【1722】 ひらめけ超がんばる涙が飛び散る夜に  (砂森 月 2006-07-26 09:27:27)


※未使用キー限定タイトル1発決めキャンペーン第3弾
 この作品はがちゃSレイニーシリーズのBADルート
 ROM人さまの【No:622】笑えない明日の
 瞳子サイドの話(シリーズ作品)……の予定です
 (ひょっとしたら展開を変えるかもしれません)
 オリキャラが結構出ます
 (別の言い方すると自作短編?オリジナルとのクロスとも……)



 それはきっと偶然だったんだって、普通に考えればそうなんだろうけれど。
 きっとあの2人が導いてくれたんだって、私は今でも思ってる。



「ここがいいでしょうね……」
 気がついたら見知らぬ街に来ていた。
 乃梨子さんへロザリオと置き手紙だけを残し、私はあてもなく電車を乗り継いできた。
 財布の中身はもう使い果たした。夕食はとっていない。それはもう私には必要のないものだから。
「全く、誰も彼も私の気も知らずに……」
 こと祐巳さまとのことになるとやたらと余計な世話を焼いてきた乃梨子さん。私の事を思ってだろうがとんでもないお節介を焼いてくれた白薔薇さま。そして、祐巳さま。
 こんな私にさえ無防備に近付いて懐にまで遠慮無しに入ってくるのに、私からは近づけさせてくれない。
 そりゃ、私の自業自得だって言われたらそれはそう。だからって、あれはないと思う。でも、あの人達が決して悪いというわけじゃないから。だから、何かが間違っていたとしたらそれはきっと私の存在なのだろう。
 すっかり日の落ちた崖の上から海を見下ろす。海沿いの山道を辿ったのはきっと正解だったのだ。

 間違いなら、修正しないと。
 間違った存在なら、消えてしまわないと。


 月に一度、月華さんの車に乗って洋子ちゃんと一緒にあの場所へ向かう。手には真紅の薔薇。洋子ちゃんと私で一輪ずつ。
 あの日から毎月行っている、それは儀式のようなものだった。

 いつもの崖は、いつものように風が強くて。滅多に人の来る事のないその場所に、その日は先客がいた。
 木々や草のざわめきに、足元からは冬の海の波音。その音に混ざって聞こえるはずのない声が聞こえたから。だから私は薔薇を月華さんに押しつけて、気付かれない程度に急いでその子に近付いて、抱きつくようにしながら後ろに全体重をかけた。
「きゃっ。な、何?」
 その子は驚いた様子でそう言った。
 ここは一見人が全然こなさそうで、実際そうだからだろうけれど。でも私は答えない。すぐには言葉が浮かばなかったから。
「珍しいね、小夜ちゃんが女の子襲うなんて」
「そうですね。麻夜お姉さんならまだ分かりますが」
 月華さん、怪しい事を言わないで下さい。それに洋子ちゃん、麻夜お姉さんが聞いたら泣くよ? 確かにあの人よくナンパしてるけど。
「2人とも、冗談はよして下さい。それと月華さん、少しの間この子の事見ていてもらえますか?」
「いいよ。先に済ませるのね?」
「そういうことです」
 心なしか声が少し冷たくなっている事を自覚しつつ、抱き留めていた女の子を月華さんに預ける。女の子の事も気になるし、だからこそ先に儀式を終わらせないと。


「小夜、大丈夫?」
「うん」
 小夜が突然走り出したのには驚いたけれど、その理由はすぐに分かった。月華さんと2人でおどけて見せたけど、その時の返事の冷たさが何よりの証拠だ。普段の小夜なら、あんな返し方はしない。
「……どうしたら、いいのかな?」
「あの子?」
「うん。放ってはおけないけど、難しそうだから」
 小夜のその問いに、私は答えられなかった。だってそれは、昔は叶わなかった事。あの時は、見つけた時には手遅れだったから。今回はきっとその手前だったけれども、じゃあこれからどうすればいいかなんて、少なくとも私には分からなかった。それに何より、及ばなかったときのことが、怖かった。
「絢ちゃん、雅也くん……お願い……」
 小夜は泣いていた。崖の突端で正座した状態から胸に抱いていた薔薇を解き放ちながら、ほとんど言葉になっていないその呟きは、私の胸の奥にも深く響き渡った。


「あの2人は何をなさっているんですか?」
 苛立ちと諦念の混ざった声で、月華さんと呼ばれていた女性に尋ねる。
「そうね……秘密の儀式、かな?」
「秘密の儀式、ですか」
「そう、秘密の儀式」
 その2人はというと、しゃがみこんでしばらく海を眺めた後、立ち上がって戻ってきた。暗いし後ろ姿しか見えないものだから、何をしていたのかは全く分からない。
「何をなさってたんですか?」
「贈り物」
「は?」
 だから戻ってきた2人に訊ねたけれど、小夜と呼ばれていた人は意味不明の答えを返してきた。何故、こんな崖から贈り物を?
「薔薇を一輪ずつ」
「いや、誰に?」
 薔薇という言葉が胸にチクリとトゲを刺すけれど、そんなことは表情には出さない。
「絢ちゃんと雅也くん」
「……訳が分からないんですけど?」
「もっと詳しく知りたかったら一緒にお泊まりね」
「い、いえそれは結構ですわ」
「それでも一緒にお泊まり」
「な、なんですか? 新手の誘拐ですか?」
「別にそれでもいいけど?」
「私は嫌です。ちょっと、そこのお2人も何か言って下さい」
「私も小夜と同意見なのよね。月華さん、いいですか?」
「私も構わないよ」
「ね、洋子ちゃんも月華さんもいいって言ってるし」
「私はよくありません」
「それでもお泊まり。何か放っておけないし……それにこれ以上この場所で……嫌なのよね……」
「えっ?」
 何故か話が変な方向に行って、結局はこの人達もお節介焼きなのですねと思ったのだけれど。
「あっ、気にしないで。何でもないから……」
 よく聞こえなかった後半が気になって顔を上げた時の小夜さんの表情は、決して何でもない事はないことを物語っていたから。
 仕方ない。こうなったら少しだけ付き合う事にしよう。きっと何を言っても連れて行かれるのだろうから。それにしても……。
「本当に、上手く行かないものですね……」
「ん? 何か言った?」
「いえ、別に」
 やっぱり私は、そう呟かずにはいられなかった。



(続く)


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