このお話は
【No:123】 間違いだらけのマナー&テクニック (作者:柊雅史さま)
の続きです。未読の方はそちらを先にどうぞ。
「それでは第二回『瞳子と上手に付き合う講座』を始めさせて頂きます。講師は前回に引き続き、二条乃梨子がつとめます」
「おおー」
ぱちぱちぱち、と拍手をして下さるのは前回と同様、紅薔薇のつぼみこと福沢祐巳さま。
薔薇の館二階で行われる講習会の受講者は、相変わらず祐巳さまただお一人。
「さて前回は『バックアタック』、『サイドアタック』、『フェイント』等の手法をご紹介したわけですが、その成果はいかがでしたか」
「ことごとくはね返されちゃったよ」
「そうですね。しかし実はそれでいいのです。敢えて言えば祐巳さまの受け取り方にこそ問題があるのです」
「受け取り方に問題……?」
「例えば祐巳さまがバックアタックを敢行した際の瞳子のリアクションはどうでしたか?」
「鬼のように怒ってたよ。真っ赤になって湯気まで出して」
「ポイントはそこです。瞳子は自他共に認める演劇部のホープ。本心を偽り表面を取り繕うことなど朝飯前です。ところが祐巳さまのバックアタックに対するリアクションは演技ではなく、自然な感情の発露です。ガラスの仮面がまさに砕け散った瞬間なのです。これは前回ご説明したツンデレの内、『ツン』の極大値にあたります」
乃梨子はホワイトボードに『ガラスの仮面(白目)』と書いて、その上から大きくバツを打った。
「はあ〜、そうだったんだぁ。でも白目って何?」
「気にする必要はありません。ただのお約束です。話を元に戻しますと、見方を変えれば既に祐巳さまは瞳子の魅力を充分に味わっているわけです。ところで祐巳さま。『萌え』というのをご存じですか?」
「も、もえ?」
「『萌え』に対する解釈は諸説入り乱れ未だ定まらぬ状態ですが、萌え作家として名高います(ピー)先生の説によれば、『その子の意外な一面を発見する』ことだそうです。(No.121コメント欄参照)」
「それってつまり、怒った瞳子ちゃんを味わうのは『萌え』ってこと?」
「その通り。『ツン』も『デレ』も究極的には『萌え』に帰するのです。すなわち『ツンデレ』に『萌え』ることこそ正しい瞳子とのつき合い方なのです!」
「お、おおー!」
ぱちぱちぱち、と祐巳さまがスタンディングオベーションしてくれる。
「凄いよ、乃梨子ちゃん!私間違ってた。もう一度頑張ってみる!」
「はい。何事も実践あるのみです!」
かくして第二回『瞳子と上手に付き合う講座』は盛況の内に幕を閉じた。
――そして、数日。
「乃梨子ちゃん♪」
「はい、なんですか?」
「今日も萌えたよ。背後から襲い掛かったら、瞳子ちゃんすっごい怒ってね。瞳子ちゃん萌えー♪」
「そうですか。よかったですね。でも『ツン』だけではまだまだです。『デレ』を味わってこそ真に『萌え』を極めたと言えるのです」
「――な、なるほど……さすが、乃梨子ちゃん」
かくして『瞳子と上手に付き合う講座』は、図らずも第三回を迎えるのだった。
ちなみにこの講座は、本当に「間違いだらけ」ではないといえるのかと、ふと脳裏をよぎったが、祐巳さまには黙っていた。