【1848】 名前のない未来図山百合会終焉  (クゥ〜 2006-09-11 01:17:41)


 美夕第四弾。

 【No:1571】―【No:1618】―【No:1636】―今回





 祐巳は明かりのない暗い部屋の中にゆっくりと降り立った。

 そこは『福沢祐巳』の部屋。

 隣には弟の祐麒の部屋があり、一階には両親がいるはずだ。
 祐巳は机の前に立ち、そこに飾られた写真立てを手に取った。

 思い出の写真。

 朝のマリア像の前で祥子さまに呼び止められ時に撮られた、蔦子さん会心の一枚。
 あの時は、本当に驚いた。
 おかげで一つの場所に長居しすぎた。
 いつの間にか自分のことを人間などと勘違いして、本来の姿を忘れてしまうほどに。
 祐巳は写真立てを胸に抱くと、その手に炎を生み出し部屋に放つ。
 祐巳の炎は思い出が詰まった部屋のあらゆる物を飲み込んでいくが、不思議と壁も天井も焼くことなく。
 煙もなく。
 ほんの数回の瞬きの後には何もないただの空き部屋と成っていた。
 「……」
 祐巳は小さく頷くと、閉じたままの窓を何事も無く通り抜け、福沢家の屋根で待つ美夕の元に降り立った。
 「終わり?」
 「うん、もうここの人たちは娘のことは知らないわ」
 「そう……」
 「少し長居しすぎた……思い出がありすぎるのは困りものだね」
 そう言って祐巳は美夕に寄りかかり、ゆっくりと美夕は祐巳を抱きしめる。
 「貴女は人に近づきすぎる、今回も、あの時もそう」
 雨の止んだ空には半月の月が輝いていた。

 「わかってる、だから彼女達には私から話すから」

 そう言った祐巳を抱きしめたまま美夕と祐巳は姿を消した。




 「それでどうします?」
 「……」
 「どうすると言われても、そんなのわかんないよ!!」
 「……」
 あの雨の放課後から数日、志摩子さんたちは薔薇の館に集っていた。
 薔薇の館にいるのは志摩子さんと志摩子さんの妹である乃梨子ちゃんの白薔薇姉妹。
 令さまと由乃さんの黄薔薇姉妹に蔦子さんと真美さんのお二人。
 この場に祐巳は勿論、祥子さまの紅薔薇姉妹は居ない。
 あの日から志摩子たちは自然と祐巳と美夕を避けていた。
 どうやって接していいのか分からないからだが……。
 あの出来事が本当に遭った事なのかさえ分からく成ってきているのだ。
 日が経つにつれて曖昧に成っていく。
 その上、祥子さままでが学校に出て来なくなってしまった。
 おかげでまだ表立ってはいないものの、変な噂が立ち始めている。

