【1788】 冷たい視線叶えて欲しい想い  (篠原 2006-08-16 05:59:11)


 がちゃSレイニーシリーズ。前回【No:1732】までのあらすじ
 瞳子の「白薔薇の蕾」宣言。乃梨子へのロザリオ返還要求。
 瞳子の言葉に凍りつく乃梨子。そこに割って入ったのは、瞳子の天敵と言われた可南子だった。
 激突する瞳子と可南子。その時乃梨子は――。
 今、ロザリオの行方をめぐり、新たな動乱の幕が上がろうとしていた………?



「何を今更」
 乃梨子は呟いていた。
 瞳子はぎょっとしたようにこちらを見た。あるいは、こちらを見てぎょっとしたのか。
 つまりあれか。
 きちんと自分の手から志摩子さんにロザリオを返して、その後であらためて祐巳さまからロザリオを受け取るということか。
 それは前に乃梨子が言ったことだ。あるいは言おうとしたことだ。ずっとそうなって欲しいと思っていたことだ。まったくもって今更だった。
 だからあれだけ言ったのに、聞く耳持たずに人にロザリオを押し付けて逃げ帰ったかと思えばいつのまにかちゃっかり祐巳さまのロザリオを受け取ったらしいし、いろいろと頭も心もごちゃごちゃしていたから簡潔に聞いた。
「つまり、直接白薔薇さまにロザリオを返して、その後で祐巳さまの妹になるということ?」
「ええ、そうです」
 瞳子は言って頷いた。はっきりと、そう言い切った。
 ようやく聞きたかった答えが聞けて、自分の中で張り詰めていたものが融けていく。
 ああやっとなのかと思ったら、涙が出た。安心して、気が抜けて、ついでに涙腺まで緩んでしまったらしい。
 それまでの睨むような視線にも怯むことのなかった瞳子が、うろたえた。
「の、乃梨子さん?」
 何か言われるのも嫌で、左手を突き出して瞳子の言葉を遮った。
 わかってる。
 勝手に心配して、やきもきして、悶々として、全て勝手にやったことだし、そもそも仕掛けたのもこちらだし、決めるのは瞳子自身だってこともわかってる。
 わかってるけど、心配したのだ。
 そして右手でポケットから出した(首にかけてはいなかった)ロザリオを手のひらに乗せてじっと見る。ばたばたしていて行ったり来たりさせて、なんだか申し訳ない気がした。もうちょっとで落ち着くと思うから。心の中で謝ってそれを握り締めると、今度は真っ直ぐ瞳子を見た。
 そのまま、黙ったままロザリオを差し出す。
 瞳子は両手で慎重に、大切そうにロザリオを受け取ると、頭を下げた。
「あの、乃梨子さん――」
 何か言いかけた瞳子を、教室の扉をビシッと指差して追い立てた。
「とっとと行って、今度こそさっさと話をまとめてこい!
 これ以上ぐだぐだやってたら、絶交してやるから」
「は、はい!」
 すっ飛んでいく瞳子を見送った乃梨子は、目のあたりを右手で覆い、左手を机についてがっくりと肩を落とす。
「ああ、もう……」
 何やってるんだか。
 人前で泣くはわめくは、最低だ。挙句の果てに絶交って………、子供か私は。
 自分では、もっとクールで何でもそつなくこなせる人間だと思っていたのに、なんかもうぼろぼろだし。
「……かっこ悪いったら」
「そんなことはないと思うけど」
 声に出すつもりはなかったのに、どうやら可南子さんには聞こえてしまったらしい。
 可南子さんはぽんと肩に手を置いたけれど、そちらを見ることはできなかった。
「でも、瞳子さんもさすがにすぐには無理じゃないかしら」
「え?」
 思わず、振り返る。
「もう時間ないもの」
 可南子さんの言葉を待っていたかのようにチャイムが鳴った。
「チャイムの後で白薔薇さまを呼び出すのはさすがに無理だと思うけど。やっぱり絶交するの?」
 悪戯っぽくそう言って、可南子さんは笑った。
 勘弁してよと思いつつ、キレイな笑顔だなと乃梨子は思った。
 きっともう、大丈夫だよね。そう思ったら、今度は無性に志摩子さんに会いたくなった。


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