【1598】 暗躍遭遇狸姫  (タイヨーカ 2006-06-08 21:47:46)


 【No:1592】【No:1594】の続編。
 祐巳と乃梨子が実の姉妹という、超パラレルワールドでお送りします。





「貴女が、乃梨子ちゃんのお姉さまですか」
「はい。ノリの姉の、二条祐巳です。今回は私のせいで妹に迷惑がかかり、もうしわけありませんでした」

 祐巳姉ぇは、深々と頭を下げながら紅薔薇さまに挨拶した。
とうの紅薔薇さまは、多少面食らった顔をしているけど、どこか満足そうだった。
 というか、私としては、自分に非があるとして素直に謝った祐巳姉ぇの方に驚いた。
ここでまた一悶着あるんだろうな。と考えていたので、逆に肩透かしだ。

 まぁ、いい事ではあるんだけれど。
 というか、正直言うと呼び出しの件は私の方が非が大きいっぽいんだけど、ここで祐巳姉ぇが
頭を下げてしまうのが、釈然としないというか。まぁ、ダメじゃん私。みたいなね?



 私と祐巳姉ぇが生徒指導室に呼び込まれるような事はなんなのか。それはあえて言わない。というか、絶対言わない。
そこは察して欲しい。いろいろあったんだ。
 で、生徒指導室での先生からの説教のようなそうでもないようなただ長いだけの話から解放された私達は、
とりあえずミルクホールに来ていた。
 というか、生徒指導室での展開を見るに、なにか祐巳姉ぇが裏でいろいろと動いているように見えるのは
気のせいだろうか。もしかすると、祐巳姉ぇは影でリリアンを牛耳る黒幕だったりするんだろうか。
「どうしたのノリ。そんなに顔して」
「え。な、なんでもないよ。それよりごめんね、指導室にわざわざ来てもらって」
「へ?その事?全然大丈夫だって。私もすぐ帰ればよかったんだし。ノリの嫉妬深さは知ってたからさー」
 うぐ。なんなんだろうかこの人は。私は別に親友として瞳子を心配しただけで、それ以外の感情は無いんだよ。
私の好みのタイプとか知ってるだろうに、この姉は。って違う。好みとかそういうのは今関係なくて。
 ……って、心の中でなに弁解してんだ私は。
「瞳子は関係ないじゃん。瞳子は私の親友だから祐巳姉ぇの毒牙にかからないか心配で」
「ひどーい。実の姉に向かって毒牙だなんて!」
 なにを言うのかこの女好きめ。聖さまと同類め。
 と、ここでちょっと言い合いがあった後で、始めのやり取りに戻る。



 紅薔薇さまはジッと祐巳姉ぇの顔を見つめると、スッと祐巳姉ぇの隣に座った。
 あれ?なんだか顔がやけに穏やかだよ?まさかだよね?
「貴女、瞳子とも仲がいいんですって?」
「あ、本人から聞いていますか?まぁ仲が良いって言っても、会ったら喋るくらいですけどね」
 あぁ、杞憂でよかった。なんて思わなかった。
あわわ……紅薔薇さまの鋭い視線を物ともしてないよ祐巳姉ぇ。なんて人だ。というか、笑みすら浮かべてるよ。
「そう…。ですけど、校内では慎んでくださいね。私の妹、ですので」
「あぁ、そういえば。以後気をつけます」
 今理解した。みたいな顔で祐巳姉ぇは手をポンと叩いた。
それを見て、紅薔薇さまは微笑を浮かべる。
「敬語はやめてちょうだい。貴女の方が歳は上でしょう?」
「いえいえ。祥子さんの方が、私よりお姉さまみたいでしたので。以後、気をつけます」
 ほら、また。と言って、紅薔薇さまは笑った。祐巳姉ぇも。
 なんというか、微妙な疎外感。
それに気付いたのか、祐巳姉ぇは意地悪そうな笑みを見せた。もう、ほんとにこの人は。
「祥子さん、ノリは普段はどうですか?」
「普段?そうね……よくやってくれているわ。志摩子と一緒に」
 なんでこんな臨時三者面談みたいな事になってるんだ。より一層に居心地が悪くなるじゃないか。

 で、なぜかこの後祐巳姉ぇは紅薔薇さまに私の質問ばかりして、私が気が気じゃなかった。
なんというか、指導室よりも疲れた。
「では、祥子さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう、祐巳さま。よろしかったら、ぜひ薔薇の館にお越しくださいね」
 ブッ!
「ノリ?」「乃梨子ちゃん?」
「い、いえ。なんでもないです。では、紅薔薇さま。今日は失礼します」
 紅薔薇さまが突然とんでもな事を言い出すので思わず噴出してしまったけど、問題はないようだ。
私と祐巳姉ぇはマリア様の前で紅薔薇さまと別れると、軽く祈って帰路へとついた。
 今日はちょっといろいろあったので、紅薔薇さまの計らいで放課後の活動は休みにしてもらった。
志摩子さんや瞳子とかには悪いけど、正直ホッとしている。
「それにしても、大丈夫なの。みんなに何か言わないで」
「うん。放送で呼ばれたわけじゃないし、みんな知ってたとしても瞳子とか紅薔薇さまがフォローしてくれるだろうし」
 というか、そう信じているぞ、親友!!