 薔薇の館の分裂。

 それが蔦子さんと真美さんが聞いた話らしい。
 そして、更に由乃さんがもたらした話のおかげで志摩子さんたちは、迷うことに成っていた。
 由乃さんがもたらした話。
 それは意を決した由乃さんが福沢家に電話したことに始った。
 『祐巳』と言う娘はいない。
 それが祐巳の母親だったはずの人が言った言葉だった。
 慌てた由乃さんは令さまを使って弟のはずの祐麒に連絡をつけたのだが、そこで聞いたのは『祐巳』と言う姉はいないという話だった。
 それなのに夏の出来事や花寺の学園祭での出来事は覚えていて、そこにいないのに覚えているらしい祐巳の姿に悩んでいた。
 由乃さんにはそれら全てが信じられなかった。
 隣に美夕がいるとはいえ、祐巳は何時もと変わらないように登校してきているのだ。
 「信じられないわ」
 今まで黙っていた志摩子さんがようやく口を開く。
 「でも、事実なのよ!!」
 「だからってどうするの?祐巳さんに直接問いただしてみる?」
 真美さんの言葉に皆押し黙る。
 何時もは何かあるとイケイケ青信号の由乃さんでさえ、何も言わなくなってしまう。
 代わりに口を開いたのは蔦子さんだった。
 「ねぇ、真美さん、由乃さん」
 「なに?」
 「どうしたの?」
 蔦子さんは言葉を選ぶように話していく。
 「祐巳さんと思い出って覚えている?」
 「何を今さら」
 「沢山あるに決まっているでしょう?」
 蔦子さんは二人の言葉に首を振る。
 「高等部や山百合会での思い出ではなくって、中等部以前。初等部や幼稚舎での思い出」
 「初等部?」
 「幼稚舎?」
 「二人とも幼稚舎からのリリアンでしょう?」
 「「そうだけど」」
 「そして祐巳さんも幼稚舎からだったはずよね?」
 蔦子さんの言葉に考え込む由乃さんと真美さんだったが……。
 先に口を開いたのは由乃さんだった。
 「ごめん、その頃は祐巳さんだけじゃなく、他の人たちとの思い出もそんなにないから」
 「私は普通にあるけど、そうね祐巳さんとの思い出はないかな?」
 蔦子さんは真美さんの言葉に頷く。
 「そう、私も真美さんと同様に祐巳さんの思い出はない。普通なら大して親しくない同級生でも一つや二つあるはずなんだけどね……それで少し気に成って」
 蔦子さんは話しながら鞄の中から何かを取り出す。
 それはアルバムだった。
 「なに、初等部の卒業アルバム?」
 手に取った真美さんが呟く。
 「そう、その中に祐巳さんは居ない」
 蔦子さんの言葉に、真美さんが持っていたアルバムを由乃さんがひったくって中身を調べる。
 「よ、由乃さん」
 真美さんは少し非難めいた表情で由乃さんを見てから、志摩子さんと顔を合わせ横から二人で覗き込む。
 「ど、どういうこと!?」
 そこには本来なら無ければいけないはずの写真どころか、名前さえ載っていなかった。
 「蔦子ちゃん」
 令さまが皆にアップルティーを注ぎながら、蔦子さんを見る。
 「由乃さんからの情報を組み合わせれば分かることは一つです。祐巳さん……いえ、福沢祐巳と言う名の生徒は存在しない」
 「そ、それじゃ!!あの祐巳さまは何者なんですか!?」
 乃梨子ちゃんが叫ぶ。
 「それこそ本人に聞いてみないと分からないわよ」
 蔦子さんの言葉に薔薇の館に集った者たちはざわめく。
 「結論は、やっぱりそこに辿り着くのね」
 「仕方ないと思うわよ。こんなこと誰も信じないだろうし、本当なら紅薔薇さまの役目なんだから」
 「それはそうだけど……」
 「それに志摩子さんと由乃さんは大仕事を控えているでしょう?」
 「それは祐巳さんも同じはずなんだけど、祐巳さんどうする気なのか……」
 由乃さんと志摩子さんは顔を見合わせ溜め息をつく。
 「祐巳さんがどういう態度に出るのか、それは放課後にも分かることよ」
 「そうね、そして祐巳ちゃんが今何を考えているのかも少し分かるかも知れない」
 「どう言う事、令ちゃん?」
 由乃さんは令さまの淹れてくれたアップルティーに口をつける。
 「うん?……いや、ただそう思うだけ」
 そう言って令さまは窓の外を見る。
 校舎の方からは先ほどから時期生徒会選挙についての説明を放課後することを案内する校内放送が流れていた。




