【173】 血潮に煙る白薔薇  (篠原 2005-07-06 18:48:18)


 目の前に、血の海の中ひとり佇む志摩子さんの姿があった。
 もし志摩子さんの身に何かあったらという不安、無事だったという安堵、そして一瞬おぼえた畏敬にも似た想い。それらがないまぜになって、『鉄壁』と呼ばれる乃梨子の身を震わせた。
 リリアン新撰組 一番隊組長 藤堂志摩子。
 純然たる白、慈母志摩子などと呼ばれる一方で、白の中の黒、ウサ・ギガンティア、天然、白薔薇の志摩子等、幾多の異名を持つ少女。変なのも混じってるけど気にしない。それくらい、リリアンでは知らぬ者とてない有名人である。

 後に「花寺事変」と呼ばれることになるこの大事件は、リリアン新撰組とそれに参加した生徒の名を世に知らしめることにもなった。
 想定していなかった少数部隊による強襲という形でこの戦闘が始まった時、別働隊として動いていた乃梨子はそれと気付いて激しい焦りを感じながら現場へ急行した。志摩子さんの盾を自認する乃梨子にとって、この大事に側にいないのは痛恨の極みだった。
 増援が駆けつけた時には、事態はほぼ収束していた。遅れて来た者達はその場を見て一様に言葉を失うことになる。一人で裏口をおさえていた彼女は、唯の一人もそこからの脱出を許さなかった。
 その結果を、今、乃梨子は目にしていた。目が離せなかった。これを志摩子さんが一人でやったのか。死屍累々、屍山血河、そんな言葉が脳裏をめぐる。
 そしてそんな中にあってさえ、その姿はどこまでも白く、美しかった。
 何よりも人々を驚かせ、そして畏れさせたのは、これだけの血の海の只中にあって、その白いコートは返り血ひとつ浴びずに純白のままだったというその事実。
 それゆえに。人は彼女をこう呼ぶことになる。曰く、『戦慄の白』と。


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