表面上はあくまで笑顔のまま由乃は言った。
「【No:177】を読んでれば、こっちのタイトルの意味もわかるよね?」
「……『に』はまずいんじゃないかな」
「江利子さま、私の日傘、返していただけます?」
「ああ、これね。でも私は令から預かったから、令に返しておくわね」
「ええっ!?」
次の瞬間、自分の手の中に出現した日傘に令は驚愕する。
「それでは私はこのへんで」
「お姉さま!?」
「あら江利子さま、そんなにあわてて帰らなくても、是非ゆっくりしていってください」
おそらく由乃は始めて本気で江利子さまを引き止めようとした。
「いえいえ、二人のデートを邪魔しちゃ悪いし、ねえ令」
「えっ? いえ、あの」
ポンッと軽く肩を叩かれて、令はひたすら狼狽えた。
ってどうしてそこでまごまごするのよ。はっきりしなさいよ!
「それじゃあ、ごきげんよう」
「あっ、待てっ!」
一息で十間ほどの距離を詰めた由乃だったが、それより一瞬早く、江利子さまは離脱を果たしていた。
ちぃっ、逃がしたか。由乃の気が令ちゃんに向いた一瞬の隙をつくとは、さすがは先代。引き際は見事なものだ。
事態の推移についていけず呆然としていた令は、くるりと振り向いた由乃の目が光るのを見て我に返る。日傘はすでに令の手の中には無かった。
「……そういえば、タイトルに目的語がないよね」
恐る恐る言ってみる。
「それはすぐにわかるよ」
由乃はにっこり笑って右手を前に、日傘を持った左手が後ろに引かれる。
「左片手一本突き?」
「平突きよ」
「いや、日傘で平突きは意味が無いんじゃ」
「………」
しまったと思ったがもう遅い。
「令ちゃんのぉ……」
いや、それ死ぬから。本当に死ぬから!
「ぶわかーっ!!!」
弓から放たれる矢のごとく、由乃の全身全霊をかけた渾身の一撃が放たれるなか、令は思った。私にどうにかできるわけないじゃない。