【1783】 今はこれが精一杯・・  (琴吹 邑 2006-08-13 10:39:28)


まりおね第4話―――このお話はまりみて×ONEのクロスオーバ作品のつもりです。

【No:1524】−【No:1718】−【No:1719】



 運転手以外誰も乗っていないバスに乗り、駅へとむかう。窓際に座った私は、蓉子に構われたくないので、すぐに、視線を窓の外へとやった。
 今日は道路が空いているのか、ぶんぶんと対向車線の車が通り過ぎていく。
 少し離れた歩道には、公園にでも遊びに行くのか、5歳くらいの男の子と3歳くらいの女の子が手をつないで歩いてた。
 もしかしたら、彼女たちは小さな大冒険中なのかもしれない。
 そんな二人を私は自分と栞に重ねた。
 私はあの小さな冒険家たちのように栞と冒険にでたかった、窮屈な今を飛び出し、二人きりの未来を目指したかっただけなのに。

 ただそれだけなのに。


 やがてバスは、あっという間そんな探検家たちをに追い越し駅へと向かう。


 バスから降りて集合場所に着くと、そこにお姉さま方がいなかった。
 時計を見ると少し早くついたようで30分前だ。
「まだ来ていないわね」
 まあ、時間も早いし、当然だという口調で、蓉子がそう言う。
 私はそれを聞いて、何も言わずに歩き出した。
「ちょっと。聖、どこ行くの?」
 それに答えず、そして速度もゆるめずに私は歩く。
 向かう先は、ファーストフード。
 お姉さま方を待つとはいえ、わざわざ30分も寒い中で待つことはない。
 そう思ったとき、ふと、脳裏にあの日の蓉子が目に浮かんだ。

 店の前で、純粋に私を心配しじっと遠くを見つめ、私が来るのを待っていてくれた。
 私が寒さを感じなかったあの日。蓉子はどれだけ長い時間、外にいたのだろうか? 彼女は私と同じように、寒さを感じなかっただろうか?
 もし私があのまま栞と外の世界に飛び出したのであれば、彼女はずっとあの時と同じように私を待ち続けたのだろうか?

 私は小さくため息をつくと、振り返って言った。

「待ち時間でお茶でも飲もう。わざわざ迎えにも来てくれたし、おごる」

 私は蓉子の返事も聞かずに、店のレジに並んだ。


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