「志摩子さん?」
中庭に佇む志摩子さんの後ろ姿を見かけ、乃梨子は思わず声を掛けた。
びくん、と肩が跳ねる。
ばっと慌てて振り向いて、安堵の吐息をひとつ。
なにかに気を取られていたのか、珍しい反応。胸に手をあて鼓動を落ち着かせている志摩子さんは頬が朱に染まっていてとても可愛らしい。
「ごめん。驚かせちゃって」
「ううん、いいの。教室に戻るところよね。一緒に行きましょう」
志摩子さんの誘いに頷いて横に並ぶ。特に何かを話すわけでないのに、ただそこに志摩子さんがいることに心が安らぐ。しかしすぐに乃梨子は志摩子さんの様子がいつもと違うことに気付いた。表情はいつもの穏やかな表情なんだけど……。
乃梨子は何となく思ったことを尋ねてみた。
「志摩子さん。変なこと言うようだけど、なんだかとても幸せそう。なんていうかうきうきして大声で叫び出したい感じ」
志摩子さんはびっくりした顔で振り返り、とっても素敵な笑顔をくれた。
「乃梨子にはやっぱり判っちゃうのね。確かに私は幸せで大声で叫びたいのかも知れないわ。だって、すごく誇らしいのだもの。こんなにも頑張ったの、こんなにも素敵なのって自慢したくて、うずうずしてるの」
志摩子さんは言葉通り自慢げに胸を張り、とても幸せそうに笑った。乃梨子は、そんな志摩子さんを見ているだけで幸せで、だからこそ、その幸せを志摩子さんに分けて貰いたくなった。
「もし良かったら、誇らしいって、なんのことか教えてくれないかな」
すると志摩子さんは悪戯っぽく笑って、それはひょっとしたら私と由乃さんしか判らない感覚かも知れないけど、と断って……。
「――そっと後ろを見てみて」
そこには、ようやくロザリオを受けとった瞳子と、その頬を伝う涙をそっと拭ってあげている祐巳さまがいて――
「私の友人も、志摩子さんの自慢の友人が好きになるほど素敵ですよ」
乃梨子は笑顔で胸を張った。