 花寺と交流があるとはいえ、事件に関する興味も関心も薄れてきたのか部活を開始するところも出てきたようで、薔薇の館の窓を開いていると部活生たちの掛け声が聞こえてくる。
 祐巳は一人窓辺に立ち、自分で淹れた紅茶に口をつけた。
 今、薔薇の館には祐巳しかいない。
 祥子さまも由乃さん、志摩子さんもいない。
 そればかりか美夕の姿もなかった。
 ここは今の祐巳に残された、たった一つの『福沢祐巳』の居場所だった。
 「来たか」
 祐巳が呟くと共にビスケット扉が開く。
 入ってきた人物は祐巳を見つけ驚いた表情で固まってしまった。
 「ごきげんよう、乃梨子ちゃん。どうかしたの?」
 「ゆ、祐巳さま……どうしてココに?」
 「あら、まだ一応は紅薔薇のつぼみのつもりなのだけれど?」
 戸惑う乃梨子ちゃんに祐巳は当然のように呟く。
 「な、なら、生徒会選挙の説明会に行かなくてはいけないでしょう!!」
 乃梨子ちゃんは少し真面目過ぎると思う。
 こんな状態の祐巳に少し説教気味に言うのだから、まぁ、それが乃梨子ちゃんらしいといえばそうなのだが……。
 「な、なにが可笑しいのですか?」
 つい笑ってしまい少し怒らせてしまったようだ。
 「ううん、何でもないよ。ただ、選挙の結果が出る頃には私はいなくなっているから出ても仕方がないの」
 「いなくなる?」
 「そう、それが決まりだからね」
 「ゆ、祐巳さま……貴女は何者なんですか?」
 乃梨子ちゃんの声は震えていた。
 それは由乃さんや志摩子さんが気にしているのに聞けなかった言葉。
 「ん?祐巳だよ」
 「バカにしています?」
 「違うよ、私は祐巳。福沢祐巳ではなく……祐巳。福沢の苗字はただの偽り」
 「意味が分かりません」
 「由乃さんから聞いたのでしょう?祐麒たちが私を知らなかったこと」
 祐巳の言葉に乃梨子ちゃんは押し黙る。
 「知っていらしたのですか?」
 「うん、ワザワザ、美夕が教えてくれたから」
 「美夕さまが……祐巳さま」
 「ん?」
 「祐巳さまは少し前まで、私にとっては良く知る親しい先輩でした。でも、今は得体が知れない」
 乃梨子ちゃんの中で徐々に生まれてきたのは祐巳に対する好奇心だった。
 祐巳に感じたことの無い不気味さ、怖さを感じていたがそれ以上に好奇心は膨らんでいく。
 「乃梨子ちゃん、ハッキリ言いすぎだよ。でも、それ以上は踏み込まない方がいいよ。それ以上は引き返せないことになるかも知れないから」
 「それでも聞きたいと言ったら……祐巳さま、もう一度聞きます。貴女は何者なんですか?それにあの雨の日に私たちが見たものは!?」
 ジッと冷たい目で祐巳は乃梨子ちゃんを見つめ、乃梨子ちゃんは知らない姿の祐巳に好奇心を募らせていく。
 祐巳の瞳がいつの間にか金色の輝きに変わっていた。
 ――カッチャ。
 祐巳は手にしたティーカップを置き、真っ直ぐ乃梨子を見つめる。
 「あれは、はぐれ神魔」
 「はぐれ神魔?」
 「そう、私が五十年近く前、この学園で逃がしてしまったの」
 戸惑う乃梨子ちゃんを見ながら祐巳は話を続ける。
 「神魔……神と呼ばれ悪魔と呼ばれた者の属。遥か昔に闇の奥に身を潜め眠りについた者たち。でも、その中に不意に目覚め人の世に迷い出てしまった神魔をそう呼ぶの、その者たちは闇に帰さなくてならない」
 「闇に帰す?」
 「そう、その役目を持ったのが美夕……そして私は美夕の娘にして妹」
 「監視者?娘?妹??」
 「そう……私は祐巳、監視者たる美夕に連なる……」

