「祐巳ちゃん!」
「ぎゃっ」
祐巳は市立図書館に来ていた。
リリアンの図書館の蔵書はかなりの数だけど、それでも望みの本が見つからないことはあるのだ。
だから、祐巳は市立図書館に来ていた。
だから、祐巳は図書館で本を探していた
そうしたら突然、背後から抱きしめられたのだ。
「今日も怪獣の子供は健在だね」
「聖さま! こんなところで、そんなコトされたらびっくりするじゃないですか」
「だって、こんなところで、逢えるなんて思わなかったからうれしかったんだもーん」
「それにしても、何もこんなところで、しなくても良いじゃないですか。だいたい聖さまは………」
「図書館ではお静かに。他の方々の迷惑になりますから。」
祐巳が珍しく怒って聖さまに反撃を試みようとしたとき、その言葉は発せられた。
「あ、すみません」
市立図書館にいるのに、うっかりいつものリリアンにいる調子でやり取りしてしまった。
うるさいと怒られるのは当然である。
「それにしても、聖もずいぶん人付き合いがうまくなったようね。よかった」
「うそ………」
うそ………といって、絶句しているのは当然聖さまだ。注意してくれたこの方と、聖さまとはお知り合いらしい。
祐巳はいい加減離れてくれないかなと思っていたけれど、図書館に現れたその人物は、聖さまにとって、よっぽど意外な人物だったらしく、聖さまは祐巳を抱きしめたまま硬直していた。
そして、祐巳も聖さまの口からこぼれる次の一言で、固まることになった。
「お姉さま………」
「せっかくだから、お茶でも飲みましょうか? えっと、祐巳ちゃんも一緒にどうかしら?」
引きずられるように連れて行かれた喫茶店で、祐巳は不思議な光景を眼にすることになった。
「お久しぶりです。お姉さま」
「それにしても、聖がそんなに人付き合いがうまくなったなんて嬉しいわ。卒業の時、なんと言っても一番の気がかりは聖のことだったから」
「そんなお姉さま……」
「その子が聖の妹なのね。聖の世話は大変でしょうけど、頑張ってね」
「違います! お姉さま。祐巳ちゃんは……」
「聖の妹じゃないんでしょ。 それくらいわかるわよ」
あの聖さまが遊ばれてる…………。蓉子さまでも聖さまを何とか操縦するのがやっとだったのに、その聖さまを手玉にとって遊んでいるのだ。
上には上がいるとはよく言ったものだ。
それにしても、今日の聖さまは今まで見たことのない表情をいっぱいしていた。
はにかんだり、本気で慌てたり、あの聖さまが祐巳でもわかるくらいの百面相をしているのだ。
そんな聖さまは、今まで見たことがなかった。
それは、きっと久し振りにあったお姉さまに甘えているからなのかもしれない。
蔦子さんがいてくれたら、きっと良い写真が撮れただろうに。そう思うと、少し残念だった。
私も、祥子さまとリリアンを卒業してからも、こんな仲の良い姉妹でいたいなあ。
聖さまと聖さまのお姉さまを見ながら祐巳はずっとそんなことを考えていた。