マリア様の下に集いし乙女達は、今日も今日とて純粋培養お嬢様になるべく学園生活を粛々と送っている。
勉学に励み、心身を鍛え、親しい者同士が親交を深める。
そんな、いつもと変わらぬ日常を送る乙女の園…だった……ついさっきまでw
「「 なんじゃコリャ〜〜〜〜〜!!!! 」」
薔薇の館にそぐわない絶叫が響き渡る。
声の主の片割れ、祐巳は立ったまま硬直、相方の由乃は腹部を抑え苦しげに。
「って、ナゼに由乃さんそのポーズ?」
「お約束というか、条件反射よ!」
語調は強めだが、ベタなボケだったせいか頬を赤らめたりしている由乃と、硬直から一転「そうなんだ〜へぇ〜」と納得顔の祐巳。
そんなツッコミ不在の漫才コンビの目の前には、爆弾…もといリリアン瓦版が置かれていた。
『 本誌独占! 』
『 白薔薇のつぼみ激白!! 』
『 お姉様は、はえていない!!! 』
『 黄薔薇の蕾は、はえている!!! 』
『 紅薔薇の蕾は、もっとはえている!!! 』
リリアン瓦版紙面の1/3を占める物騒な見出しに、武闘派一族の特攻隊長が暗い笑みを浮かべた。
「しっかし、真美さんもやってくれるわね。日出美ちゃんモノにして頭のネジでも緩んだのかしら?」
そしておもむろに竹刀を握ると「今夜は新月ね…でも、夜まで待てないかも」などとつぶやく。
「…由乃さん落ち着いて、目が怖いよ」
2人っきりの薔薇の館。暴走青信号の手綱は祐美に託されている。
(誰か助けてーぷり〜ず!)
「これは明らかな挑戦状よ!私達、ぶ〜とぅんスリーを貶める卑劣な策謀よ!!」
「なに?!その【ぶ〜とぅんスリー】って!もしかして私も入ってるの??!!」
今にも部屋を飛び出さん勢いの由乃を引き摺りつつ、今回はツッコミどころを外さなかった祐巳。
人間、窮地に落ちると真価を発揮するものであるw
「祐巳さんひどいわ!忘れてしまったの?!」
イケイケモードから一転、病弱な深窓の令嬢モードに変化した由乃が泣き崩れた。
「私と祐巳さんと志摩子さんで…」
「志摩子さんはブゥトンじゃないよ」
「……1年生の時…」
「ああ、1年生の時なら3人ともブゥトンよね」
「思い出してくれた?!天下を取ろうと誓ったあの夕日を!!」
「・・・(令様、影で「ヘタ令」と呼んでいた事を懺悔しますので、妹を引き取りに来て下さい)」
「生まれた日は違えども、死ぬ時は一緒に…って、おーい!祐巳さん?聞いてる??」
目の幅涙を流し、令への懺悔をする祐巳。
その祈りが通じたのか、ぶ〜とぅんスリー最後の1人(もとい)『はえていないお姉様』が降臨した。
「…ごきげんよう」
「「志摩子さん!!」」
最近、殊更にぽやぽや感が強まった志摩子に、魂を飛ばしていた祐巳がここぞとばかりにすがりつく。
「ううぅ…よかった……これで、ぶ〜とぅんスリー勢揃い…ぢゃなくて、天の助け〜…うっうぅ」
よほど、由乃とガチンコサシ漫談がつらかったのか、訳ワカメな言葉も漏れている。
先を越された相方由乃は、志摩子登場のフリーズが解けると同時に実も蓋もなく突撃決定。
「志摩子さん!はえてないって本当?!!!!」
おおよそ、リリアン女学園に似つかわしくない直球な台詞も、イケイケ青信号には無問題。
「ええ、本当よ」
TPO無視の突撃をあっさり肯定し、微笑みを浮かべる志摩子。
対照的に、いとも簡単に肯定され毒気を抜かれたように佇む由乃と、何時の間にか志摩子の元を離れ由乃にすがりついている祐巳…息ぴったりのコンビである。
「…ほら!こういうのって個人差があるし!」
「そうそう!それに、めずらしい事じゃないっていうのも聞いた事が有るような、無いような…」
