【1709】 大いなる犠牲栄光の架け橋頂上決戦  (若杉奈留美 2006-07-21 00:29:16)


イニGシリーズ、ついにラストです。

【No:1675】→【No:1691】→【No:1700】→【No:1706】→今作。


某月某日、午後9時。
サラリーマンやOLがすべての勤めを終え、主婦たちが来るべき家族の明日のために
英気を養い、幼い子どもたちが夢を紡ぐこの時間に。

その3階建ての家の前には、異様に気合の入った少女たちが、特別な服に身を包み、
夜の闇の中に立っていた。

『今回のミッションは、福沢家におけるG・A連合軍撃破!
これが最後のミッションなり!皆個々の役割を完璧に果たせ!』
『ラジャー!』


その頃、G・A連合軍も総司令官のもとで気合を入れていた。

『今こそ地球の新参者軍団に、生命の序列を叩き込もうではないか!
各人最後まで気を抜くな!』

その体の大きさと攻撃力の強さを武器に、これまで人間たちを苦しめてきたG軍団。
体は小さいが、それを補って余りある機動力と緻密な戦略で、ミッションメンバーたちを迎え撃つA軍団。
昆虫界の種を超えた連合軍の意気は上昇するばかりであった。

今回A軍団は、G軍団との連合にあたり、もともと毒性のなかった自らの体に毒を帯び、その毒で自らが死なないように特殊な処理を施した。
つまり『キラーA』と化したのである。
団結力と緻密な戦略ではどの昆虫にもひけをとらないが、その体の小ささゆえに、下手をすれば掃除機の中に全員吸い込まれてしまう。
そこで彼らは、人間たちに何か怪しい動きがあれば体に帯びた毒を使うことで、Gに比べて決定的に足りない攻撃性を補ったのである。

『全軍出撃!』

頂上決戦が、今、始まった。


佐伯家での「残留の試練」を乗り越えた祐巳は、今やミッション最強の戦士になっていた。

「くらえ、殺虫ミスト!」
「うぐっ…なんの、これしき!」

高速で祐巳に向かって攻撃をしかけるGに一瞬ひるむが、間一髪身をかわし、

「ハイパー・エッセンシャル・ボール!」

あたりに充満する強烈なタイムの匂いが、殺虫剤の匂いと混在してたちまちのうちに
Gの息の根を止めた。

「ぎゃーっ!何すんのよ!」

隣では美咲が必死に体を払っている。
どうやら『キラーA』にやられたらしい。

「美咲ちゃん!大丈夫!?」
「大丈夫です…少しかまれただけですから」

美咲の皮膚にできる赤い斑点。

「涼子ちゃん!いったん美咲ちゃんを下がらせて!」
「了解!」

涼子に連れられ、美咲は退却した。
その間にも、GとAは連携プレーで人間を揺さぶる。
Gが人間をひきつけている間に、Aが人間にかみついて毒を注入する。
この毒は人が死ぬほどではないが、かまれれば赤くはれて水ぶくれなどの症状を引き起こす。
人によってはかゆみや痛みをともない、大きな戦力ダウンとなる。
Aはそれをねらってきたのだ。

「悪即斬!」

由乃が丸めた雑誌でGをたたきつぶそうとしていたが、Gも彼女の攻撃パターンを
見抜いていて、あっさりと逃げられてしまった。

「きーっ!なんてやつなの!?」
「台所用の洗剤はないかしら…場合によってはあれが効くこともあるのよね」

江利子が足元にいたGに洗剤をかけてみたが、どうやら洗剤にも耐性ができている
らしく、一瞬ひるんだだけだった。

「だめか…きゃっ!」

かかとの方まで注意がいかなかったのが災いして、Aにかみつかれてしまった。

「うわ〜、かゆいのか痛いのかわかんない…」

この毒はどうやら、一度かまれるとしぶとく症状が続く種類の毒らしい。
薬を探しに江利子はその場を離れた。
その後も、メンバーたちはGとAの連携攻撃に揺さぶられ続けて、疲れが見え始めている。

「ちょっと、そんなんでGが倒せると思ってるの!?」
「うるさいわよ、あなたは黙ってて!」

ついに仲間割れが始まってしまった。

「さすがAの女王ね…小競り合いを頻発させて相手を疲れさせるなんて」
「あら、一気に勝負をつけちゃったらつまらないでしょう?」

GとA、それぞれの女王が満足げに話している。
一方のミッションはかなり体力を消耗していて、今まともに戦えるのは祐巳とちあきくらいである。
しかし、そのちあきもついにやられるときがきた。
いつの間にか上ってきていたA軍団の別働隊に、手首を集中的に攻撃されたのだ。

「ぎゃ〜っ!痛い、痛い、助けて!」
「ちあきちゃん!」

あわてて退却するちあき。
こうなると、残るのは祐巳だけである。

「さあ、残すところあなただけね…」

傲慢きわまりない声でGが言う。
しかし祐巳は動じない。

「逆転サヨナラホームランってのもあるけど?」

取り出したのは、小さな三角形の塊。

「そんなもので何をするつもりなの?」

Aの女王があざ笑う。
祐巳はそれを無視して、その三角形の頂点に火をつけると、それを吹き消した。
あたりに漂うタイムとラベンダーの香り。

「ま、まさか、それは…」

祐巳は有無を言わさぬ笑みを向けた。

「ラベンダーって、意外に虫除けになるんだよねえ…」

思わず後ずさりする2匹の女王。
祐巳はなおも2匹を追い詰める。

「「待て!話せば分かる!」」
「分かってたらこんなに手間かけさせないでよね」

勢いを増す煙の中で、祐巳の呪文詠唱が始まった。

『今やこの戦いの勝利は我らにあり…願わくば、傷を負いし我らが兵を癒し、
我らに害なすものどもに天罰を!
Holy Incense Tornado (神聖薫香竜巻)!』

聖なる煙は勢いを増し、あっという間に竜巻となって2匹の女王とその軍団に襲い掛かった。

『栄光のG軍団、そしてA軍団、万歳!』

その一言だけを残し、昆虫連合軍は全滅した。
こうして、家にはびこる虫たちと人間との死闘は、終わった。


祐巳は誇りに満ちた笑顔をミッションのメンバーに向けた。

「我々の、完全勝利です」

窓から差し込む夜明けの光。

「見てください祐巳さま、日の出です!」

ちあきが窓の外を指差す。
そこには大きく輝く太陽が顔を出していた。

「すごいね…朝日って、こんなにきれいだったんだ…」

感動しているところへ、突然の異音。

「ぐぎゅるるるる〜」

それは祐巳のおなかから聞こえてきた。
それを耳にしたメンバーたちは一斉に笑い出す。

「や…なんで、こんなところで…」
「いや〜、祐巳ちゃん、最高!」

聖が祐巳の頭をグリグリとなでまわし。

「そういえばおなかがすきましたね…」

志摩子が納得し。

「じゃあ、朝ごはんにしましょうか。皆さん、リクエストは?」

ちあきが冷蔵庫を開ける。

「はいはい、私、トーストに目玉焼き!」
「炊きたてごはんにお味噌汁がいいですわ」
「コーンフレークどこ?」

にぎやかで平穏な一日が、始まろうとしていた。

















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