注:)このSSには独自設定が入っております。苦手な方はLet'sスルー。
ある日の放課後、鞄に教科書やノートを詰め込む乃梨子さんに声をかけました。
「乃梨子さん、今日はどうなさいますの?」
「どうって、薔薇の館に……あ、今日はないんだっけ?」
祐巳さまは風邪で、黄薔薇様と由乃さまは親戚に不幸があったとのことでご一緒にお休みとのこと。
祥子お姉さまも本日はご用事があるとのことですので、本日は特に予定はないのでした。
「もし予定がないのでしたら、ミルクホールでお話いたしませんか?」
「OK、いいよ」
「うふふふふ。実は前々から共学の学校に興味がありましたの」
「あ〜……でもわたしの中学も結構特殊だったし……あ、そうだ」
何か思いついたように呟くと、乃梨子さんは教室の奥へと歩いていきました。
「可南子さん」
「乃梨子さん、なにかご用?」
「瞳子がさ、共学の学校の話聞きたいらしくて。ミルクホールで、どう?」
「いいわよ。今日は部活もないし」
「ああ、そうか。体育館使用禁止だっけ」
「ええ。今話題のアスb「OK、そこでストップ」」
そこまで話して、こちらに顔を向けます乃梨子さん。
「ということで、いいかな?三人で」
「ええ、構いませんわ」
言葉は悪いですけどサンプルが増えるのはありがたいことですし。
ただ、この三人で歩いていると人目を引くのが厄介なのですけど。
「……?」
「どうかしたの?乃梨子さん」
怪訝そうな顔を廊下のほうに向ける乃梨子さんに、可南子さんが声をかけました。
「いや……なんか、騒がしくない?」
「言われてみれば……そうですわね」
私たちはまだ扉の閉まった教室内にいるというのに、廊下で騒ぐ黄色い声が耳に届きます。
「なんだろう……可南子さん、瞳子、なんかやった?」
「どうして私たちなんですの」
「むしろ騒がれるのは乃梨子さんでしょう。白薔薇の蕾ですから」
ですが、今更乃梨子さんが騒がれるというのも時期外れですわね。
首を傾げつつ教室の扉を開けると、そこでは十数人の方達が騒いでいらっしゃいました。
所々から聞こえる『あの方』や『素敵な方』という言葉から、
特定の誰かのお話をしているのだと思うのですけど……
ああ、ダメ!!気になりますわ!!
「私、聞いてまいりますわ」
「待った。私たちもいくよ」
乃梨子さんと可南子さんを背後に従えて廊下の集団に歩み寄ります。
「どうかなさいましたの?」
「まあ、瞳子さん!今、校門前にとても素敵な男性がおられるそうなんですの!」
素敵な男性……?優お兄様かしら?
「赤い大きなバイクに寄りかかって、タバコをこう横ぐわえになさって……」
「少々ワイルドな印象でしたけどそこが魅力的なんです!!」
「金髪の似合う男性って、いるものなのですね……」
「いつぞやの王子様も素敵でしたけど、あの方も劣らずでしたわ〜!」
なんというか、すごい騒ぎですわ。
というか、優お兄様ではないようですわね。
「誰か人をお待ちになられているようでしたわね」
「ああ、一体どなたなのかしら、あの方の待ち人というのは……」
そんなに素敵なのでしょうか?
ちょっと興味が沸いてきましたわね。
「瞳子、そろそろいい?」
「乃梨子さん」
「……ちょっと。そのキラキラした目はなに?」
ちょっと気圧されたかのように背筋を反らす乃梨子さん。
そんなにキラキラしていたのでしょうか?
「ほら、ミルクホール行くよ」
そう言うと、乃梨子さんは私の手首をつかんで歩き出しました。
「ちょ、ちょっと乃梨子さん?噂の男性は見に行かれませんの?」
「興味ないし。可南子さんは?」
「私もあまり。元々男性は気にならないから」
「2対1。はい、ミルクホール行くよ」
私の手首をつかんだままズンズンと進んでゆく乃梨子さん。
「ただ……」
「?」
可南子さんの呟きに、乃梨子さんの足が止まりました。
私の腕は掴まれたままですけれど。
「乃梨子さん、あなた噂の男性に心当たりがあるんじゃない?」
「………」
「黙り込むということはビンゴ、かしら」
「Hahahahaha、ナニヲ根拠ニソンナコトヲ」
「口調がアメリカ人みたいになってますわよ」
「しかもエセっぽいわね」
乃梨子さんの表情はやたらいい笑顔でしたけど。
なにもこんなところで輝く笑顔をみせなくてもいいでしょうに。
「大体、どうしてそう思うの?」
「なんとなく。無理に瞳子さんを引っ張っていこうとしてるように見えたし」
「気のせいだって」
「そうとは思えなかったけど……」
まあいいか、と呟いて再び歩き出す可南子さん。
どうしてそこでもっと食いつかないんですの!!
と、心の中で憤っていると。
「白薔薇の蕾!」
数人の同学年の方達がパタパタと走ってきます。
「校門で、彼氏と名乗る男性がお待ちです!!」
「バフーーーーーーッッッ!!!!!」
乃梨子さんがものすごい勢いで噴き出しました。
何か液体を口に含んでいれば、それはもう見事な虹ができただろうと思われます。
「乃梨子さん……」
「やはり心当たりがあったんですわね?」
「いや……まあそうなんだけど……」
珍しくしどろもどろになっているようですわね。
ここは一つ、可南子さんにアイコンタクトを。
「乃梨子さんの彼氏さんでしたら是非ともご挨拶をしなくては。ねえ可南子さん?(キュピ〜ン)」
「そうですね、まいりましょうか瞳子さん(キュピ〜ン)」
アイコンタクト成功ですわね。
「賛成2、よって可決ですわね」
「それじゃあいきましょうか、ミルクホールではなく校門に」
私と可南子さんが乃梨子さんの腕を取ろうと手を伸ばすと、
「う……」
サッ、と乃梨子さんはその手をかわし、
「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
雄叫びを上げつつ、玄関に向かって猛然と走り出したのでした。
ってのんきに実況している場合ではありませんわ!!
「追いましょう、可南子さん!!」
「ええ!!」
お互いに頷くが早いか、私と可南子さんは走り出しました。
スカートのプリーツは乱さないように、
白いセーラーカラーは翻らせないようにゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
ですが、今だけはそれすら忘れてひたすら乃梨子さんを追うのでした。
だって……
こんな面白そうなこと放っておけないではありませんか!!
〜続〜