「どういうことですか、江利子さま」
「だから、ここを立ち退いてほしいのよ。
兄がどうしても撮影に使いたいといって。わたしもこんなことしたくないのだけど」
「そ、そうなんだ。このどうじょうはじつにげいじゅつてきでぜひ」
「無理矢理いわせてるように見えますけど」
「なんのことかしら。それに、もうここはわたしのものなのよ。ここに権利書もあるのよ」
「そんな、お姉さま。ちょっと借りるだけと言うからお渡ししたのに」
「何やってるのよ!ばか」「ご、ごめん。いたたた」
「返してほしいなら、由乃ちゃんがこの兄に剣道で勝つのよ」「江利ちゃん。聞いてないよ、そんなの。」
「負けたら道場は有馬さんのところに売りはらうことにするわ」
「撮影の話はどうしたんですか」
「いいじゃない、細かいことなんて」
「細かくないし」
「分かりました」「ちょっと、令ちゃん」
「これはきっと由乃のためを思った試練なんだよ。がんばろう」
「そんなわけないでしょ」
「それじゃ、試合は一月後にね」
「ちょっと、待ちなさいよ」
このひと月はまるで走馬灯みたいだわ。菜々を呼んだら令ちゃんと2人ではりきって、最初の1時間で後悔したわよ。
「このギプスもうはずしてほしいんだけど」
「ぎりぎりまで鍛えほうがいいと思いますよ」
この調子だし。
「女の子は叩けないといって、逃げちゃったの。この分ならしばらくつきあわずにすみそうよ。
とにかく不戦勝おめでとう、由乃ちゃん。じゃ、またねー」