卒業旅行 第3話
宿泊先のホテルのチェックインは午後2時から、下田駅からそのホテルまでがバスで45分くらい掛かるんだそうだ。
宿泊先手配の担当は祐巳さんだった、ダミー情報でペンションと民宿の資料を見せられたけど、裏でこの事態を考えていたのなら宿泊先は違うはず。 何せ祐巳さんと志摩子さんの分の宿泊代+私の宿泊代で、私一人の2日分の宿泊料金に充てているらしいことを言っていたしね。
私はチケットを受け取っていない。 案の定担当者の姉弟、祐麒君のカバンの中からチケットは見つかった。
1泊目、大沢温泉ホテル。 2泊目、土肥湯の花亭。
下田駅で荷物をコインロッカーに入れてから、駅の近く一箇所だけ寄っていく事にした。
「だいぶ上がってきたね。 建物が小さく見えるよ」
「たしか200mって聞いたけど、結構高く感じるな〜」
「わかっててもなんか斜面にぶつかりそうで怖い〜〜」
山頂の展望台を目指して、寝姿山ロープウェイに乗っているんだけど、上に昇っていくにしたがって風が出てきたのか少し揺れている、ちなみにこの便に乗っているのは私達2人と、4歳と1歳くらいのお子さんを連れた家族連れ、それから老夫婦が2組。
お母さんに抱っこされている1歳くらいの子と目があったので、つい笑いかける、なかなか愛想のいい子なのか手を振ってくれるので手を振り返したり、ちょっとしたコミュニケーションを取っていると、お母さんが気がついた「あら、よかったわね〜」なんて言いながら会釈してくれる。 老夫婦もなんかニコニコしながら見てる。
和やかな雰囲気のままロープウェイは山頂駅に到着した。
「右から大島、利島、鵜渡根島・・・・見える? で、新島、三宅島、御蔵島、式根島、神津島・・・・わかる?」
「・・・・・一個多いように見えるけど・・・・? なんで?」
「え? ・・・・・・・ああ、新島が二つに分かれたように見えるんだよ」
山頂駅は、お土産屋が主体? お土産屋はスルーして屋外の第一展望台へと出る。 『伊豆七島及び下田湾案内図』と言う、なんか”取り合えず作りました”というような、いまどき手書きと言うチープな看板を見ながら、一緒に島を数えてみたりする。 今日は空気が澄んでいるようで遠くまで良く見える。
「あ、遊覧船だ」
「え? どこどこ?」
「ほら、湾内の島のちょっと手前、帆船みたいな船だよ」
「ぅあ〜、なんかびみょ〜な船ね、もう少し帆船よりに作ればよかったのに」
「芦ノ湖の遊覧船みたいに?」
「だってあれ、黒船をモデルにしているんでしょ? もっと思い切ればよかったのに。 あれなんだろ? なんかすごく早い船が来てる」
「ん? なんかどこかに書いてあったような・・・・・あ、テクノスーパーライナー。 清水港から下田までの定期便。 カーフェリーだよあれ」
「うそ、すごく早くない?」
こんなことを言っている間にも見る見るうちに近づいてくるそのカーフェリー、最高速度70kmだとか。 湾内で減速をして、やがて展望台からは手前に山があって見えな所にあるらしい発着場へ姿を消した。
「なんかいろいろ見られて得した気分」
「散策コースがあるらしいよ。 まだ時間もあるし、行って見る?」
「うん!!」
パンフレットを持っている祐麒君と腕を組んで歩き出す。
展望台のすぐ近くの『運だめし』と言う名前の立ち木で作られた迷路で少し迷ったり。 そのあと第二展望台から、日本最初のアメリカ領事館『玉泉寺』を見たり、さっきのテクノスーパーライナー”希望”の発着場を見たりした。
第三展望台の先に、愛染明王堂と言うのがあった。 ここが散策コースの一番奥らしい。 黒い瓦に真っ赤な柱、白い壁に緑の戸板・・・・・神社仏閣で原色が使われていると有難味が無くなる様な気がするのは私だけだろうか?
「乃梨子ちゃんはなんて言うかなぁ〜、ここのことは」
「乃梨子ちゃん? あ〜、あのおかっぱで仏像好きの娘」
「なに?興味あるの?」
ちょっと睨んで見るけど、動じる気配なし。 あ、でも、ちょっと苦笑してる。
「リリアンにしては珍しい趣味だからね、でも印象はそのくらいかな?」
お堂に近づいて中を覗いたりする。 私には仏像の違いなんか分からない。 由来が書いてある看板を見つけたので見てみると・・・・・・。
「ねえ、私はここで手を合わせるべきなのかな?」
「縁結びの明王様みたいだから、良いんじゃないのかな?」
「一応卒業したとは言えリリアンはカトリックだし。 何より七、八、九が気になるんだけど」
「七、八、九?」
こう書いてあります。 どうする私?!
七、子孫の繁栄と家運の増長を守る
八、女人には愛を与えて良縁を結ばしめ善児を授ける
九、臨産の苦を免れしめ所生子には福徳愛嬌を授ける