 「ヴァンパイア」

 祐巳の言葉と共に世界は赤と黒の世界へと変貌した。
 「ひっ!!」
 いつの間にか祐巳の姿もリリアンの制服ではなく、赤い着物に白い帯を締めたあの雨の日の姿に変わっていた。
 「こ、ここは!?」
 「ここが闇への入り口、美夕と私が住む本来の世界だよ。乃梨子ちゃん」
 ゆっくりと祐巳の手が乃梨子ちゃんに伸びる。
 乃梨子ちゃんは動けない、流石にこれほどの事態は予想していなかったのだろう。だが、祐巳は忠告した。
 戻れなくなるかも知れないと……。
 「くす、乃梨子ちゃん可愛いね」
 「ゆ、ゆ、祐巳さま!?」
 乃梨子ちゃんがこんな風に慌てるところは見たことが無い。
 「乃梨子ちゃんは、あの人に似ているね」
 「あの人?」
 「そう、今回の事件を引き起こしたはぐれ神魔から逃げ延びた私の大事な人」
 「祐巳さまの大事な人?」
 「……メイさまって言うんだけど、もう昔のことよ。ふふふふ」
 祐巳の唇がそっと乃梨子ちゃんの首筋に触れる。
 もう少し楽しみたいところだが……。
 「残念、時間切れみたい」
 「えっ?」
 祐巳はゆっくりと乃梨子ちゃんから離れ、周囲の光景が元に戻る。
 「あの……」
 「あぁぁ!!もう!!」
 そこに何故か怒りながら入ってきたのは由乃さんと志摩子さん。
 由乃さんが怒っている理由は分からないが、入ってきて祐巳を見つけると驚いた表情の後に睨みつけてきたところから、どうも祐巳が原因かな?と思える。
 「ごきげんよう、由乃さん、志摩子さん」
 「祐巳さん」
 「どうしてココにいるのよ」
 「もう、由乃さんまで……一応、まだ紅薔薇のつぼみだよ?」
 祐巳はそう言ってテーブルに置いたカップを手に取る。もう、中のお茶は冷めてしまっていた。
 「乃梨子、祐巳さんと二人でいたの?」
 「はい、来たら祐巳さまがいらしていて、ご自宅の話を少し」
 「そう……」
 志摩子さんは乃梨子ちゃんの言葉に少し黙り込む。
 「さてと、そろそろ行くね。乃梨子ちゃん、悪いけどコレお願いね」
 「は、はい!!」
 「ありがとう」
 乃梨子ちゃんにカップを任せ、祐巳は鞄を持つ。
 「祐巳さん!!」
 その時、志摩子さんが口を開く。
 「どうしたの志摩子さん?」
 「瞳子ちゃんが選挙管理委員会の説明会にやってきたわ。どうも選挙に出るみたいね」
 「えっえぇぇ!!」
 志摩子さんの言葉に、驚きの声を上げたのは祐巳ではなく乃梨子ちゃんだった。一方の祐巳はというと。
 「そう、わかった」
 それだけだった。
 「祐巳さん?」
 「ごめんね、でも瞳子ちゃんが選挙に出るのを誰も止める権利はないよね。それに、瞳子ちゃんが本気ならその方がいいかな」
 祐巳は視線を逸らし、皆に背を向ける。
 「どういう意味よ」
 由乃さんが静かに呟く、どうやらかなり怒っているようだ。
 「選挙に出ない気?」
 「……うん」
 「「祐巳さん!!」」
 志摩子さんと由乃さんの声が重なる。
 「ごめん、私、行くから」
 そう言って祐巳は鞄を持ったまま窓の方に歩いていき、そのまま窓に溶け込むように姿を消した。
 その様子を見ていた三人の表情が固まる。
 「……祐巳さん」
 力の無い呟きが聞こえた。




