【16】 まじめな日出実にいたずら  (柊雅史 2005-06-12 00:24:57)


「――というわけで、山百合会の方からは、次回のかわら版で是非告知して欲しいとのことです」
「んー……」
日出実の報告を聞きながら、真美はくるくるとお気に入りのシャーペンを回していた。
「こちらの件は私の方から、好美さんへ依頼しておきましたが、よろしかったでしょうか?」
「ん、良いんじゃない」
「それでは、前回行ったアンケート結果ですけど……」
日出実に促されて真美は手元の資料に視線を落とす。
「まず、最初の質問に対する回答は――」
「んー……」
日出実が読み上げるのを聞き流しながら、真美は心ここにあらずで苦悩していた。
日出実を妹にして数週間。姉妹になったからといって、急に何かが変わるものではないとも思うのだけど、それにしたってこの、日出実の愛想のなさはどうにかならないものか。
日出実も良い記事を書く、中々見所のある妹なのだけど。どうもちょっと融通が利かないというか、アドリブに弱いというか、堅苦しいというか――お姉さまほどハチャメチャなのは困りものだが、がちがち過ぎるのも困りものだった。そもそも真美が巻き込んだ茶話会の時だって、最後まで日出実は戸惑いを見せ続け、その場の空気に馴染むことが出来ずにいた。
それでいて中々の記事を書いたのだから、才能はあると思うのだ。もっと柔らかい頭を持てば、真美やお姉さまにも負けない記者になれるだろう。
日出実を高く評価しているだけに、真美はその弱点が気になってしまう。なんとかしてやりたい、と思うのだが……。
「――お姉さま、聞いていますか?」
「ん、聞いてるわよ?」
上の空の真美に気付いてすかさず声を掛けてくる日出実に応じながら、真美はどうしたものかと首を傾げるのだった。


「そんな時はドッキリ企画よ!」
日出実のことを祐巳さんに相談していた真美は、いきなり背後から響いてきた声に、あちゃあと額を押さえた。
「ちょっと、ナニよその反応」
「由乃さん、早かったわね。志摩子さんの用事はもういいの?」
「用事? ああ、もう終わったわよ。それで、どうしてそういう楽しそう――じゃない、真面目な相談を、祐巳さんにして私にしないのよ」
がたがたと勝手に椅子を並べて陣取る由乃さんに、真美はそっと溜息を吐いた。
別に由乃さんが嫌いなわけではないのだが、由乃さんの言動はどうにも突拍子もない一面があり、こういった相談には不向きと判断して祐巳さんが一人の時に相談を持ちかけたのだけど。
由乃さんは既にノリノリで、祐巳さんに登場シーンのセリフを説明していた。
「ドッキリ企画で驚かせるのよ。そうすれば、澄ました顔の裏にある素顔を引き出せるわ!」
「いや、日出実の場合、素で真面目一筋だと思うんだけど……」
「大丈夫、私にいい考えがあるから!」
真美の意見はさっくり由乃さんに無視された。


「――というわけで、山百合会の方は前回の原稿通りで問題ない、とのことです」
「んー……」
日出実の報告を聞きながら、真美はくるくるとお気に入りのシャーペンを回していた。
「こちらの件は私の方から、雪野さまへ本稿の依頼をしておきましたが、よろしかったでしょうか?」
「ん、良いんじゃない」
「それでは、アンケート結果の記事ですけど……」
日出実に促されて真美は手元の資料に視線を落とす。
「まず、最初の質問に対する回答ですが――」
「んー……」
今日も今日とて、日出実の仕事は完璧だった。日出実が書いたアンケート記事も中々良い出来である。
これならこのままGOサインを出しても問題はないだろう。
問題があるとすれば、やっぱり今日も真面目一徹な日出実の方である。
(そんな時はドッキリ企画よ!)
思わず由乃さんのセリフを思い出してしまう。結局、これといった対策は何も出なかったので、由乃さんの言うドッキリ企画が唯一の案だったりする。
(ドッキリ企画……か)
正直、そういうことは真美も苦手だ。
苦手なのだが――
(そういえば、初めはお姉さまも色々と仕掛けてくれたっけ……)
真美は真面目すぎる、というのが、姉妹になったばかりの頃の、お姉さまの口癖だった。ちょうど今の真美と日出実の関係のようである。真美が日出実の融通のなさに気付けたのも、ひょっとしたらお姉さまのお陰なのかもしれない。
(よし……!)
これもお姉さまの務めである、と真美は気合いを入れた。


「うう……持病の癪がっ!」
「………………………それで、猪俣先生へのインタビューは明日の放課後でよろしいですか?」
「………………………うん」



ドッキリ企画なんて二度とやるもんか、と。
真美は顔を真っ赤にしながら決意するのだった。


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