【1779】 ちょークロスオーバー月刊  (クゥ〜 2006-08-12 23:15:12)


 「ねぇ、なんだか変な音しなかった?」
 由乃はフッと物音がしたように感じて顔を上げる。
 部屋にうっかり置いてきたケーキを思い出していたとき、下の方から物音が聞こえてきたように感じた。
 今日は日曜を返上して、時期薔薇さまの確定した三人。祐巳さん、志摩子さんに由乃で迫ってきた三年生の卒業式もことを話し合っていたのだ。
 「なにも音はしなかったと思うけど?」
 「そうね、私も聞いていないわ」
 祐巳さんと志摩子さんはお互いに顔を見合わせて、由乃を見る。
 「確かにしたわよ!!」
 由乃はそこで「そうか」と頷けばよかったのだが、ついムキに成ってしまった。
 近づいてきた令ちゃんと祥子さまとの別れを感じて少し嫌に成っていたせいかも知れない。
 由乃は立ち上がり、音がしたと思われる一階に向かう。
 「ちょ、ちょっと由乃さん!?」
 由乃の行動に、慌てた祐巳さんが着いてくる。
 その後ろからは志摩子さん。
 それが少し由乃には嬉しい。
 一階に下りた由乃は、音が聞こえたと思った一階の倉庫と成っている部屋の扉を開いた。

 ――ズッゾゾゾゾゾゾ!!!!!!!!

 廊下を照らすステンドグラスからの光が部屋に差し込んだ瞬間。
 真っ暗だった部屋の黒い闇がいっせいに動き出し、向かってきた。
 「ひっぎゃぁぁぁぁ!!!!!」
 「おぉぉぉぉぉ!!!」
 「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
 三人三様でいっせいに悲鳴を上げ。
 真っ黒いそれに飲み込まれ、志摩子さんは気を失い。
 祐巳さんは逃げ出し。
 由乃は固まった。
 そして、黒い何かはすぐにいなくなった。
 「な、なんなのよ」
 「うっわ〜、まっくろクロスけだぁ」
 「なに?知っているの、祐巳さん」
 ゆっくりと祐巳さんを見ると、祐巳さんは少し疲れた表情でチョイチョイと倒れている志摩子さんを指差した。
 「なに?」
 祐巳さんから志摩子さんに視線を移す。
 「うっひゃ!!」
 そこには制服から顔、髪まで真っ黒に成った志摩子さんが倒れていた。
 慌てて由乃は自分も見てみるが、やっぱり志摩子さん同様に真っ黒だった。
 「なによコレ!!!!!!」
 「だから、まっくろクロスけだって」
 「なに、そのまっくろくろすけって……」
 「違うよ、まっくろクロスけ……クロスはカタカナ、後はひらがな。本当はマックロクロスケなんだけど、タイトルとの因果関係を考えてね」
 「親父ギャグかい!!」
 思わず、祐巳さんにツッコミをいれる。
 「それでまっくろクロスけってなに?」
 ようやく肝心なことが聞ける。
 「え〜と、私もお婆ちゃんのところで一度しか見たことなんだけど、空き家とか古い屋敷とかにいる煤の妖怪らしいよ」
 「なんでそんなものがここにいるのよ」
 「薔薇の館が古いからじゃない?」
 確かにそうかもしれないが、それだけなのだろうか?
 そう思って、まっくろクロスけのいなくなった部屋を見て、由乃は再び固まった。
 なんだか変な二足歩行の生き物が中から出てきたからだ。
 それは小さいのと少し大きい生き物だった。
 白い方は小さく。
 少し大きいのは青い色をしている。
 見れば祐巳さんがこの上なく嬉しそうに見ている。どうやら正体を知っているらしく、由乃の方を見て指を色つきのリップクリームのせいか桃色に艶めく唇にあて静かにと言っている。
 不思議なその生き物は祐巳さんの前を過ぎ、ドアをすり抜けて行った。
 当然、すぐさま後を追う。
 「なに、あれ」
 「小トトロと中トトロ」
 薔薇の館から小トトロと中トトロの後を着いて行く。
 「なんでこんな所にいるのかな?」
 正体を知っている祐巳さんが呟くが、そんなこと正体も知らなかった由乃に分かるはずがない。
 「ねぇ、なんでかな?」
 「そんなの知らないわよ!!」
 祐巳さんが楽しそうに聞くものだからつい声を出してしまった。
 祐巳さんが固まる。
 小トトロと中トトロが毛を逆立ててこちらを見ている。
 「しまった!!」
 小トトロと中トトロが逃げ出し、祐巳さんがその後を追い。由乃も急いで続く。
 小トトロと中トトロはそのまま茂みへと入って行き、祐巳さんも後を追って突っ込んでいく。
 由乃も少し躊躇しながら茂みに入るとそこは茂みのトンネルだった。
 「す、凄い」
 由乃は思わず感動してしまう。
 「うわぁ、ここ何?」
 「妖精の道、この先にアレがいるはず」
 「アレ?」
 そう言って突き進む祐巳さんを追って、由乃も走る。
 何がこの先にいるというのだろう?
 「ねぇ、なにが……」
 何がいるのか聞こうとした瞬間。前を走っていた祐巳さんが突然避けた。
 当然、勢いがついて止まれない由乃はそのまま祐巳さんの横を抜け飛び出した。
 そこは広い空間だった。
 余りの出来事に長い滞空時間を感じながら下を見れば巨大な口が開いている。
 「く、食われるぅぅ!!!!!!」
 由乃は叫ぶ。
 視界の片隅に手を振って笑っている祐巳さんが居た。
 「い!やぁぁぁぁ!!!!」
 巨大な口にそのまま由乃は飲み込まれていった。