 帰りのバスの中は、特に喋ることなく過ぎていった。
 今まで白薔薇関係を中心にどんどんと私の知り合いを落としていった祐巳姉ぇだけど、さすがに紅薔薇さまは
難しかったようだった。
 それでも。あの祥子さまがあんなにあっさりと気を許すの私は始めて見るので、結局はその連勝記録は止まらない。

「私さ、ノリがうらやましいな」
「…なに、突然」
 バスを降り、徒歩での帰り道で後ろを歩く祐巳姉ぇはボソッとつぶやいた。
振り返ってみると、思いのほか祐巳姉ぇの表情は真剣だったので、私もそうすることにした。
「志摩子さんとかさ、瞳子ちゃんとか、佐藤さんとか、祥子さんとか、すごいいい人だし。
他の、山百合会?の人もこの分だといい人みたいだからさ。姉として嬉しいけど、ちょっと羨ましいんだ」
 祐巳姉ぇは、志摩子さんも年下なんだけど、紅薔薇さまと同じ理由で敬語だったりさんづけだったりする。
まぁ、それはどうでもいいか。
「そう?って、私祐巳姉ぇの学校生活あまり知らないからなー。長いこと寮生活だったし」
「ま、私もそれなりに充実した学生期間だったけどさ、やっぱりリリアンにいたら、もっと違う私になれたんじゃないかなー。
って、たまに思うんだー。ノリに迷惑かけないような、そんなお姉さんにさ」
 ……祐巳姉ぇの後ろ向きな発言は、久しぶりな気がした。
 なんだかんだで、そう。由乃さままではいかないまでも、祐巳姉ぇも赤信号の時間が極端に短い人だったりする。

 だからというか。私は自分で自分の矛盾をつくようだけど、そんな祐巳姉ぇは見たくなかった。
祐巳姉ぇは、もっとはっちゃけたな人じゃないといけないんだ。

「なに言ってるの、祐巳姉ぇは」
「ノリ?」
 あぁ、けどやっぱり口にするのは恥ずかしいかな。けどまぁ、今日はちょっとした罪滅ぼしとして、言っておこう。
「祐巳姉ぇの周りにも、いい人いっぱいいるじゃんか。
瞳子はもう祐巳姉ぇの周囲の人じゃん。志摩子さんもそうだし、紅薔薇さまだってそうだし、その、私。だって……」
 なんて意気込んだのはいいけど、結局段々と声が小さくなっていって、余計に恥ずかしくなった。

 当の祐巳姉ぇはと言うと、私の言葉に一瞬ポカンとした顔を見せたけれど、すぐに満面の笑みになった。
だけど、私の言葉はちょっとだけ止まらなかった。
「だ、だから!祐巳姉ぇの周りはいい人ばっかだし、もう祐巳姉ぇはどうせこのまま変わらないだろうし、
迷惑かけても私平気だから、だから、そんな風に言わないで」
 言ってて、なんだか目が痛くなってきた。泣いてない。痛いだけ。
 で、祐巳姉ぇは笑顔のまま正面から私に抱きついてきた。
あぁ、もう。本当にやめてほしい。場所とかあるだろうが。部屋でだったらいくらでもしていいから   ってのは嘘だ。うん。嘘だ。
「あぁもう。ほんっとに乃梨子は可愛いなー。抱き心地も一番だなー」
「一番って……他の誰と比べてんだ…」
 祐巳姉ぇの属性に「抱き付き魔」もプラスしておこうか。より一層に聖さまだ。

「うん。志摩子さんとか瞳子ちゃんとか」
 え、うそでしょ。ここでオチかよ。

「ちょ、人のお姉さまと親友に何してんだアンタはぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
 自分で言っておいてなんだけど、もう少しはっちゃけ方は変えて欲しいかな。と。


 ちなみに、私の叫びが、夕焼け空の住宅街に響いたかどうかは分からないけど、家に帰ってから菫子さんに
ネチネチとその事で小言を言われた。まぁどうせ私のせいなので黙って聞き続けていよう。
 ただ、視界の隅でやけに面白そうな顔で私のお菓子を食べている祐巳姉ぇは、一発と言わず、二発三発と小突き倒したい。
そう思った。



《続くのだろうか》


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