【1629】 スコール騒がしき日々  (六月 2006-06-21 01:12:47)


オリキャラ出ます。
次代の薔薇さま達に・・・。
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「あーつーいー」
「由乃さん、もう7月なんだから暑いのはあたりまえだよ」
「わかってるけど、暑いのー」
夏休みも間近い土曜の午後、ここ薔薇の館は一学期中の総決算である書類整理に追われていた。
しかし、ろくな冷房設備も無い薔薇の館、午後の日差しにやられて不快指数は上昇する一方。私も由乃さんのようにだらけたいところだけど、妹の目が怖いから情けない格好はできない。
「・・・お姉さま、その足元は何でしょうか?」
「あ、バレた?」
上半身はしゃきっと!その足元は・・・水を張ったバケツで涼をとっていた。
「お姉さまには紅薔薇さまとしての自覚が無さ過ぎます」
「まぁまぁ、そんなに熱くなると倒れるよ。私は瞳子が弱ってる姿なんて見たくないわ。可愛い瞳子が倒れたりしたら、あぁ!私まで心配で倒れてしまうかも!」
左手で胸のリボンを掴み、右手は空を掻くように延ばす。
「わかりました。分かりましたのでそのような三文芝居は止めてください」
真っ赤になって拗ねるように横を向く瞳子は可愛い。ついついいじめたくなる。蓉子さまも祥子さまにこんな事してたのかな?

「紅薔薇家は甘々ですね、お姉さま」
「ふふっ、乃梨子も甘えてもいいのよ」
「ひへ、それは・・・」
自分で話を振っておいて真っ赤になる乃梨子ちゃん、まだまだ志摩子さんの手の上で転がされてるなぁ。
「うーーーー、紅薔薇も白薔薇もイチャイチャしてズルイ!もうっ、早く菜々帰ってこないかなぁ」
一番下っ端の1年生は買い物に行かされている。んだけど、ちょっと遅いような。
「帰ってくるまでちゃんと仕事してね、由乃さん」
「うーーーー」

「お姉さまがた、冷たい飲み物買ってきました!」
ビスケット扉を開けて、姉である由乃さんと対象的な菜々ちゃんの元気な声が響く。
その後ろからは乃梨子ちゃんの妹、二条榧子ちゃんが汗をかきかき荷物でいっぱいの袋を持って現われた。
榧子ちゃんは乃梨子ちゃんの実の妹であり、スールでもある。第二志望の学校で楽しげな姉の姿を見て、後を追いかけてリリアンに入学してきた兵だ。
「遅い!ミルクホールでさぼってたの?」
由乃さんが菜々ちゃんを指さして吠える。が、菜々ちゃんは全く意に介した様子も無く。
「普通の飲み物を買ってきてもおもしろくないので、学校の外のコンビニまで行って珍品を買ってきました」
びしっ!と敬礼なんてしている。

「それで、何を買ってきましたの?」
瞳子が小首をかしげながら聞くと、菜々ちゃんと榧子ちゃんはニヤリと不敵な笑いを浮かべ、両手の荷物をテーブルの上に置いた。
「えーっとですね、まずはこれを」
と有馬菜々ちゃんが取り出した物を由乃さんが手に取りボトルを開ける。
「スパークリングコーヒー?普通にコーヒーの匂い・・・がぁ・・・甘・・・苦・・・炭酸が・・・」
すごい複雑な顔してる。
「うぅ、変な味。コーヒーと炭酸はいまいちだよ」
「では、こちらはいかがでしょう?」
と、榧子ちゃんは緑のペットボトルを取り出した。
「ダージリングリーンティ?面白い名前ね」
そう言って志摩子さんは手に取ると一口飲んでみた。
「あら、意外と美味しいわ。紅茶の香りなのに緑茶の味がするの」
「へぇ、私も飲んでみる」
と乃梨子ちゃんが志摩子さんの飲んだお茶に口をつける。
「あぁーーー!!」
「ぶっ!なによ榧子、大きな声を出して」
「お姉ちゃん、志摩子さんと間接キス!」
榧子ちゃんの言葉に一瞬静かになった後、志摩子さんと乃梨子ちゃんの二人が真っ赤になってしまった。
いつまで経ってもこの姉妹は新婚さんなんだから。

「これは何ですの?生茶と書いてありますが、下の文字はあまり見たことが無いのですが?」
「まぁまぁ、瞳子さま飲んで頂ければ分かりますよ。といっても、緑茶ですが」
普通の緑茶なら、と瞳子が口をつけ・・・。
「ぶふぅーーーーっ!」
勢いよく吹き出した。私の顔目がけて。
「あわわわ、も、申し訳ありません、お姉さま」
慌ててハンカチで私の顔をゴシゴシと拭いてるんだけど、ちょっと痛いよ瞳子。
「なんですの、この緑茶は?甘いなんて物ではありませんわ」
「はい、タイで人気のお茶だそうで、限定販売だと書いてありましたので買ってみました。砂糖分10%だそうです」
悪びれもせずに話す菜々ちゃん。誰かに似てるけど、由乃さんが怒るから黙っておこう。

「しかし、これだけろくでもない物ばかり買ってくるわね」
「まったく、これじゃ仕事にならないよ」
今年の山百合会はいつもこんな調子、これで本当に一年乗り切れるんだろうか?
個人個人の能力は高い・・・はずなんだけどなぁ。
「菜々ちゃん、まともなのは買ってきて無いの?」
「大丈夫ですよ、祐巳さま。これなら皆さん飲めますから」
そう言って袋から緑色の缶を人数分取り出す。最初からそうしてくれれば良いのに。
「スコール?」
「スコールかぁ、こう暑いと一雨来て欲しいわよねぇ」
あー、由乃さん、これの意味を知らないんだ。
「由乃さん、スコールって何か知ってる?」
「バカにしないでよね祐巳さん。知ってるわよ、通り雨とかの事でしょう?」
「はずれー。それは『squall』、これは『Skal』綴りが違うの。これはねデンマーク語で『乾杯』の意味なんだよ」
「「「「「「へぇへぇへぇ」」」」」」
うわっ!みんなでバカにしてる?

「まぁいいわ、そう言う意味ならこれで乾杯しましょう」
「あら、何に乾杯するの?」
うんうん、私もそう思うよ志摩子さん。
「これから始まる私達の夏によ!」
「あら、素敵ね」
「仕事もせずに?騒々しいだけの夏になりそう・・・」
「紅薔薇さまはうるさいわね。老けるわよ」
のほほんとして掴めない白薔薇と、暴走する黄薔薇、水野蓉子さまあなたは偉大でした。私にこの重責が務まるのだろうか不安だ。

「祐巳さんが老け込まないうちに、私達の輝かしい夏に向かって!スコール!」
「「「「スコール!」」」」
「誰のせいで老け込むと思ってるのよ・・・」
「お姉さま、しっかりなさって下さい。瞳子がついておりますわ」


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