 「うわぁぁぁぁ!!!!!!」
 由乃は叫びながらガバッと起き上がる。
 「ど、どうしたの由乃さん!?」
 「あら、起きたみたいね」
 何がどうなったか分からないまま周囲を見渡すとそこは薔薇の館の二階だった。
 目の前には笑っている祐巳さんと志摩子さん。
 「……」
 「寝ていたよ、由乃さん」
 祐巳さんと志摩子さんをジッと見つめると、どうやら意味を理解したらしい祐巳さんが答えてくれた。
 「そう……」
 由乃は真っ赤に成って俯くしかなかった。
 は、恥ずかしい!!
 「それでは由乃さんも起きたことだし帰りましょうか」
 「そうだね」
 祐巳さんと志摩子さんが連れ立って席から立ったので、由乃も後に続いて二階の部屋を出る。
 「わぁ〜」
 薔薇の館を出ると夕焼けが綺麗だった。
 深海と化した旧花寺の山も綺麗に夕日に染まり、その空を飛ぶ蟲たちも優雅に見えた。
 三人で並んで祐巳に染まる銀杏並木を歩いていく。
 「急がないとバスが来てしまうわ」
 志摩子さんが珍しく先頭に立ち、少し駆け足に成った。
 二人はバス通。
 由乃は令ちゃんのいなくなった道を一人でこれからは登校して来なければならない。それを考えるとかなり寂しい。
 由乃と令ちゃんは長いこと一緒に登下校を続けてきた。
 由乃が体調が悪かったときや令ちゃんの部活の朝練など、今までも一人で登校した時はあったものの、これからの一人での登校とは意味が違う。
 「あっ、バスが着たわ」
 志摩子さんの言葉に此処までかと少し寂しく顔を上げた由乃は固まった。
 「……バ、バス?」
 そこにいた……あったではない……のは、明らかに足が多い巨大な黄色い猫だった。
 「なに?こいつ」
 「何って、由乃さん知らなかったの?ネコバスだよ」
 「ネコバス……ひぃぃぃ!!」
 ネコバスはニィィと笑い、大きな目で由乃を見た。
 「もう、由乃さんたらそんな風に驚いたら可哀想だよ」
 「そうね、失礼だわ」
 祐巳さんと志摩子さんに怒られながら由乃はネコバスを見て、逃げようと思った。
 「そ、それじゃね」
 祐巳さんと志摩子さんに手を振りながら後ずさろうとしたとき、ネコバスの横がミョ〜ンと開き。