 少しして顔を出した令さまと令さまに引っ付いてきた蔦子さん、真美さんの三人を加えて、志摩子さんと由乃さんは乃梨子ちゃんに祐巳から聞いた話を聞いていた。
 「ヴァンパイアね」
 由乃さんは呆れたように呟く。
 「もう、祐巳さんが人間じゃないって言われても驚きはしないけどさぁ……なんでヴァンパイアなのよ?」
 由乃さんは饅頭の中が何でチョコレートなのよとでも言うように呟いていた。
 「ここはマリアさまに見守られた学園よ?祐巳さんはロザリオだって持っているし、ミサにだって参加している。しかも、日差しの中でも平気なヴァンパイアっているの?」
 そう言って由乃さんは窓の外を見る。
 夕焼け色に空が染まっていた。
 「いるんでしょうね。祐巳さんが嘘を言っていなければだけど?」
 「でも、信じられないわよ!!それじゃ、今までの祐巳さんて何だったのよ!?」
 由乃さんは、蔦子さんに言い返す。
 「祐巳さんの言葉が正しいなら『福沢祐巳』という人物を演じていた祐巳さんだったてことね。一年の頃から祐巳さんを見て追いかけてきたつもりなんだけどなぁ」
 蔦子さんは溜め息をつく。
 「『福沢祐巳』を演じていた祐巳さん?」
 蔦子さんの言葉に志摩子さんたちは動揺していた。
 「でも!!祐巳さんよ!!祐巳さんなの!!」
 「祐巳がどうかしたのかしら?」
 絶叫する由乃さまの言葉を聞き返したのは、突然現れた祥子さまだった。
 「さ、祥子」
 「紅薔薇さま?」
 突然、ビスケット扉を開いて入ってきた祥子さまにその場にいた全員が驚きを隠せない。
 「久しぶり、大丈夫なの?」
 「何時までもウジウジしてはいられないわよ。それに、祐巳のご両親や祐麒さんのことを聞いてはジッとしていられないわ」
 「そう、良かった。正直、祐巳ちゃんのことは私たちだけじゃ持て余すことだから」
 「令ちゃん?祥子さまに話したの」
 「うん、祐巳ちゃんのことだしね」
 由乃さんの言葉に令さまは頷く。
 「さて、祐巳のこと。私が来ない間に何が起こったのか聞かせて」
 祥子さまは何時の席に座り、そこに集まった面々の顔を見た。
 ……。
 …………。
 「そうなの……『福沢祐巳』と祐巳は違うのね」
 「と言うよりも祐巳さんが『福沢祐巳』という仮面を被って演技していたと言っていいでしょう」
 「だから、そんなこと!!祐巳さんは、祐巳さんよ!!」
 蔦子さんの言葉を、由乃さんは必死で否定しようとしていた。
 「そうね。祐巳は祐巳だわ」
 「祥子さま」
 祥子さまの言葉に由乃さんは笑顔に成る。
 「祐巳は私たちの知る『福沢祐巳』なのよ」
 「そうです」
 由乃さんは頷く。
 「だから『福沢祐巳』ではない『ヴァンパイア』の祐巳は居てはいけないのよ」
 「その通りです!!祐巳さんは祐巳さん。それ以外の祐巳さんは居てはいけない!!」
 祥子さまと由乃さんは笑った。
 フッと祥子さまと由乃さんの言葉を聞いていた乃梨子ちゃんは違和感を感じた。
 「そうですね。私は一年のときから祐巳さんを見てきました。それが違うなんてありえない」
 「祐巳さんは祐巳さん……皆に人気のある『福沢祐巳』であり紅薔薇のつぼみ」
 「ヴァンパイアなんて化け物がマリアさまのお庭に居て良い筈がありません」
 「し、志摩子さん?」
 乃梨子ちゃんが感じた違和感は徐々に広がっていく。
 「そうだね。偽者の祐巳ちゃんは居てはいけない。偽者は闇に帰して、本当の祐巳ちゃんを取り戻さないといけないよね」
 「れ、令さま?」
 乃梨子ちゃんは思わず立ち上がる。
 「ど、どうしたのですか!?」
 「あら、乃梨子はそう思わないの?」
 志摩子さんが優しい笑みを乃梨子ちゃんに向けるが、乃梨子ちゃんは惑っていた。
 ほんの少し、祥子さまと由乃さんが話している間に祐巳が『福沢祐巳』の偽者に変わってしまったからだ。
 そして、志摩子さんたちまでもがそれを受け入れた。
 「乃梨子ちゃん、ヴァンパイアなんて監視者なんていらないのよ。ここはマリアさまの庭なんだから、そんなのが居てはいけないの」
 祥子さまの声が、乃梨子ちゃんの頭に響く。
 乃梨子ちゃんは皆を見る。
 祐巳のお姉さまにして紅薔薇さまである祥子さま。
 祐巳のクラスメイトにして友人である由乃さん、真美さん、蔦子さん。
 由乃さんのお姉さまであり、黄薔薇さまである令さま。
 そして、乃梨子ちゃんのお姉さまであり。祐巳の友人である白薔薇さまの志摩子さん。
 皆、楽しそうに笑っていた。
 「ねっ、乃梨子ちゃん」
 祥子さまの声が再び響いたとき、乃梨子ちゃんは駆け出していた。
 「おかしい!?おかしいよ!!」
 乃梨子ちゃんには何が起こったのか理解できなかった。
 そして、乃梨子ちゃんが逃げ出した後。
 祥子さまたちがゆっくりと立ち上がって、乃梨子ちゃんの後を追う。

 乃梨子ちゃんは駆けていた。

 スカートが乱れようが、セーラーカラーが翻ろうが構わない。

 夕暮れの校内を走り回り。

 祐巳を探していた。

 「祐巳さま!!」

 そして、やっと見つけた祐巳の側には瞳子ちゃんが立っていた。





 言い訳。
 美夕ってホラーなので、それっぽくを目指しましたが……なってないよね。
 しかも題名に合ってないし、しかも長い?
 そういうところは笑って誤魔化すということで!!
                                『クゥ〜』


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