【168】 菜々、恋物語の卵  (柊雅史 2005-07-06 02:53:24)


※薔薇のミルフィーユのネタバレ、かもしれません。


由乃さまとの二度目の邂逅も、スリリングなものだった。
「ただいまー♪」
ふんふんと鼻歌を歌いながら上機嫌に玄関を開けた菜々に、たまたま通りかかった一つ上の姉が目を丸くする。
「珍しい、菜々が鼻歌歌ってるよ」
「なによ、それ。私だって鼻歌くらい」
「そりゃ、歌うだろうケドさ。珍しいじゃない。なに? 何か良いことあった? さては男でしょう。今朝、おめかしして出かけてたもんねー」
にやにや笑う姉に、菜々は「そんなんじゃないよ」と口を尖らせる。
「今日は学校の先輩と会ってたの」
「それでなんでそんなに上機嫌?」
「そりゃ……楽しかったから」
思い出すだけで、貴重な体験に頬が緩みそうになる。
初めて出会った時の、いきなりの妹宣言。
それに続いて、今回の令さまお見合い騒動アドベンチャーである。
こうも楽しいことが続けば、誰だって上機嫌になると思うのだ。
最後まで「男でしょ!」と疑ってた姉を無視して、菜々はトントントンと階段を軽やかに上がっていった。
「どうしてこう、お姉ちゃんってすぐに男の子とくっつけたがるかなぁ」
菜々は通っている学校が学校なので、そっち方面には本当に興味がないと言うのに。
今は恋愛なんかより、楽しいことをめいいっぱい楽しみたい、と菜々は思っているのだ。
「今度会う時は、どんなことが起こるのかな」
ちょっと前までは、名前も知らない相手だったけど。
今はもう、次に会う時が楽しみで仕方がない。
「島津由乃さま、かぁ……」
ベッドに寝転んで、菜々はふにゃっとだらしない笑みを零す。
なんだか心臓がどきどき鳴っている。
そんなに楽しみか私、と菜々はちょっと苦笑した。


菜々がそのどきどきの正体に気付くのはまだ先のお話。
今はまだ、その感情はじっと菜々の心の中で温められている段階だった。


一つ戻る   一つ進む