 それが降りてきた。

 「ひぃぃぃぃ!!!!」
 それは夢で出てきた巨大な生き物だった。
 「あっ、トトロさん、ごきげんよう」
 「ごきげんよう、トトロ」
 祐巳さんと志摩子さんが普通に挨拶している。
 トトロと呼ばれたそれは、不釣合いな小さな黒い傘を差し、祐巳さんと志摩子さんに小さく会釈する。
 祐巳さんと志摩子さんはトトロと入れ替わるようにネコバスに乗り込み。
 「それじゃ、由乃さん」
 「ごきげんよう」
 トトロは何故か由乃の横に立ち、一緒にネコバスに乗った二人を見送った。ネコバスは土煙と風を起し猛スピードで駆け抜けていった。
 由乃はトトロと残され、そっとトトロを見る。
 「ひっ!!」
 トトロと目が合ってしまった。
 トトロはニッカと笑っている。
 「あは、あははは、ご、ごきげんよう」
 祐巳さんたちを真似、挨拶してみる。
 トトロは更に目を見開いて笑っていた。
 「そ、それじゃ、私帰らないといけないから」
 ソロソロとトトロから離れようとすると、トトロは笑ったまま傘を持っていないほうの手で自分のお腹を指差す。
 「……?」
 意味が分からないおかげでただ立っていた。
 「掴まれと言っているみたいですが」
 不意に後ろから知っている声がしたので振り返る。
 「菜々!?」
 「ごきげんよう、由乃さま、トトロ」
 「菜々、トトロを知っているの?」
 菜々までごく普通にトトロに挨拶するので、由乃は驚いてしまう。
 「えぇ、知っていますよ。だってバスネコをリリアンに提供してくださった方ですし……て、由乃さま知らなかったとか?」
 「えっ……も、勿論知っていたわよ!!あははは」
 菜々の手前、知らないと素直にいえなかった。
 「それでは一緒に行きましょうか」
 「えっ?」
 そう言うと菜々は『わっし』とトトロのお腹にしがみつく。
 「さぁ、由乃さまも早く、トトロが家まで送っていってくれるそうですから」
 「えっ?えぇ」
 菜々に言われ、由乃も恐る恐るトトロにしがみつく。こうしていると本当に大きく少し怖いが、何だか少し安心もする。
 トトロは何所からかコマを取り出し、菜々と由乃を抱えたままコマの上に『ひょい』と乗った。
 何がこれから起こるのかわからないが、意外な器用さに感心する。
 トトロがまた笑った。
 瞬間。
 「わっひぃぃぃぃぃ!!!!!!」
 トトロは飛んだ。
 何かが起こるだろうとは思っていたが飛ぶとは思っていなかったため、由乃は悲鳴を上げた。まぁ、当然だろう。
 飛んでいるのにシートベルトもないのだ。
 頼れるのは部活で鍛えた……始めた自分の細腕だけだ。
 横にいる菜々は楽しんでいるようだが、由乃にその余裕は最後までなかった。




 「はぁ、つ、疲れた」
 由乃はトトロに家まで送ってもらったが、そのままフラフラと家に戻る。後ろで菜々の声が聞こえていたが、限界だった。
 そのまま自分の部屋に入ろうとして真っ暗な部屋の電気を点けた。

 ――ズッゾゾゾゾゾゾ!!!!!!!!

 明るく成ったはずの部屋の中を黒いモノが動いたいた。
 「ま!!まっくろクロスけ?!」
 と、思った。
 が……それは……。
 ……。
 ……。
 


 ……G。






 うだ。
 世界的有名某アニメのクロス第三弾。
 久々のSSがコレとは……楽しんでもらえたら嬉しいです。
                               『クゥ〜』


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