そこはかとない沈黙と志摩子の微笑みに耐えかねた由乃と祐巳がフォロー自爆に走りかけた矢先、事の発端、情報リーク者、『はえていないお姉様の妹』が志摩子の背後からひょっこり現れた。
「「乃梨子ちゃん!!」」
「何気にデジャヴを感じる…と、そんな事より!私がはえてるって、どういう事!?」
「乃梨子ちゃん、私が由乃さんよりはえてるって、いつ比べたの?!」
それまでの守勢から一転、攻勢に出る由乃&祐巳。
勢いづき、詰め寄ろうとする2人を、乃梨子は無言のまま鞄から分厚い辞書を取り出し、突き付けた。
結局、志摩子さんはずっと微笑んでいた……
白薔薇姉妹のいなくなった薔薇の館で、由乃と祐巳は真っ白になっていた。
燃え尽きていたw
凶器になりそうなほど分厚い辞書。
先程、乃梨子が開き指し示した場所にはこう書かれていた。
≪は・える【映える・栄える】[動ア下一]は・ゆ[ヤ下二]≫
(栄える)りっぱに見える。目立つ。「逆」はえない
はえていない〔目立たない〕
「「 なんじゃコリャ〜〜〜〜〜!!!! 」」
本日2度目の絶叫が薔薇の館に木霊する。
声の主は両人ともお腹を押えていたとかいなかったとか…
※薔薇のミルフィーユの微妙なネタバレ?というか含みです。
「志摩子さんの言った通りでしたね」「ふふっ、あのかわら版を見た時の祐巳さんと由乃さんの行動ぐらいわかるわ、以心伝心、ぶ〜とぅんスリーよ♪」
「…なんですか?それ(汗」「乃梨子もそのうち分かるようになるわ。それにしても今回の記事には驚いたわ」
「ごめんなさい…志摩子さんに迷惑かけちゃったね」「迷惑だなんてそんな事はいいのよ、それよりも、私って乃梨子から見ても目立たないのかしら?」
「そんなことない!志摩子さんは私にとって一番だよ!!」「まぁ、嬉しいわ乃梨子。私も乃梨子が一番よ♪」
「(…赤) で、でもね、志摩子さんには私がいるけど、祐巳さんと由乃さんにはいないでしょ、だから…」
「つまり、妹のいない祐巳さんと由乃さんは、妹になれるかもしれない一年生に人気があるということ?」
「…うん、特に祐巳さまの人気がすごいの…本命の瞳子がいるのに」「乃梨子は一年生に人気の無い姉は嫌い?」「違う!…自慢したかったんだ…志摩子さんの事」
「まぁ」「日出美さんに志摩子さんの素敵なところを聞いてもらっているうちに取材みたいになっちゃって、でも、記事になれば志摩子さんの良さが皆に伝わるかなって…」
「それで、私が目立たないという見出しの割に、志摩子マンセーな内容になっているのねw」「マ、マンセーって…」
「安心なさい乃梨子。今は祐巳>由乃>私であっても、すぐに立場は逆転するわ」「えぇっと…志摩子さん??」
「紅薔薇家は沈滞ムード、ドリルゲットの暁には一年人気もガタ落ち!」「志摩子さん、キャラが…」
「黄薔薇家は下克上、菜々ちゃんパワーでよしのんヘタれるのは規定事項!!」「よしのんって…キャラ変わってますよ??志摩子さーん」
「そして誇り高く気高き白薔薇!」「ひゃい!そんな…いきなりどアップになられると……」
「もうすぐ、私自らはっちゃけるから楽しみにしていてね、乃梨子♪」「・・・いや、もう、十分はっちゃけてきているような…」
「「 なんじゃコリャ〜〜〜〜〜!!!! 」」
「…おふたりともようやく再起動したようですね」「羨ましいほどに息が合ってるわね」
「羨ましいかどうかは別にして、息はぴったりのコンビです」「乃梨子も色々見習うと良いわ」
「はぁ?」「来年は、あなたと瞳子ちゃんと菜々ちゃんでぶ〜とぅんスリー結成するのよ」
「……ロザリオ、返していいですか??」