「つい先日のことですが、スーパーに買い物に行った時のことです」
それは薔薇の館で仕事が一息ついてみんなでお茶を飲んでいたときのこと。
暇潰しの雑談で何か話をするように言われ、乃梨子はちょっと考えた後、話し始めた。
「そう、それはレトルトカレーの売場を見た時のことでした」
「レトルトカレー?」
祥子さまの言葉に乃梨子は即座にフォローを入れる。
「レトルトカレーというのは調理済みのカレーを袋に入れて密封、殺菌したもので――」
「それくらいは知っています」
「失礼しました」
「そういうものをよく利用するのかと思っただけよ」
「よくというほどではありません。時々です」
「まあ、話の続きを聞こうよ」
令さまの言葉に乃梨子は頷いて続ける。
「とにかく、そこで私は見てしまったんです」
ごくり、と唾を飲み込む音をさせて祐巳さまが問いかけてくる。
「な、何を?」
「サ○カー日本代表チームカレー」
「「うわぁ」」
由乃さまと令さまが思わず、といった風にうめく。
「しかも、半額でした」
ちょっと遠い目をして乃梨子は言った。
「ああ、それは……」
限りない慈悲と哀れみの視線を向ける志摩子さんに、乃梨子はひとつ頷いて見せる。
「半額で山と詰まれているのを目にした時は、さすがにちょっとほろりとくるものがありました」
「ホロリとくるイイ話ですわねえ」
いつのまにかわいて出た瞳子が、そっと目頭を押さえて見せる。
うんうんとおおいに共感した様子の黄薔薇姉妹と、ひたすら「?」マークをとばす紅薔薇姉妹。
そして一仕事終えたような達成感に包まれて満足げな白薔薇姉妹。
大丈夫なのか山百合会は。
たまたま訪れた可南子が不安になるくらい、薔薇の館は今日も平和なのだった。