのささやかな疑問と、大いなる幸せを残しながら終演へと向かっていった。

最後に志摩子が蔦子に、祐巳の写真の焼き増しを頼んだとか、頼まなかったとか…


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